【怪盗】vs ネームド ③

ーーーにいる。


 土に埋まっているわけではなく、

 スキル【沼地のあるじ】の発動中は足下の地面が液状化し、【潜水】を使うことによってもぐれるようだった。


『どこに…?』


 地面に潜ったはいいものの、土の中は水のようになってて動きづらく、スズはすぐに【グラーキ】の姿を見失っていた。


 ネームド戦では隔離かくりされたフィールド内で【マップ】が使えないようになっているため、五感を頼るしかない。


 【ラビット・エコーロケーション】!


 スズは兎族の耳を強化するアーツを発動した。


『!、そこ…って、ぅわぁあああ!?』


 【グラーキ】が泳いでいる音を脳内にまるで【3Dマップ】のように感じ取るこのスキルで、大きな魚影ぎょえいとらえたスズはせまる巨体に向けて剣をかまえた。

 だが、近くまで迫って見えてきたのは、【グラーキ】を手乗りサイズにした、だった。



≪大地をむ古代魚≫

【グラーキ】Lv.1 ≪飽和ほうわ状態≫



 36匹の子魚が群れになって私を襲ってくる!


 うまく避けれない!


 身体に3匹が身体にぶつかっーーー自爆だとぉ!?


『くっ……これは、エグい!?』


 たった3ヒットで1割強のダメージもしてる。


 しかも、すぐに探知範囲から離れてしまってる……このままだと、一方的ね。


『ッ』


 地中は【グラーキ】の領域になっているため、ーーー地上に浮上しようとしたスズが聞き取ったのは、足下から大群が迫ってくる音だった。


『間に、(!)』


 大群が次に次にスズの身体にぶつかる。

 1匹の爆発が近くにいた小魚と連鎖することで小さな爆発は規模を大きくし、地面が内側から大爆発を起こした。


 液状化がけて固さが戻った地面が爆発によって吹き出すと、大量の土と一緒にスズも上空に飛ばされていたがーーースズは生きていた。


『口に土が入ったじゃん!(耳がキーンッてしてるしぃ!)最悪!』


 普通のプレイヤーなら、あの爆発で身体はバラバラになってポリゴンとしている。

ーーーなら何故、生き残れるのか?


[スキル]

【脱兎】P 【兎族】

 結果……兎のように逃げ回る。


 1度だけ、HPが0になった時に1

 10秒間、自分への2


[条件]

・HPが半分以下でつねにヘイトが自分に向いている時に【回避】を続ける。



『でも、地上に出れた!(回復薬 ×2)

 【アイス・ショット】!』


 吹き飛ばされた勢いもおさまり始め、落下し始めたスズは地面にぶつかる前に用意していた回復薬でHPを回復しつつ、スキル【アイス・ショット】の氷のつぶてを地面に向けて放った!


ドドドッーーードガガガガァーンッ!!!



 あんじょう



 着地する地面に擬態ぎたいした小さな【グラーキ】が地雷みたいにひそんでいたわね。


 地雷になった【グラーキ】は連鎖爆発を起こして周囲一帯を砂煙がおおい、スズは広がる砂煙に飲まれながら地面に落ちた。


 もちろん、落下ダメージは入る。


『ぐぇっ!?

 …っ、な、なんとか、生還せいかん!』


 すぐに起き上がり、周りを警戒する。


 (また隠れてる…?)


『オォォォォ…』


『うぇ?』


 地響きが鳴り始めた。

 どこからか、【グラーキ】のくぐもった声も木霊こだまし始める。


『うわぁぁ…(嫌な予感がビンビンなんですけどっ!)』


 不安に顔をゆがませていると、私のいる範囲だけ地響きが更に強まり、たまらず態勢を崩してしまった。


 態勢を戻そうと身体を支えていた手を地面から離そうとすると、地面に変化があることに気がつく。


 

?』


 よく見ると、中心地から地面がれ始めている。てか、そこらじゅうの地面から水が溢れ出してる…!


