第3話
昼
「おいおい、また惚気かぁ~?」
同僚は少しあきれたように、ランチのメニューを吟味しつつ片手間に口を出す。
「そんなんじゃない。ただ、彼女があんまりできた女性だから話したくなって。」
彼が惚気だという、俺による”彼女”の話は数日前にあった小さな出来事だ。
「あのなぁ、世間一般ではそういうのを惚気っていうんだよばか。」
とまぁ、そんなことを言いつつも話を聞いてくれるあたり、やっぱりこいつはいいやつだと内心思わず思ってしまう。こうやって小さないいことがあると、なんだか世界が随分ときれーに見えてくるときがあるんだ。いい友人に、いい恋人。なんて美しい俺の世界。
そんなことを思っていたら、今朝会ったばかりなのに、仕事なんて早く終わらせて彼女に早く会いたいと思った。
夜
こてん。
彼女が俺の肩に頭を預けてくる。彼女の少し癖のあるやわらかい髪の毛をいつものようにゆっくりと撫でる。少し見下げれば、伏せた彼女の長い睫毛に目がいく。綺麗だな。彼女のすべてが愛おしくてたまらない。容姿だけじゃない。優しくて思いやりのある性格だって、美しいきめ細やかな肌だって、イライラすると爪を噛んでしまう癖のせいで短くガタガタの爪だって、身長が高いのに姿勢が悪いところだって。
全部全部、彼女のことなら何でも知っているし誰よりも一番愛している。
俺は思わず、彼女の小さい顎を持ち上げ、彼女のぷっくりとしたかわいらしい唇に口づけた。俺にとってはどんな食べ物よりも美味しいものだ。
でも。
「少し臭ってきたなぁ。」
口づけをしたときに改めて感じたこと。もう1週間だ。そろそろきつくなってくる。
「うーん、だいぶ腐ってきてるかも。」
顎に手を添えて考えこんでしまう。
「あ、そうだ。」
俺は自分自身の考えに感心してしまって、思わず手を打った。普段はこんなことするやつ大げさだろと思うのだが、こういう時は意外なものでこう、わかりやすい反応をしてしまうものだ。自分の滑稽な仕草に思わず笑ってしまう。俺は彼女の部屋のテーブルに活けてあった薔薇の花を大きなごみ袋から探り出す。こういった花は嫌いだがこういう時に役に立つんだな。俺は薔薇を彼女の口の中に活ける。
スンスンと匂いを嗅げば、まぁなんとか耐えれる臭い。
「ねぇ、僕たちずーっと一緒だよね?」
彼女の耳元で囁けば、彼女が小さくうなずいた気がした。
俺の恋人は世界一素敵な女性です。 錦月 @hiseniki
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