第12話 吸血鬼太閤マロ


 さて、彼らが田舎町で色々話していた頃……

 日本一の大都会の東京渋谷ではハロウィンが開催されていた。


「ご覧ください! 渋谷では今、コスプレした人達でにぎわっています!」


 テレビ局のアナウンサーが嬉しそうにリポートしている。

 実際、非常ににぎわっており、人々が思い思いの仮装で遊んでいるので楽しそうである。

 だが、こういった場所では必ず現れるのは悪乗りし過ぎた者と派手に目立とうとするものである。


 渋谷スクランブルから少し外れた場所で、ちょっとしたトラブルが起きていた。


「行くぜ! HEIAN狂ライブでおじゃる!」


 そう言って平安貴族みたいな恰好をした男たちがロードローラーの上で勝手にライブを始めていた。


「ぶーぶー!」「ひっこめ!」「さっさと片付けなさい!」


 周りの通行人や警備員が必死で止めようとしている。

 どうやら、売れないマイナーメタルバンドのようで、平安貴族の服を着ているが、口に牙を生やしていたり、血のりを顔に付けていたりしてる。

 どうもデスメタルの亜種のようでやってることがちぐはぐである。


「じょぉねぇつの♪ むぁっくぁなばぁらうぉ♪」

「耳が腐る!」「ひっこめ!」「誰かあのアホ止めろ!」


 へたくそな歌をたれ流すバンドに周囲から罵声が飛ぶが、本人たちは平然としたものだった。

 リーダーらしき公家顔に麻呂眉の化粧をした男が笑う。


「ほーほっほっほ! 前回は軽トラだったからひっくり返されたので、今回はロードローラーを用意したのでおじゃる! 吸血鬼太閤マロのライブは止められないでおじゃる!」


 どうやら前科があったらしいマロと名乗った男は、その後もへたくそな音楽を流し続ける。


「君たち! いい加減に出ていきなさい!」


 とうとう警官までが現れて注意するようになった。


「嫌でおじゃる! マロの音楽で世界征服するでおじゃる!」

「良いから降りろ! このアホ!」


 馬鹿と警官が他愛のない押し問答をしていたその時だった!


ドゴォ!


 突然爆音が鳴り響いて、周囲が静かになった。


「きゃぁぁぁぁぁあ!!!」


 悲鳴が聞こえてそちらを見てみると、何名かが頭から血を出して倒れている。

 周囲の人が何事かと見渡していると、その原因がわかった。


「おい! あれを見ろ!」

「なんだあれ?」


 ビルの中階部分が崩れていた。

 パラパラと石のかけらが落ちてきている。

 どうやら先ほどの血を流している人たちは、上から落ちたコンクリの破片にやられたようだ。


「みなさん下がって! 早く彼らを下から助けて!」


 慌てて警備員や警官が周囲に指示して遠ざける。

 下で怪我した人たちはビルの中へと避難した。


「はて……何でおじゃるか?」


 ロードローラーの上でキョトンとするマロ。

 彼は不思議そうに崩れたビルの中階部分を見た。


(……あれ? あんなものあったっけ?)


 彼はあることに気付いた。

 正確にはビルの中階部分は崩れていなかった。


 


 球状の物体が壊れたので、崩れたと言えば崩れたのだろう。

 だが、明らかにおかしい崩れ方である。


「大変です! ビルが突然崩れて見物人に被害あったようです!」


 素早いことにもうテレビ局の人達が集まっており、事故の様子を実況中継している。

 やがて、他の見物人たちも異常さに気付いた。

 

「あの変な球……ビルにくっついてねぇ?」

「あんなもんあったっけ?」

「いや、明らかに無いだろ?」

「どういうこと?」


 見物人たちがざわついて不思議な物体の様子を見守っていた。

 すると……


ボガン!


 突然、球から煙がでて崩れた!

 

ガラガラガラガラ!


「あぶねぇ!」

「きゃあ!」


 崩れ落ちる破片から逃げまどう人たち。


「な、何でおじゃる!」


 ロードローラーの上の麻呂が煙に戸惑っていると……


「……………………」


 一人の男がロードローラーの前に現れた。

 身長はかなり高く、2m近くある大男でスキンヘッドに引き締まった身体つきをした男だ。

 肌は白く、見た目からして外国人のようで、彫りの深い顔立ちをしている。

 服装も黒のジャケットに白のズボンという簡素な出で立ちである。


「……………………マロ?」


 マロは不思議そうな顔で首を傾げた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る