断章・1

彼女の追憶

 子供の頃、目の色が気味悪いと言われ、半泣きになりながら家に帰ったことがある。

 面と向かってそう言ったのは何歳か年上の幼馴染みだったが、口さがない大人も時折こそこそとそれを話題にしているのを私は知っていた。


「紗代、紗代、どうしたの。おいで」


 重い気持ちで靴を脱いでただいまと言うと、その声音だけで祖母は私に何かがあったのに気づいてくれた。

 後から思えば、祖母は驚くほど人の心の機微に聡い人だった。その頃の私はそんなことはわからなかったけども、悲しいときに必ず側にいて甘えさせてくれる祖母のことが大好きだったのは覚えている。


「私の目の色が、気持ち悪いって」


「ばあちゃんは気持ち悪くないよ。紗代の目はね、冬のお陽様のようだよ。夏のうんと暑いときのお陽様じゃなくて、寒い時に暖めてくれる優しいお陽様。ばあちゃんにはそう見える」


「……髪の色も変だって。日本人じゃないって言われた」


「珍しいとは思うよ。でも、それと変なのは一緒じゃないでしょ。その髪もその目もね、きっと紗代が特別な子だからだよ。神様の生まれ変わりなのかもしれないね」


「ほんと?」


「ばあちゃんとお父さんとお母さんにとっては、紗代は特別。本当に本当に特別だよ」


 話をすり替えられた気はしたが、その時は家族に特別と言ってもらえることが嬉しく、私はそれで機嫌を直した。


 おそらく祖母は、貴種が「堕ちた神の末裔」なんて言われてたのを知っていたのだ。

 だから、神様の生まれ変わりなんて言ったのだろう。



 そうわかるようになったのは、祖母が亡くなってから十年ほど経ってからのことだった。

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