第19話 刀剣乱雑
隆幸が家に帰ると出迎えたのはツギオだった。
「お帰りー♪」
「……ただいま……っておい!」
ツギオの姿を見て驚く隆幸はツギオの持っている『物』を指さして怒鳴った!
「日本刀なんが持ち出すんじゃない!」
「ちょっとぐらいいーじゃん」
「よくねぇ!」
そう言って慌てて刀を取り上げる隆幸。
持っていた鞘に慎重に納めて怒鳴る。
「迂闊に持ち出したり、盗まれたら大変なんだぞ!」
当り前だが、日本刀を外に持ち出したら立派な犯罪である。
とは言え、美術品なので許可を取っている人が持っている分には許されるが、取り扱いや所有には厳しい。
日本刀を置いてある仏間に持って行きながら尋ねる。
「誰が出した?」
「おばさん」
「お母さん! 何やってんの!」
「ちょっとぐらい良いじゃない。興味あるって言ってるんだから」
何本もの刀を仏間で広げて呑気な事を言ってる久世母。
実際にはそんな単純な話では無いのだが、旦那の趣味に興味の無い奥方にありがちな対応である。
すると、ツギオはぽんっと手を打った。
「そうそう! それで変な物見つけたんだけど……」
「あーそうかい。じゃあ、俺は部屋で休み……」
「こっちこっち」
「袖引っ張るな!」
結局連れていかれる隆幸だが、ツギオの指さした物を見て眉を顰める。
ツギオは一振りの刀を手に少しだけ刃を見せた。
「この刀……どこで手に入れたの?」
「それか……」
苦い顔になってポリポリと頭をかく隆幸。
ツギオの見せた刃は日本刀なのにくすんだ灰色をしていた。
どちらかと言えばステンレスのような質感である。
刃は付いているのだが、そこだけきらりと光っており、鍔元に『伝統』の文字が彫られていた。
さらに言えば鞘にはグリフォンが描かれており、明らかに中二感満載の日本刀である。
「ちょっと意味が分からなくて……」
「だろうな。俺も意味がわからんし」
「……へっ?」
不思議そうな顔になるツギオ。
「爺さんが死ぬ間際に何を思ったのか、その刀を注文したんだよ」
「……おじいさんが?」
ますます不思議そうな顔になるツギオ。
隆幸は困り顔で答えた。
「ステンレス鋼を日本刀の形に打ち、柄の部分はPRF?とか言う強化プラスチック。刀身にはえーと窒化水素?を焼結させたとか何とか」
「えぇ……」
今度はツギオが困り顔になってしまう。
何から何まで最新素材である。
同じように困り顔で答える隆幸。
「最新素材を全部使ってて、銘には『伝統』の二文字。はっきり言って意味が分からん」
「どういう意味なんだろう?……」
同じように首を捻るツギオ。
ちなみにお母さんは難しい話しになったので台所へ行った。
隆幸は不思議そうに刀を見る。
「俺も聞いたよ。『何でこれが伝統なの?』って」
「そしたらどうだった?」
「えーと……確か……」
天井を見ながら思いだそうとする隆幸。
「ヒントをやろうって言って『今の時代、刀を作るとすればこうなるだろう』ってさ」
「ふーん……」
不思議そうに首を捻るツギオであった。
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