第33話 『正しい』はどこに?


 そして放課後……


 隆幸は電車の外の様子を見ながら、一人考えた。

 田舎町だが、それなりに人も多く、田舎町として栄えている金沢の町並みが少しずつ、田んぼが増えてきて、やがて、自分の町に入ると一面が田んぼになる。


(あいつの話だと、ここに高層ビルが立ち並ぶんだよな……)


 とてもそんな風には見えないのどかな田園風景をぼーっと眺める隆幸。


(未来に宗教は無くなると言うが、未来で祭りをやっていたなら、神社は残ってる……)


 彼らが描いていた未来は嘘となる。


(先生は残そうとしない文化は残らないと言った……誰かが残そうとしたから祭りは残った……それも千年もの間ずっと切れ目なく続いた……)


 か細い……本当にか細く、残すのも難しかっただろう。


(途中で戦争もあったみたいだし……俺が本当に英雄になるかどうかは別だけど……)


 流石にその辺の話を彼は信じてなかった。

 最初に祭りを見たいあまりに嘘を吐いたツギオを信じる気にはなれなかった。

 ただ、流石に千年もあれば日本が戦争していてもおかしくはないのも事実だ。

 時の流れは常に残酷なのである。


(ツギオの祭りを見たい気持ちとか情熱は本物だった……)


 だからツギオの言うことは話半分でも隆幸は信じた。


(この祭りも800年続いてる……僧兵が京都に神輿残したのが理由だからな……)


 歴史の教科書に載る源平合戦の始まりの一つである。

 国司の横暴に抗議するために神輿担いで持って行った話だ。


(先輩曰く、勢いで持って行ったけど重すぎて持って帰るのが嫌になっただけだろうって話しだが……如何にも俺達の先祖らしい)


 勢いでああいう真似をするところは昔も今も変わらないようだ。

 そしてあることに気付く。


(……あれ? ひょっとして今までも存続が難しくなることが多々あったんじゃ……)


 隆幸は指を折って考え始めた。


(源平合戦の最中もそうだし、蒙古襲来、南北朝争乱、戦国時代、江戸時代でも飢饉があった……)


 幾度となく大きな戦争もあった。

 町の側を流れる手取川の名前の由来も上杉謙信が柴田勝家に圧勝したことが名前の由来だ。

 言い方を変えるとすぐそばで大きな戦もあった。


(本当に800年の歴史があるかどうかは疑わしいが……少なくとも存続が難しいことがあったのは一回や二回じゃない……)


 技術や経済が発展した現代よりもよっぽど生活に苦しい時代である。

 祭りをやるのも並大抵の気持ちでは出来ないだろう。


(そして……これから千年残すのも並大抵の苦労では出来ない……)


 彼はよく理解していなかったが、宇宙人とも交流するようなので、簡単にはいかないだろうと言うことは理解できていた。


(どうやって残ったんだ?……)


 隆幸が真剣に考えていたその時だった。


ガタン!


 電車が大きく揺れた!

 すると……


「きゃあ!」


 自分の上に何か柔らかいものが覆いかぶさってきた。

 膝の上に乗ったそれと目が合う。


「……よっ!」

「いつの間に……」


 遥華だった。

 気まずそうに『おっすオラ悟〇』のポーズを取る遥華。

 おもいっきり対面座位の姿勢なので恥ずかしいことこの上ない。

 遥華が恥ずかしそうにゆっくりと膝から降りて、横に座る。


「あははは……」

「俺の上に乗るならパンツ脱いでからにしてくれ」

「やかましい」


 そう言って隆幸の頭をはたく遥華。


「じゃあ、上を脱いでからに」

「それじゃあたしが痴女じゃない!」


 そう言って再びはたく遥華。

 その瞬間、向かい合ってふふっと笑い会う二人。


「あの頃はいつもこんな感じだったね」

「結局、一回も脱いでくれなかったな」

「当たり前でしょ!」


 そう言って頭をはたく遥華。

 そして、心配そうに尋ねた。


「どうしたの? 何か考え事してたみたいだけど?」

「……そんなのどうでもいいだろ……」


 口を尖らせてプイっと横を向く隆幸。

 すると再びしゅんっとする遥華。


(……言い過ぎたかな?) 


 流石にちょっとやり過ぎたと思って、話しを変えようと隆幸は言った。


「……ほんで、前の話どうなったの?」

「……前の話?」

「ほら、ダイエットの話……」

「あ~……あれのこと……」


 苦笑する遥華。


「どうせ失敗したんだろ?」

「あはははは……」


 乾いた笑い声をあげる遥華。


「まあ……5キロやせたんだけど……」

「……あれで痩せたのか?」


 あきれる隆幸。


「野菜どころか肉も足して食ってるのに痩せるとは……」


 理解できないと言った様子の隆幸だが、遥華は言った。


「タカは自分に厳しいから、それでも出来るんだよ……」

「でも余計なもの足して上手く行くとは……」

「普通の人は何か楽しみが無いと出来ないよ」

「……えっ?」


 隆幸はきょとんとしたが、遥華は続ける。


「ただやっても誰も続かないよ。色んなことやらないといけないんだし。肉をローテーションで入れると御飯のバリエーションが増えるから飽きないもん」

「まあ……そうだけど……」


 納得がいかない顔になる隆幸だが、遥華は言い続ける。


「誰でも続けられるやり方じゃないと続けられないよ。そりゃあ……タカは出来るかもしれないけど、それじゃ私は出来ないよ?」

「えーと……」


 若干、ムッとしている遥華に言いよどむ隆幸。


「タカはいつも厳しすぎ。完璧に何でもやろうとし過ぎ。失敗したっていいじゃない。完璧なやり方っていつも難しくて真似できないものばっかだし、続けられないものばっかり。そんなの無理に決まってるでしょ?」

「……えっ?」


 言われたことにドキリとする隆幸。


「別に……一回ぐらい失敗しても大学受験で取り戻せばいいじゃない……なのにカッコ悪いとかそんなことばっかり気にするんだから……」


 そう言って口を尖らせる遥華と言われるままになる隆幸。


「それっぽい言い訳ばっかりして前に出ない今の隆幸は……正直カッコ悪い」


 遥華の痛烈な言葉に何も答えられない隆幸。


「次は~終点金剣~金剣でございます~」


 電車のアナウンスが流れても呆然とする隆幸。


「もう行くから」


 怒り気味に言って立ち去る遥華。

 隆幸はしばらくの間、呆然と眺めていたが……駅員に言われて立ち去った。


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