スズの初ログインと運営の反応

 鈴奈すずな美代みよと一緒に【OTW】に初めてログインした時。


『ここが…ゲームの世界かぁ…』


 スズは、唖然あぜんとしていた。



 今までのフルダイブ型VRゲームは【人がえがいた世界】という感覚が残っていたが、視界に見えているの街の風景や遠くに映る景色は、まさに【世界を】と思えるほどに綺麗で無駄がなく、自然である。


 不意ふいに吹き抜ける風を感じ、靴に踏まれた地面の感触が分かるのは五感が現実よりもえているようにも感じられて、これからのゲーム生活にスズは期待で胸を膨らました。


 ……だけど、ちょっと不味まずかったかな?


『まぁ、いっか♪』

『それより、このは何だろな?』


 左手につかんだものを見る。


?』


 【プレゼント】を見ると、特典にも同じ名のチケットがあった。


『合わせて、2つ。やりぃ~♪』




ーーー30分前。


『あなたのお名前を聞かせて♪』

 

 目の前で女神リリスが、ニコニコと笑顔で対応してくれている。


 最初の感想としては、やっぱりか、だった。


『わぁ~♡リリスだぁ!

 私、大ファンなんです!握手してください!』


『わぁ、ありがと~♪』


 リリスに握手を求めて、リリスもこころよく応じる。


『生リリスは断然綺麗ね♪』


ーーー、断然に綺麗だけど♪


『ありがとう♪

 あなたの名前は?』


『鈴奈だから、【スズ】で!』


 【リン】にするか迷うけど、今回はこれでいこう♪


 早く、ヨミと遊びたい!


『種族と職業は、何が良~い?』


『そうだなぁー…(何の支援職にしようかな)』

『…………リリスは、やっぱり可愛いね♪』


ーーー、絶対に可愛いけど!


 細かい設定があることを知り、種族・職業を真剣に選んでいる間もリリスをめ続ける。


 これは鈴奈の習性しゅうせいのようなもので、とにかく可愛い女子には褒める言葉を投げかけるのがルーティーンになっていた。

 この行動は、男子にも女子相手にも孤独になりかけた中学校の頃に身に付き、美代から紹介された人以外には、こうして接するようになっていた。

 スズはこれによって、体裁ていさいだけでも心の距離を縮めている。


 ……これは、自己防衛本能に近いものであった。


『スズは【盗人ぬすっと】にするのね♪』


『リリスの心を奪っちゃおうかな~?』


『キャー♪』


ーーーこれで、美代の心を奪えたらいいのになぁ~。


『リリスと、もっと話していたいけど…』


 早く、美代にいたい。


 逢いたい、逢いたい、逢いたい、逢いたい、

 逢いたい、逢いたい、逢いたい、逢いたい、


 逢いたいけど、【私】を演じないと不安になっちゃうんだよねー。


『私もスズには興味があるわ♪』


『わぁ、嬉しい』


 本当に嬉しがっているし、男より可愛い女の子が好きではあるが、すべてをくつがえすほどに美代が大好きなのである。


『最後にハグさせて♪』


『いいよ♪』


 私はリリスとハグをする。

 

 リリスとは、これぐらいで充分だよね♪


 習慣となった行動を終えて離れようと思った時、スズの腰に回した左手に、衣装には無い手触りがした。


『……リリスは、あったかいな~♪』


『えへへ、スズもね!』



ーーーこれは、何だろうか?



 掴んだ何かを少しずつ手元に引っ張る。


『でも、そろそろお別れしないとね』


『そうだね…リリス、でも……あとちょっとだけ』


 もうちょっと、あと少し……取れた♪


『うん。友達が待ってるし、それじゃあ』


 スズはリリスから両手を腰に回しながら離れる。


 そして、選択肢せんたくしとして出ていた【転送】を見る。



ーーー美代♪今、逢いに行くからね♪





『え?』


 ……え?


≪種族【獣人 : 猫族】が【獣人 : 兎族】に変わりました≫

≪称号【演技派】を手に入れました≫

≪称号【演技派】が【いつわる者】に変わりました≫

≪称号【偽る者】が【者】に変わりました≫

≪スキル【神の左手】を覚えました≫

≪特殊職【怪盗】への条件を満たした≫



ーーー職業【盗人】を【怪盗】にしますか?


 【Yes】/【No】



 えっ、ええ……は?


『【神を偽る者】?


