第11話 貨幣価値
一方、一方的に帰ると宣言して帰り始めた隆幸とツギオだが、当然ながらツギオは文句たらたらだった。
「ねえタカぁ~……もうちょっと居ようよぉ~」
口を尖らせて抗議するツギオだが、隆幸はそっちをジト目で睨む。
「今日は顔見せだけって言ったろ? あと忘れてるかもしれんけどお前を受け入れるってまだ決めたわけじゃないからな」
「え~? でも団長さんは良いって言ってたよ?」
「だからそれだけじゃ……」
ブォン! ブォン! ブォォン!
「ちっ! うるせぇな!」
言いたいことを暴走族に遮られて吐き捨てる隆幸。
ツギオが不思議そうに尋ねる。
「今の何?」
「暴走族だよ。うるせぇ音立ててアホみたいにバイクで走ってる連中だよ」
「へぇ~」
感心するツギオだが、隆幸は一つ尋ねた。
「お前はどこに泊まるつもりなんだ?」
「ほら、お金は持ってきたよ? ちゃんと紙幣で500万ほど。これだけあればホテルに泊まり放題でしょ?」
「……確かに泊まり放題ではあるな……よくそんなに金持ってるな?」
眉一つ動かさずにジト目で睨み続ける隆幸。
ツギオは嬉しそうに言う。
「だって未来だとインフレが進んで貨幣価値が下がってるから」
「ふーん……じゃあ、ジュース1本で幾らだ?」
「大体……百万円ぐらいかな?」
貨幣価値は丁度1万倍差である。
コイツが持ってきたお金は500円玉握りしめて駄菓子屋に来てるのと一緒であるが、もっと大きな問題がある。
「その紙幣……今の時代で使えると思うか?」
「……あっ……」
それを聞いて凍り付くツギオ。
確かに500万円はこの時代では大金だし、あればかなり遊べるだろう。
だが、紙幣の価値は国が保証している。
当り前だが……まだ発行していない紙幣の価値など国が保証するわけがない。
ようやく現実に気付いて焦り始めるツギオ。
「どどどどどっどどどどどどどどっどどどどうしよう! タイムマシンとか駐車場に置きっぱでも払えるお金あるって思ってた!」
「どんだけ考え無しなんだよ! 言っとくが誰かの家にご厄介になるしか無いんだぞ!」
「ええっ!」
思いっきり驚くツギオ!
……と思ったら、いきなりニヤリと笑う。
「なーんてね♪ そんなこと考えてないと思った?」
「……ちょっ待ておい?」
イラッとする態度に思わず口調が荒くなる隆幸。
ニヤニヤ顔でツギオは言った。
「僕の端末に過去の競馬、競輪、競艇、宝くじ、株式の記録入れておいたから。お金を借りさえすれば荒稼ぎ出来るよ!」
そう言ってにやにや笑って懐から先ほどの携帯端末を取りだすツギオ。
どや顔でそれを見せるのだが、隆幸はジト目で睨む。
「未成年が賭け事の券とか株が買えると思ったか?」
「……えっ?」
流石にここまでは予期していなかったようで、今度こそ顔が青くなる。
青くなるツギオに静かに言う隆幸。
「金を借りるのも問題な年齢で何ができる?」
「……どうしよう……」
顔を青くするツギオだが、隆幸はにやりと笑う。
「とは言え、親父なら買うことが出来るから、買ってもらえばいいだろ。親父に連れて行ってもらいな」
「良かった……」
ほっとするツギオ。
それを見てニヤニヤ笑う隆幸。
「未来人って言っても賢い訳じゃないみたいだな」
「別に未来人だからって知能が高い訳じゃないよ……低すぎる人間が少ないだけで……」
口を尖らせるツギオ。
すると逆ににやりと笑って言った。
「それを言うなら古代人ってもっと直情的だと思ってたけど、タカは奥ゆかしいんだね」
「どういう意味だよ?」
「さっきの女の子の事。ハルカだっけ?」
それを聞いて顔を歪ませる隆幸。
それを見て「してやったり」とニヤニヤ笑いながらツギオは言う。
「好きなのにあんな態度取っちゃって……そういうのを何て言うんだっけ? ドメスティック?」
「……そんなバイオレンスな言い方はしねーよ」
流石にいらっと来て怒る隆幸。
そしてぶっきらぼうに言い放つ。
「顔合わせは終わったから明日からはお前ひとりで行けよ」
「ええ~! なんでぇ~!」
「うるせぇ! おれは行きたくねぇ~んだよ!」
「一緒にやろうよ~」
「絶対やらん!」
「う~……」
若干涙目になるツギオだが、そうこうする内に家に着いた。
隆幸は一言だけ言った。
「一応、親父に行って家に泊まれるようにしてやっから。さっきの競馬云々の話は親父と話しとけよ」
「う~……わかったよ」
ぶー垂れるツギオを見ないふりして隆幸は家の玄関の扉を開け……その瞬間凍り付く。
「ぶふぉぁ……」
父親が中空に浮いて吐血していた。
あまりのことに打ち震える隆幸。
「一体何が……」
慌てて父親の下を見ると母親が左手を掲げており、父親を左手一本で持ち上げているようだった。
さりげなく男前な顔になる久世母。
「今が夜なら死兆星が見えておるわ」
「おかん……今は夜だぞ?」
「ここが外なら死兆星が見えておるわ」
隆幸のツッコミで言い直す久世母。
久世母はそのまま久世父を床へと放り捨てる。
慌てて駆け寄る隆幸。
「親父! しっかりしろ親父!」
「た、隆幸か……お父さんはもうだめだ……」
「親父!」
「みぞおち殴ったぐらいで大げさな……」
「おばさん。一撃で大の男を持ち上げるほどの威力は大げさじゃないよ?」
さらっと突っ込みを入れるツギオと聞かないふりをする久世母。
久世父が震えながら言う。
「見える……北斗七星の隣にある太陽みたいに輝く星は何だろう……」
「それ死兆星だから! ここは家の中だから! 星なんて見えないだろ!」
そう言って揺さぶる隆幸だが、久世父は満足そうな顔で笑った。
「最後に……片町のオッパブに行きたかった……」
「親父ぃぃぃ!!!」
ガクンと頭を垂れる久世父に叫ぶ隆幸。
すると、久世母が静かに言った。
「あ、そうそう。この子はうちで預かることにしたから。あんたも一緒に面倒みなさいよ」
「おばさん。あっさりし過ぎ」
「どうせ死んだふりよ。これぐらいで死にはしないわ」
平然と言い放つ久世母に『金剣町の女は昔から強いんだなぁ』とツギオは呟いた。
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