【怪盗】vs ネームド ①

 スズが宿題を終えて来るまでの間、

 フィールドに現れるザコモンスターを倒しつつ、私は【かわいた平野】を歩いていた。


『あのアリ軍団を倒した後だと、ここの岩石系モンスターは歯応はごたえが無いんだよねぇ』


 ここのモンスターは速くないわりに、少し高い攻撃力と固い防御力での接近戦を得意としている。


 これに対して、

 プレイヤーは3~4人パーティーで相手し、タンク役が耐え、魔法攻撃で倒すのが主流になり始めていた。


 だが、


 ヨミは【神気解放】や【神威かむい】を発動して、ポップしたそばから駆逐くちくする。


 明らかに序盤じょばんの街周辺で狩りを行うのは場違いのレベルにたっしていた。


『意表を突くとか、遠距離攻撃とかあればいいけど……目の前で岩を投げられても避けて殴って終わりって、ね~』


 そう言いながら砂岩で出来た大きなゴーレムに風穴を空けて倒す。

 

『あと10分くらいでスズが来るはず。

 メニューでも見てますか』


 この時、私はウィンドウを開いていても周囲には気を配っていた……はずだったが、足下の警戒はうすかった。


を展開します≫


『あっ』


 周囲から一瞬で光が無くなり、


≪プレイヤー【ヨミ】は、

≪【教会】へ転送します≫




ーーー視界が開ける。


『あー?(私、死んだの?)』

『何が起きたか分からないぐらい呆気あっけなかった…』


 そう言いながらリスポーン地点の教会から出ると、街門には予定より早くログインしていたスズがいた。


『あれ?ヨミ?

 どうして教会からって……死んだ?』

『……レベル20になってるヨミが死ぬなんて』


 スズはヨミが何も言わなくても敵の強さを想像した。


『それが……、一瞬で真っ暗になったんだよねー』

『あ、


≪戦闘フィールドを展開します≫


って出てた』


『ヨミがネームドと戦ったときに出たやつ?』


『他の戦闘とかでは出ない?』


 例えば、フィールドボス戦とか。


『ううん、多分ネームド戦でしかでないって検証班が推測すいそくしてる』


『もう検証班の人達がいるの!?』


『あはは……あの人種は熱心な人がいるんだよ、ヨミ』


 そうね…。あの人達によって初心者プレイヤーが楽しくプレイできるもんね。感謝感謝。


『ヨミ、仕返しに行くんでしょ?』

『私も一緒に戦う!』


『………いや、今回はスズが行ってきて』


『え、なんでぇ!?』


『今、デスペナ中で1時間も全ステータスが半分になっているんだよね。

 だから、ネームドとは戦いにならないと思う』

『特にMPがになっているのは痛い』


『あー。

 もし、また敗けたら4分の1だしね。確かにきついか』


 そうなの。

 【OTW】はゾンビアタック防止のために、デスペナ中は獲得経験値とステータス(HP/MPを含めた)が半分になり、死亡後に所持金が半分に減る。

 しかも、死ぬごとにデスペナ重ねけで。


『また【始まりの大地】に行ってこようかな。今度は東のボスを倒してくる』


 東西南北のフィールドボスのどれか1体を倒すとその先に進めるらしいけど、最初だけは【マルク領】のフィールドボスをすべて倒さないと解放されないからね。


『私を倒したネームドが他のプレーヤーに倒される前に倒してきてよ、スズ』


『あははは♪簡単に言うねぇ…?』

『でも、私のヨミを殺した奴は絶対に許せないから敵討かたきうちに行ってくる…!』


 スズの目がにごる。内心ないしんではガチギレしてそう。


『ん』

『よろしく言っといて』


 2人は街で別れて、ヨミは東のボス退治に、スズはネームドだと思われるモンスター退治に出るのだった。




 10分後。


 【渇いた平野】でヨミを倒したモンスターを探していたけど、まったく出てくる気配を感じない。


『いないなぁ~。

 やっぱり、他に条件があるのかな?』

『確か、手当たり次第しだいにモンスターを倒しまくっていた…ぐらいしか引っかかるとこないけど』


 かれこれ1時間くらいモンスターを倒しまくっているし、ちょっと休憩きゅうけい入れるかな。


 最初こそ、殺気をらしながら平原をくまなく蹂躙じゅうりんしていたスズも、今ではヨミから離れてることにうんざりしていた。


 目は、変わらずに濁ったままだが。



ぴこん♪


≪プレーヤー【ヨミ】が【テレフォン】の許可を求めています≫


『ヨミ♪』


 すぐにウィンドウを開いて通話に出る!


『東の【ゴブリン・キング】倒したから、そっちまで見に行くよ。デスペナも消えたし』


『うん♪うん♪待ってる♪』


 1人で歩いていた時のクールな雰囲気もヨミの声を聞くと形無しになる。



ーーーッ!?


『【跳力ちょうりょく強化】!』


 【変身】をき、スズが兎の跳力で上空に跳ぶ。


 足下を見ると、さっきまで立っていた位置には大きな口を開いた巨大な!?


≪大地をむ古代魚≫

【グラーキ】Lv.26


 大きく離れて着地したスズが、その顔だけをあらわすアンコウを見る。

 観察を始める間も、地面から体が盛り上がるようにして浮き出すアンコウはスズの想像以上に大きく、このサイズに気がつかなかったことにスズは一番に驚いた。


『やっぱり、プレイヤーレベルよりレベルが20上がっている状態で戦うのね』

『ーーーなら、これなら?

 うわぁ…、やっぱりダメか…』


 予約購入特典の経験値を使わずにLv.13までにいたっていた。

 なので、使えば戦力差をちぢめれると思ったけど、相手のレベルも当然……


≪大地を呑む古代魚≫

【グラーキ】Lv.36


 私の今のステータスは、


スズ Lv.16

種族【獣人 : 兎族】

職業【怪盗】Lv.16

HP 4600/4600(500↑)

MP 6500/6500(500↑)

攻撃 304(65↑)

防御 200

魔攻 206(10↑)

魔防 200

速さ 350(25↑)


『これだけじゃあ勝てるはずがない。

 さらに、他の装備も着けてっと』


スズ Lv.16

種族【獣人 : 兎族】

職業【怪盗】Lv.16

HP 4600/4600

MP 6600/6600(+100)

攻撃 304

防御 300(+100)

魔攻 206

魔防 200

速さ 370(+20)


頭 :なし

服 :【バトラースーツ(上)】

手 :【盗神の手袋】

脚 :【バトラースーツ(下)】

靴 :【革のブーツ(黒)】

アクセサリー :

・【模倣する オペラマスク】

・【魔導の指輪】

・【鉄の指輪】

・なし

・なし


『……これでいけるかな?

 まぁ、逃げれないけど!』


 スズとネームドの戦いが始まる。

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