第17話 渋谷の怪人


 一方、その頃……

 隆幸の親父さんは仕事をしていた。


「警部。連絡です。資料ですのでファイリングお願いします」

「わかった」


 久世父は若い警官に渡されたファイルを読んでみる。

 久世父は警部なんだが、少々荒っぽい性格でこの資料課に送られたのだ。

 だが、元々出世に興味の無い久世父は「楽でいい」とそのままここに居ついてしまった。

 いつもはのんびり資料の整理をするだけの楽な仕事なのだが、今日は少し違った。


「なんだこりゃ?」


 目の前の事件の内容を見て首を傾げる久世父。


『渋谷ハロウィン殺人事件』


 と書かれてあるファイルだ。


(いきなり現れた謎の大男がロードローラーを持ち上げて4人殺しただと?)


 不穏当な説明文に眉を顰める久世父。

 それも内容が荒唐無稽な内容に頭を抱える久世父。


「ロードローラーを持ち上げるってどういう意味だ?」


 不思議そうに首をかしげていると、声を掛ける男が居た。


「久世。どう思う?」

「課長……」


 資料課の課長だった。

 ちなみにこの方もこの資料課が楽なので居ついた人だが、今日はちょっと違っていた。


「この事件……何が起きたかわかるか?」

「全く分かりません」


 不思議そうにする久世父だが、課長はPCを使ってテレビで撮られた事件の動画を見せる。

 それを見て、口をぽかんと開ける久世父。


「……………………何これ? 加工動画ですか?」

「残念ながら本物だ。こっちは警視庁が捜査で手に入れた防犯カメラの映像だ」


 そう言って、警視庁のデータベースにアクセスして防犯カメラの映像を見せるのだが、全く同じ内容で差が無かった。

 ちなみにこの時代にユーチューブはあるが、まだ一般的ではない。


「……アメコミヒーローですかね?」

「……そうとしか言えんな……」


 無茶苦茶な殺人方法に凍り付く二人。


「本当にロードローラーを持ち上げて落とすとは……轢いてないだろこれ? 叩き潰してる……」

「ロードローラーで叩くという発想は中々出てこんわな……」


 久世父の言葉に課長は困り顔でぼやく。


「犯人は未だに捕まっていない。どうも運動神経が良いらしく10階建ての屋上に、ひとっ飛びしてビルからビルへと跳んで逃げて行ったらしい」


 そう言ってビルの間を跳んで逃げていく映像を見せる課長。


「それは運動神経が良いで終わる話ですか?」

「終わらんわなぁ……」


 冷や汗を垂らす課長。


「こいつは漫画から出てきたような化け物だ。だが、こんなのがうろついてるとなると流石に洒落にならん。こんだけのことが出来る奴なら行動範囲も広い。東京の事件だが、こちらでも厳重に気を付けろとのことだ」

「わかりました……来たところで何もできそうに無いですけど……」


 流石にそう言うのが精いっぱいの久世父。

 そう言って課長はいつもの仕事に戻ろうとするが、ちょっと笑って言った。


「一応聞くが、心当たりは何かあるか?」

「あるわけないでしょう」

「だよなぁ(笑)」


 そう言って笑いあう二人だが……


(うん?)


 一つだけ心当たりがあることに気付いた。


(あの子が関係あるのか?)


 自分の家に心当たりが居ることに気付く久世父。


(いくら何でも関係ないと思うが一応確認してみるか。さてと仕事仕事と……)


 そう考えて、仕事へと頭を切り替える久世父であった。

 

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