第23話 縁

 

 そして数分後……


「………………」


 仏頂面で練習を手伝う隆幸が居た。

 流石に無理矢理参加させられて不貞腐れる隆幸。

 練習しているツギオを見ているのだが、その様子は嫌々である。

 すると、一人のおじさんが声を掛けてきた。


「さっきは怒られてたねぇ」

「めっちゃ怒られました……」


 ムスッと答える隆幸に声を掛けたおじさんが力なく笑う。

 髪の短いやつれたおじさんで穏やかそうな空気が漂う人だ。

 隆幸は声を掛けたおじさんに尋ねた。


「京堂さんも今年は出るんですか?」

「ああ。と言っても君と違って自主的にだけどね」


 そう言ってクスリと笑う京堂さん。

 

「君も色々あって祭りに出にくいんだろうけど、出た方が良いよ?」

「……話は聞いてるんですか?」

「軽くね。詳しくは突っ込むつもりはないよ」


 そう力なく笑う京堂さん。


「変な意地はらずに付き合ってしまった方が良いと思うけどねぇ……」 

「…………」


 むすっとした顔で答える隆幸に苦笑する京堂さん。


「この年になるとわかってきたことがある。『縁』には限りがあると」

「……何すか?」


 むすっとしたまま相槌を打つ隆幸。

 その様子を京堂さんはフフっと笑う。


「僕はがむしゃらに働いてきた。朝から晩まで仕事仕事でそうすると何かが手に入ると思ってた……」

「……仕事に頑張るのは当たり前じゃないですか?」

「当たり前だよ。でも一生を犠牲にしていい物じゃない」

「…………???」


 言っていることの意味が分からずに首を傾げる隆幸。


「プライベートまで犠牲にすると一生を犠牲にするってことだよ」

「えーと……でも仕事に私情を挟むのは良くないのでは?」

「仕事中に私情を挟むのはダメだけど、プライベートを犠牲にするのは意味が違う」


 悲しそうに答える京堂さん。


「僕は仕事にプライベートを全部奪われて……仕事まで無くなって……後には何も残らなかった……」

「……京堂さん?」


 京堂さんの言葉に訝し気な隆幸。

 

「そうなったからと言って彼らは責任を取らない。君の人生は君の物だ。嫁さんも貰えずにただ働くだけの人生になってしまう。今のままだと折角の『縁』が切れちゃうよ?」

「えーと……」


 言ってることの意味が分からずにきょとんとする隆幸。

 その様子を見てふふっと笑う京堂さん。


「可能な限り縁は繋がっておくものだ。後から縁を戻そうとしても簡単にはいかない。繋がっている内に強くしていかないと本当に全ての縁が切れてしまう」

「えーと……」


 完全に訳が分からなくなった隆幸を見てふふっと笑う京堂さん。


「ちょっと難しすぎたかな?」

「すんません。よくわからなかったです」

「ふふふふ……」


 困り顔の隆幸に苦笑する京堂さん。

 隆幸の頭をぽんっと優しくたたく.。


「今ある時間は無限じゃない。今ある縁は無限じゃない。『祭り』と言うのはこうやって上の世代の失敗談も聞ける場なんだ。僕のように『必要なことだけをやる人生』は損しかしないって事だよ」

「……えっ?」


 思わぬ言葉にぎょっとする隆幸。


「祭りに出るのは何もおっさん達の為だけじゃない。君の為にもなるんだ。頑張って出なさい」


 困惑する隆幸を尻目に京堂さんは去って行った。


「何だったんだ?」


 不思議そうな顔の隆幸。

 すると、後ろから声がかかった。


「その……タカ?」


 後ろで遥華がぎこちない笑顔を浮かべている。


「どうした?」

「ちょっと相談したいことがあるんだけど……良いかな?」


 ぎこちなくお願いする遥華。

 その様子を見て隆幸は少し考えた。


(縁は大事にか……)


 京堂さんに言われたことが気になる隆幸。


(ちょっと……努力してみるか……)


 少しだけ考え直した隆幸はこう言った。


「別に良いよ。何だ?」


 それを聞いた遥華はパッと顔を輝かせた!


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