『ヌオオオオオオオオオ!!!!!』


『わぁー、大っきい……』


 地面から伝わる揺れが強くなっていくに連れてスズがあせりを感じた瞬間、


ーーーサイズの【グラーキ】が泥を押し退けて現れた。



≪大地を呑む古代魚≫

【グラーキ】Lv46 ≪肥大ひだい化状態≫



『……レベルが上がってる(ってことは、最終局面まで来たかな)』

『…おぉ?HP、いっぱい減ってるようだね♪』


 【グラーキ】をHPを見てみると最大HPの3割までに減っていた。


『あと少し!なら、頑張れる!』


『ヌオオオ!』


 口が開いた…!

 

 それは、阻止そししため攻撃の予兆よちょうだとスズは気づく。


 なんとか射線から離れられる場所を探すが……アンコウと似た構造こうぞうの【グラーキ】の超巨大な口は、その体の横幅より広がり続ける。


『やばっ。

 このデカさでこれは逃げられない』


 くるぶしがかるまで増えた水……だと思っていた、この液体の粘度があるだけじゃなく、地面もぬかるんでて、とてもとても動きづらい!


『何か使えるのは、何か…』


『オオオオオオ、オオオ!!』


 私があせっている間も青白い光は【グラーキ】の口元へと一点に集まっていく。


『オオオオオオオオオオオオ!!!』


 放たれた閃光は圧倒的な質量を持って、みずからの前に立つ者を焼き尽くさんっと放たれた!



 あっ。


『バカだね、私』 


 戦闘フィールドの端から端までのほとんどを地面ごと呑み込んだ光が通った後に一本の道が出来る。


………………

…………

……


 だが、戦闘はかれて


『ヌオォ』


『自分のスキルを忘れたの?私もだよ!』


 スズは【偽法ぎほう】によって【沼地の主】を発動して、地下深くまで潜っていた!


 結界の端に当たるまで泳いで【グラーキ】の巨大な背中を取ったのだった。


『その図体ずうたいじゃあ、回り込めないよね!』


 【グラーキ】の横幅は結界ギリギリまで肥大化していたため、本来なら後ろを取られる必要がなく、対処たいしょに遅れがしょうじる。


『……ヌオオオオオ』


『潜らせない!

 【スラッシュ】【回し斬り】!』

『【連続ーーー【回避】!』


 【グラーキ】の背中を剣で斬り続けてHPを2割にまで減らした時、スズに向かって【グラーキ】の表面に付いているトゲが一斉に伸びる!


『っ、ーーー最後の最後まで変形を残しやがって!?』


 スズがトゲを迎撃していく間に、

 【グラーキ】は透明になり始め、さらに、その下の地面が揺るのと同時に【グラーキ】の体がしずみゆく。


『逃がさないってんでしょっ!』


 残りの目を狙って右手に持っていた剣を投げる。咄嗟とっさだったからスキルを使わなかったけど、綺麗に剣が刺さる。



 ……これ、詠唱が必要なんだ?


『光よ集まれ!敵を焼き払う閃光!』


 3つあった目が最後の1つとなり、瀕死になって地面に潜った【グラーキ】に向けて、かざした両手に蒼白い光が


偽法ぎほう【破滅の閃光】!!!!!』


 【ラビット・エコーロケーション】と【沼地の主】を併用へいようし、自分の足音から、地面にいる【グラーキ】の位置をとらえていた。


『ふふっ』


 地中からの絶叫が結界全体に響き渡り、スズが自然と笑みをこぼした。


 正直、耳が壊れるほどの声量せいりょうはっする【グラーキ】が巨体のために光からまったく逃れられていなかった。


『ヌギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 じっくり、たっぷり焼いてやる……って思ってたけど、ヨミを待たせているかも…!

 早く終わらせないと!ヨミが、きっと待ってる!


『早く、』

『くたばれぇぇえええええ!!!』



ぴこん♪


≪ワールドアナウンス :

 プレイヤー【スズ】が初めて、

 ネームドモンスター

 ≪大地を呑む古代魚≫

 【グラーキ】を倒しました≫

≪これより、

 【かわいた平野】のネームドの出現確率が上がり、【グラーキ】が弱体化されます≫

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