第23話 魔剣シンフォルグ
さすが葡萄を作るバルバリア村。小さな酒屋なのに樽で売ってやがるぜ!
「親父。樽でくれ」
「はいよ。いくら欲しいんだ?」
「あるだけくれ!」
あるのなら買うのが酒飲み。ミドロックと言う男である。
「あるだけって、倉庫一つ分あるぞ」
「さすがに倉庫一つ分は買えんか。では、二十樽くれ」
地下倉庫に十樽。異次元庫に十樽入れておこう。
「しかし、よく樽で残っていたな? 軍が買占めなかったのか?」
軍の遠征で葡萄酒を持っていく。バルバリアの村からも集めるはずだ。仮に祝勝会で飲むとしても予約しているはずだ。
「聞いた話じゃ、どこかの隊商から買ったそうだ」
そりゃいいときにきた隊商もあるもんだ。大儲け、とまではいかなくてもかなり儲けたことだろうよ。まあ、オレも樽で買えるのだからいいときにこられて幸運だぜ。
二樽で金貨一枚で売ってくれるそうなので、二十二樽買うことにした。二樽はミドミのところに卸してやろう。
倉庫に向かい、異次元庫へと収納してか金を払った。
「メビアーヌに怒られるわよ」
「葡萄酒は水みたいなものだ」
酒精は低いし、水の代わりに飲まれたりもする。オレの中では水以上、酒未満だな。でも、黙ってていただけると助かります。
「ミレアナは買わないのか?」
葡萄酒なら飲んでるのに。
「樽で買うあなたと一緒にしないで。飲みたければ町の酒屋で買うわよ」
「遠征が終われば品薄になるぞ」
「そのときは我慢するわよ」
酒を飲まないとか凄いヤツだ。オレなら酒を求めて旅に出てるよ。
広場に戻ると、鹿の解体から塩漬け班と薫製班に分かれて作業していた。本当に手際がいいヤツらである。
「進みはどうだ?」
「順調です。けど、数が多くてすべては無理っぽいです」
「そうか。なら、できない分は村長のところに運べ。次回、また協力してもらえるようにな」
余った鹿で次も快く協力してくれるなら安いもんだろう。
「わかりました。持ってってみます」
解体できない鹿を馬車に積んで村長のところへと出かけていった。
「メビアーヌ。慣れたか?」
「はい、なんとか。もう一匹なら入れられそうです」
「まあ、無理するな。明日の朝でもいいさ。瞑想していろ」
慣れたとは言え、それは許容しただけ。さらに入れたらまた違和感で落ち着かないだろう。じっくり慣れてからでも充分だ。鹿も魔法で冷たくしていれば腐らないしな。
「ミナレア。少し頼む」
「ええ、わかったわ」
なにも説明しなくてもわかってくれるのは、ミナレアとも戦友だから。ってわけじゃなくても、一連の出来事を見てれば理解できる頭を持っている女だ。
「姫様。見回りにいくのでお付き合いください」
返事を待たずに森のほうへと歩き出した。
「あ、ああ、わかった」
戸惑いながらもオレのあとをついてくるメイナ姫。空気が読める方でよかった。
森へと入り、風の魔法で草木を切り裂き、空間を作った。
「姫様は、まだ騎士になりたいですか?」
メイナ姫と向き合い、今でも騎士を目指しているのかを問うた。
「もちろんだ。わたしは騎士になる」
まあ、このくらいで止めるなら単独で辺境まできたりはしないわな。
魔法の鞄から魔剣を取り出す。
「これは魔剣シンフォルグ。竜殺しの剣。魔導王の配下を何百と殺し、王を支えた兵士が振っていたものです」
「それはもしかして、剣聖ライドか?」
「今は農家の男ですよ」
剣を捨てて、妻や子たちと一生懸命生きるただの男。剣聖の名など不要だ。
「あなたに託します」
まだ未熟なメイナ姫に託すのは無謀だろうが、継ぐには相応しい身分だ。旗印にもちょうどいいだろうよ。
「わ、わたしでいいのか?」
「魔剣シンフォルグを握るも握らないも姫様次第。あなたが決断しなさい」
自ら望むものは自らの力でつかむ。できなければ願う価値はない。
躊躇いは一瞬。決意ある顔で魔剣シンフォルグをつかんだ。
「このときより魔剣シンフォルグは姫様のもの。どう振るかは姫様が決めなさい」
願わくば剣に生きる人生でないことを願うよ。
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