第6話 謎の球体

バチリ……バチリ……


 その薔薇だらけの庭の中空で青い火花が散っていた。


(……なんだ?)


 訝し気な隆幸。

 先ほども書いたように山側の斜面と薔薇しかない庭なので、火花を散る要素は特にない。


バヂリバヂリ……


 段々と火花が激しくなっていく。


(こいつは一体……)


 隆幸は不安になって窓を開けて確かめた。


ブォォォォン! ブォン! ブォン!


 暴走族の爆音が外で響いていたので顔を顰める隆幸。


「ちっ! うるせぇな……意味のねぇ無駄な真似ばかりしやがって……」


 舌打ちをして悪態をつく隆幸だが、稲光は尚も激しくなっていく。


バヂヂヂ……


 さらに激しくなる火花!

 青い稲光のような火花が庭一面に広がる!


「何なんだこれ?」


 不思議そうに見ている隆幸だが、下から父親の声が上がる。


「隆幸! お前何かやったか?」

「何もやってねぇよ!」


 父親から言われるのだが、ぶっきらぼうに返す隆幸。

 とは言え、不可解な出来事なのは確かだ。

 隆幸は不思議そうに見守っていると……


バディン!


 一瞬、明るい光が飛び出して……


パァン!


 花火のような音が出た。


「うぉっ!」


 眩い光に目を潰される隆幸。


「何なんだよもう……」


 隆幸が目をパシパシしながら庭を見て……そのままの形で固まる。


庭に大きな球状の物体が現れたのだ。


一言で言えば『SF世界でよく出てくる空飛ぶカプセル』だろう。

5mほどの大きさで丸っこく、黒い金属質のボールのような形をしており、継ぎ目がいくつかある。

そして何よりもその物体は浮いているのだ。


「な、何じゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!」


 思わず叫んでしまう隆幸。


「すげぇ……」

「何これ……」


 階下の父親と母親も呆然としている。

 不思議そうにしている三人を尻目にボールはゆっくりと下へ降りていく……


ミュイーン


 下の部分から足が出てきており、どうやら着陸態勢をとっているようだ。

 ようなのだが……


ガツン


 運悪く、車体の下に庭石がひっかかる。


スカ……スカ……


 下から出た足が地面を掴もうとするのだが、空しく空振りするだけ。


「「「……………………」」」


 そんな間抜けな様子を微妙な目で見る親子三人。

 ようやく、下に何かあることに気付いたのか、一度浮遊してぐるりと庭を一周する丸い物体。

 そして、平べったい場所を見つけて、何とか着陸する。

 

ダダダダダダ………………


 着陸するのを見て慌てて階段を下りる隆幸。

 そしてすぐに気づく。


(銃とか持ってたらやばいな)


 それに気づいた隆幸は父親の部屋へ寄り、机の引き出しの裏の隠し扉を開けて、中にある風俗雑誌『TENGOKU』をシャツの裏にいれてから玄関へ行き、そのままサンダルを履いて庭へと出る。


「何なんだこれ……」

「わしもわからん……」


 同じように庭に出た父親と一緒にぼやく二人。

 すると、同時にボールの表面がガシャンと開いた。

 開いた瞬間に中の様子が見えたのだが、隆幸は気付いた。


(……あれ?)


 中にアニメのポスターが貼ってあった。

 それもスタジオシャブリの有名なアニメ『天空の聖女ラ・ピュセル』だ。

 そして、中から現れた『もの』に親子三人は呆然とした。


「「「……えっ?」」」


 中から出てきたのは銀色の髪をした褐色肌の少年だった。


 年のころは隆幸と同じ高校生か中学生ぐらいだろうか?

 隆幸に比べると背丈はやや低いが、中肉中背と普通の中学生だろう。

 そして何よりも……


 彼が着ていたTシャツは『新世紀イェヴァン・ポルカ』の絵葉というキャラだった。


(えっと……)


 隆幸はどう言おうか判断に迷った。


(えっと……これは明らかに地球上の物じゃないよな? けど、スタジオシャブリ? と言うことはどっかのアニメヲタク外人か?)


 隆幸は頭の中で考えるが全然答えが出ない。

 ちらりと横を見ると父親も同じようで、どうしていいかわからないようだ。


 三人が困っていると、その少年はにっかりと笑って言った。


「どうもすんません! ちょっとお願いしても良いですか!」

「は、はい……なんでしょう?」


 母親が困り顔で尋ねる。


「警察を呼びたい気持ちはわかるんですけど、ひとまず僕の話を聞いてください!」


 意外にも真っ当なお願いに全員が困惑した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る