 え~と、(……ばれてた?)』

『……ごめんね、これ返すから』


 手に掴んだ物を返そうとするが、そんなスズを女神リリスはただ微笑ほほえんでいた。


≪ーーー転移します≫



種族【獣人 : 兎族】

[条件]

・種族選択時に感情値が大きく上下する。

・会話中、ずっと欲情している。



特殊職【怪盗】

 ヘイトを向けられていない時、クリティカル発生率を補正(大)する。


[条件]

・【偽る者】を覚えている。

・スキル【神の左手】を覚えている。

・完全制覇者



[称号]

【神を偽る者】

 神に対して嘘を続け、自分を演じ切る者に与える称号。


[条件]

・【偽る者】を覚えている。

・神を相手に嘘をつき続ける。



………………

…………

……


 ……運営は混乱していた。


『部長!

 【神】の因子いんしを持つプレーヤーが現れました!』


『何だと!?

 早すぎるだろ!?』

『山本!』

『そいつの映像を最初から出せ!』


 そこには、10~15人の男女の職員がいた。

 いくつものデスクを並べた作業場、その手前の壁に取り付けられた特大サイズの画面に女の子が映し出され、部長のあわてようから画面に視線を集める。


『な、なんなの、この子。

 態度と心がまったく違うじゃない!』

『これが、今の若い子なの!?』


 感情値を測っていた女性社員が叫んだ。


 感情値から嘘をついているかが分かるのだが、画面上の女の子が女神リリスに対して言う言葉のほとんどが嘘であったからだ。

 そして、感情値に反映される一部の数値を見れば異常なのである。


『あ、やべっ』


『川下、どうした?』


『いやぁ…、【盗人】に隠し要素を入れてて……、あ、


『何が盗られたんだ!』


 これ以上の想定外を増やして欲しくない部長がもの凄く動揺し、周りにも嫌な予感という形で広がり始めた。


『………【職業専用装備】チケッ…ト?』


『『『やましたぁあああ!?』』』


 


ーーーそこから、2時間とちょっと。


『部長!

 【神】が現れました!【女神】です!』


『おいおい、2週間前に【】が出たばかりだぞ!?』


 テスターのプレイヤー達は、先行特典として2週間前からゲームにログインできるようになっている。



ーーーサービス開始時。


『【英雄】が現れました!』


『………は?』


『【英雄】です!【英雄】ですよ、部長!』


『お、おまっ、早過ぎだ!まだ初日だぞ!?』

『初日に【英雄】の条件が合うことがあるか!』


 部長がキレ気味に叫ぶ。


 【英雄】は、条件さえそろえば誰でもなれるが、初日のゲームが開始された直後になれるものでは到底とうていない。


『彼は【勇者】です!』


『…』

『……』

『………【勇者】か…』

『見せろ!映像を!』


『は、はい!!!』


 異常事態に若い職員が慌てて特大画面にデータを転送した!

 

ーーーそこには、女神リリスに情熱的なを永遠と続けている者がいた。

 ……そして、断られていた。


 プレイヤーのサポートの1つとして、AIに【カウンセリング機能】を搭載とうさいしている女神でさえ、種族・職業を選択せずに話す彼の情熱に引いており、時間経過のために録強制的に転送させられていた。


 しかし、


 この転送までの時間は、リリスが許可すれば延長できるため、遠回しに拒否られているのであった。


『これは……だな』


『まさしく、勇者ですね』



 そして、今、ヨミが【女神】になったと報告される。


『【神】と言ったか?因子じゃなく?』

『その子の映像を至急しきゅうに!急げ!!!』


 映像には【女神】にいたるまでの、ヨミとリリスの映像が流れた。


 本来なら、こんなに早くにプレイヤーが【神】になるはずがない。

 いや、ある程度の変更権をリリスに渡しているからといって、まさか、神になれるとは思えなかった。


 なので、バグが生まれているかもしれない(希望)っと考えて画面をくま無く見て、会話も、ヨミの一挙一動いっきょいちどうも聞きのがさないかまえを取る職員達!


ーーーもちろん、ヨミの失恋話も聞かれることになった。


『うん。ヴん。

 こんな可愛い子を振るなんて許せんわ!』


『そうずね!許さないッス!』


『この子には【OTW】を楽しんで貰いたいな!』


 机にバンッ!と手をつけて部長が立ち上がり、右腕を上げる。


 この会社で朝礼や会議のしめでやる集団行動である。


『『『『『はい』』』』』


 他の職員達も一斉に立ち上がり、部長が右腕を上げて握りこぶしをハンマーを振るようにエールを少女に送ると、職員達も同じように返す。


『この子に【女神】として、楽しいゲーム人生であれ!!』


『『『『『楽しいゲーム人生であれ!』』』』』


ーーー運営の職員全員がヨミの幸せを願っている。

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