第24話 タジーの家
鹿狩りも無事終わり、次の朝、ガイハの町に帰ることにした。
「鹿肉を燻製にするからミドニッグ商会の工房を借りるとしようか」
異次元庫に入れておくのもいいが、隊商──いや、馬車一台だから行商か? まあ、初仕事だ。通常の商品も運んで練習としよう。
「燻製肉をつまみによく冷えたエールがよく合う」
「お師匠様が食べるためですか?」
「いや、燻製肉は長期保存ができるからやるんだ。つまみはついで」
つまみのことは本当だけど、メビアーヌのジト目──純真な目は眩しいからさっと逃れた。
「そう言えば昔、先生が作ってくれた鹿肉のロースト、旨かったな~」
あーそう言えばタジーが小さい頃、作っていたな。もうリオ夫人に任せたからあの頃の味は出せないだろうな~。
「リオ夫人も作れるから帰ったら作ってもらおう」
ソースは任せろ。葡萄酒も手に入ったし、最高のを作ってやろう。
「あなたの鹿肉ロースト、確かに絶品だったわよね。王も好んでいたっけ」
そうだな。鹿が獲れるとよく作ってくれとうるさかったっけ。懐かしいものだ。
「わたしも久しぶりに食べたいからお邪魔させてもらうわ」
くるなと言ってもくる女なので好きにしろだ。
帰りもなにもなくガイハの町に到着し、そのままミドニッグ商会へと向かった。
ただ、小さいガキどもとは途中で孤児院へと帰した。体力のないガキどもがきても役に立たんからな。ついてくるのは年長者の四人。燻製作業をしたことがあるそうなので手伝ってもらうことにした。
町中にあるミドニッグ商会の販売店へ向かい、主に町外れにある工房を借りられるように交渉し、快く許可をいただき、職人も貸してくれることになった。
販売店から工房へと移り、職人たちと一緒に燻製作りを開始した。
簡単な燻製なら半日くらいでできるが、長期保存できるものとなると二日くらいかかるので、オレとメビアーヌ、そして、ミレアナは一旦帰ることにした。
「タジー。お前んちにいくが、なにか伝言はあるか?」
冒険者たるタジーの家なら肉など珍しくもないが、今は嫁さんの母親たちが様子を見にきてると言う。なら、鹿肉をお裾分けしておこう。嫁さんたちの母親たちとも知らない関係ではないからな。
「ミレアナもついてくるのか?」
「ええ。ライラーたちには孤独院の手伝いもしてもらってるしね、挨拶しておくわ」
へー。ライラーさんたち、孤独院の手伝いもしてたんだ。
嫁さんたちの母親は、ガイハの町で婦人会なるものを組織している。
なにをしているかはわからんが、リオ夫人によれば互助会的なものらしい。その会でもライラーさんたちは有力者なんだとよ。
タジーの
十五歳でこれだけの家を建てられるなんて異常なことだが、十二、三歳から冒険者として働いていた。肉体強化と弓の腕で一年もしないで家を建てられるくらい稼いでしまったのだ。
……それで三人もの女に狙われるのだからご愁傷様だよ……。
ドアの呼び鈴を鳴らすと、サリーの母親、パルミラさんが出てきた。
「あら、先生。いらっしゃい。ミレアナ先生もいらっしゃい」
オレより年下だが、見た目は最強無敵のおっかさん。四人も子を育てるのは大変だと理解させてくれる女性である。
「ああ、少しお邪魔するよ。バルバリアで狩ってきた鹿を持ってきたよ」
「それはありがとうごさいます。ライラー、ヤタカ、先生が鹿を持ってきてくれたよ」
他二人のおっかさんを呼んだ。
ライラーさんはオレと同じ歳で、ヤタカさんは二歳年下だ。
「いらっしゃい、先生」
「ようこそ、先生」
三人のおっかさんに迎え入れられ、居間へと通された。
「三人の嫁は休んでるのかい?」
お茶を出してもらい、一口いただいて嫁さんらのことを尋ねた。
「はい。仲良く休んでますよ」
「そうか。それはよかった」
ってか、嫁三人が仲がよいと言うのも凄いもんだよな。王の周りはなかなか修羅場だったのに。
……まあ、王が見境ないってのが問題だったんだがな……。
「わたしが見てくるわ」
「ああ、頼むよ」
娘みたいなものだが、休んでいるところに男がいくのもなんだろう。ここはミレアナにお任せです。
「じゃあ、鹿を出すよ。血抜きはしてるが解体は頼むよ」
厨房へといき、異次元庫から鹿を一体出した。
「立派な鹿だね」
「ああ。近所にもお裾分けしてやりな」
「そるは喜ばれるよ。軍が買い占めてるから肉の値段が上がったからね」
やはり食料不足は起こってたか。遠征はなにかと狂わせるもんだぜ。
「解体はわたしとヤタカでやるよ。ライラーは先生の相手してちょうだい」
別に放置してくれて構わないが、転職のことを説明しなくちゃならない。嫁の親としては心配するところだろうからな。
ミレアナが戻ってくるまで、ライラーさんにタジーの転職のことを説明することにした。
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