第18話 帰りの電車


 そして夕方……


(なんか色々心理的にぶん回されるなぁ……)


 首を傾げながら帰りの電車に座ってゆっくり考える隆幸。


(祭りが『無駄』か……)


 先生の言葉と友人の言葉が妙に心に刺さって、それが彼には凄く気になった。


(なんでか知らんけど、妙にそういった事が気になるな……………………)


 悶々としながらもそのことについて考える隆幸。


(確かに生活するのに必要かと思えば要らないよな……実際に祭りと関わらずに生活できる人の方が多いし……)


 確かに生きるのには必要ではない。


(むしろ、無駄な労力や時間やお金を使っていると言えるけど……)


 確かに祭りはコストが高い。

 飲食費も凄いことになるし、衣装や色んな物にお金や労力を使う。


(何のためにやってんだろ?)


 そんなことが物凄く気になってしょうがないのだ。

 だが、考えても答えが出ない。


(何なんだろうなぁ……)


 そんなことを考えて、ふっと頭を上げる。

 そして正面に座っている女の子に気付いた。


(あっ……)


 遥華だった。

 向こうはすでにこっちに気付いていたのか手を振っていた。

 そして、微妙な笑顔を浮かべてそそくさと隣へ座る。

 

「あははは……」

「よう……」


 気まずい笑顔を浮かべる遥華。

 それを見て苦笑する隆幸。


(……言いにくいお願いあるみたいだな……)


 遥華の乾いた笑顔で察する隆幸。

 付き合いが長い相手だからこそわかるのだ。

 遥華が言いにくそうに声を上げた。


「あー……元気?」

「……元気だよ」


 遥華の微妙な笑顔に微妙な顔で答える隆幸。

 何となく話が続かず、どうしようか困る二人。

 だが、最初に言い出したのは遥華だった。


「ひょっとして太った?」

「……そうかな?」


 思わず自分の姿をマジマジと見る隆幸。

 特に違いは無いように見えるが、最近は運動をあまりしていない。


(ちょっと太ったか? 昨日振った時も汗かいてたし……)


 運動不足が気になってくる隆幸。

 すると、遥華がクスクス笑う。


「ダイエットした方が良いかも?」

「むぅ……」


 言われて少しだけ困り顔になる隆幸。

 遥華は続けていった。


「私も最近ダイエット始めちゃった。お腹周りの肉が気になっちゃって……」

「そんなに太ってないだろ?」

「ありがと。でもこれ以上太りたくないの!」


 そう言ってちょっと口を尖らせる遥華。

 割と意固地な所のある女の子でもあるのだ。


「でもちょっと減ったかも? 毎朝野菜スープだけだし……」

「……少なすぎんか? 足りるか?」


 不思議そうに尋ねる隆幸だが、遥華は少しだけどや顔になる。


「ローテーションで肉とかシーフード入れてるから」

「……そこで台無しになってんじゃねぇか!」


 ツッコミを入れて笑う隆幸。

 

「そんなん入れたら意味ないやろ? 無駄なもん入れてるぞ?」

「……あははは……」


 そう笑う隆幸だが、それを聞いて苦笑いになる遥華。


(……なんだ?)


 変な苦笑いが気になった隆幸だが、遥華はそのまま言った。


「そんなこと無いよ。ちゃんと必要なものだよ?」

「いらんと思うけどなぁ……」


 そう言って首を傾げる隆幸。

 そしてそのまま黙り込んでしまう二人。


「「……………………」」


 微妙な空気が漂う中、遥華がぽつんと切り出した。


「あのさ……祭り出るの?」

「……出ないつもり」


 ぶっきらぼうに答える隆幸。

 すると、悲しそうな顔になる遥華。


「そのあたしが出るから……出にくいの?」

「……そんなんじゃねーよ」

「だったらさ……」

「そうじゃない」


 ぴしゃりと言い放つ隆幸。


「ただ……出なくても良いかなって思ってる」

「……何で?」


 悲しそうに尋ねる遥華に答えに窮する隆幸。

 隆幸はぼそりと言った。


「だって、あんなの意味無いし……」

「意味ならあるよ?」

「どんな?」


 それを言われて答えに窮する遥華。

 すると車内アナウンスが流れた。


『次は~終点~金剣~金剣です~ご乗車~有難うございました~』


キキキキィ……………………


 電車が軋み音を立てて駅にとまる。


「ほら、降りるぞ」

「う、うん……」


 そう言って二人はおり始めた。

 その日、隆幸は帰り道が被らないようにわざと遠回りして帰った。


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