第34話 悩みがわからない
その夜……
隆幸は祭りの練習に出ながら、今日あったことについて考えていた。
祭りのこと、遥華のこと、色んな事が頭の中でグルグル回る。
「何でこんなことになるんだろうなぁ……」
頭をかきながら考える隆幸。
そこに上から声がかかった。
「どうしたんだよタカ」
親友の羅護が横に座ってきた。
「何か色々とわからなくなってきた……」
「どうしたんだ急に?」
「いや、それが……」
そう言って今日あったことを話す隆幸だが、それを聞いて羅護は首をかしげる。
「どう考えたらいいかわからなくて……」
「俺はむしろ何でそんな悩み方するのかがわからん」
羅護はどちらかと言えばおバカ系で頭もよくないが、一方で細かいことは考えない男だ。
そう言ったことに悩んだことが無いので、流石に隆幸の悩みには乗ってやれなかった。
だが、そこは親友の羅護。代わりに有る物を見せた。
「そんなことよりもこれ見ろよ。馬鹿なことやってるぜ」
「うーん?」
羅護が見せたのは外国のやっちまった系写真だった。
金髪の外国人がアホな真似ばかりしてるのを見て笑わせようとする羅護だが……
「……何でこんな馬鹿なことやるんだろう? 仮にも先進国なのにどうして……何が原因なんだろう?」
哲学的な問いへと移行してしまい、更に考え込んでしまった。
それを見て呆れる羅護。
「ダメだこりゃ。どうにかならんかな……」
羅護が途方に暮れていると、京堂さんが通りかかる。
「あ、京堂さんすいません!」
「うん? どうしたの?」
くたびれた中年の京堂さんが不思議そうに羅護達の方を向く。
「いや、コイツが何か哲学的なこと考え始めて……」
「……何でそうなるの?」
苦笑する京堂さんだが、面倒見の良い彼はすぐに隆幸に尋ねる。
「どうしたのタカ君」
「すんません。京堂さん」
上からくたびれた京堂さんが覗いていたので携帯を見せる隆幸。
「何か、色んな事が頭の中でグルグルと回ってしまって……何でロシアってこんな感じになったんですかね?」
そこに書かれてあったのはロシアで起きた珍事件の数々であった。
とてもではないがまともな神経なら起きる事件ではない。
ソ連も変な国だったが、ロシアも変な国になっている。
だが、京堂さんはそれを見てふふっと笑った。
「あ~……あそこはソ連の時に文化が消滅しちゃったからねぇ……多分、それで常識とか道徳も無くなったんだと思うよ?」
「へぇ~……」
不思議そうにする隆幸。
羅護も不思議そうに尋ねた。
「何で文化が無くなると常識とか道徳が無くなるんですかね?」
「そんなの決まってる……これが無くなったからだよ」
そう言って地面を指さす京堂さん。
それを見てきょとんとする隆幸にくすりと笑う京堂さん。
「祭りが無くなったから常識とか道徳が受け継がれなくなったんだよ」
「……えっ?」
京堂さんの言葉に凍り付く隆幸。
羅護が不思議そうに尋ねる。
「何で祭りが無くなると常識や道徳が受け継がれないんですか?」
「だって、こういった時以外に親や教師以外の大人と会話する機会ってそんなにある?」
「……無いですね」
冷や汗を出しながら答える隆幸。
「じゃあ、どこで常識とか道徳とか習うの?」
「えーと……親とか教師とか……」
「親とか教師の常識や道徳は完璧なの?」
それを聞いてさらに凍り付く隆幸。
「大人も完璧じゃないから、親や教師の中にも不心得者は多々居るよ? それで完璧な道徳や常識を教えられる?」
「そう……なりますね……」
「大体、こういうのに子供を出したがらない親とか教師って束縛系の大人が多いよ? 自分の思い通りにならないと気に食わないって大人がまとも? その大人の教える常識が正しいと思う?」
「絶対違いますね」
「逆に子供の好きなようにやらせろって大人は何も教えないよ? そんな大人が子供に常識教えると思う?」
「絶対教えないですね」
それを聞いて震える隆幸。
実際問題、親を選んで生まれることは出来ないし、教師を選んで学校に入ることは出来ない。
だが、色んな大人に揉まれることで親や教師が知らないような常識を教えてもらえるようになる。
だから、昔の若者は常識を知っていたのだ。
常識や道徳を学ぶ場が無くなれば自然と教える機会は無くなる。
学校では学べない常識や道徳を学ぶのがこういった場なのだ。
驚く二人に京堂さんはにやりと笑う。
「常識や道徳はね。親から子へと受け継がれる他に、文化を通じて他の大人からも受け継がれるんだ」
そう言って目を細める京堂さん。
「最近……色んな会社に派遣で行ってるけど、祭りに行ってる子と行ってない子は一発でわかるよ」
「何故です?」
不思議そうに隆幸は不思議そうに尋ねた。
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