正義のヒーロー

些事

第1話

正義のヒーロー。


皆さま、お集まりいただき感謝します。

ここへお越しになったという事は、ジョーカーの志に賛同して頂いたという事。

我らが主人、ジョーカー様は貴方達を救済してくださいます!


…様々な願いや想いを持ってここにいらしているのでしょう。

今こそ主人の叡智の恩恵を賜り、進化した人類へと生まれ変わりましょう!



…待てい!


お、お前は、正義の仮面男…!!


お前達の悪事はここまでだっ!

貴様ら、生きてはかえさんぞっ!


ものどもかかれっー!!

ギィィ…!


とぉー!!


正義の仮面男は悪の軍団をあっと言う間にやっつけた!



ぐわわあああ…!


正義は最後に勝つのだっ…!






…事故に遭い、妻は即死、娘は瀕死の状態。このままでは助からない。

年老いた父親には多額の賠償金が課せられ、絶望の最中にいた。

そこへ謎の医者が現れ、娘さんを救う方法があると唆した。


なんでもするか?

私たちの科学技術を持ってすれば、元気な娘に戻せるぞ?

…本当なのか?…わかった。

言うことを聞く。

お前には我々の駒になってもらう。


こうして父は改造手術を受け、ジョーカーの構成員となった。


ギィィー

安心しろ。このポッドにいる限りお前の娘は生き続けられる。

事故によってボロボロだった身体は復元され、包帯の取れたかつての娘の姿に涙する父。しかしその代償として父は声を失った。奇声をあげ、破壊活動に加担する操り人形となった。


幹部殿よ、あの父親にあれほどの価値があったのか?


いや、違う、価値があるのは娘の方だ。父親はおまけだよ。娘の方は調査対象として元々プロジェクト内に計画されていた。メデューサ様に適応した培養体としてな。


なるほど。しかし興味深いですなぁ。

改造手術を受けた構成員は殆ど記憶や理性を失うというのに、あの父親はちゃんと父としての自我が残っておる。


ふん、くだらない。


襲撃だー!!

なんだと!あやつが来よったのか!

幹部!早くお逃げに!

くそ、このまま邪魔されてなるものか!


行くのだ!使い捨てのゴミクズ共!

その価値の無い命をジョーカーに捧げるのだぁー!!

ギィィー!!


邪魔だ!どけっ!


アジトにやって来た正義の仮面男は、ばったばったと構成員を薙ぎ倒した。

ギィィー!!

ゴキュ…!バキッ!ミシン…!

肋骨や関節が割れる音が響く。

ギィィ…。

…辺りは構成員の骸でいっぱいだ。


逃すか…!

雑魚を蹴散らした正義の仮面男は、標的の幹部を目指して走り出す…!

しかし…。


…!

仮面男の足下を必死に引き留めるゴミがいた。

離せ!邪魔するな!

仮面男はもう一方の脚でゴミの顔を蹴り上げた。

しかし、決してこのゴミだけは手を離さない。

…なんだ、何なんだ貴様は…!

ギィィ…。

よく見ればこのゴミだけは、他のゴミよりも歳をとっている様に見えた。動きはトロく、大した力もなかった。しかしその意思は堅く、何者かを守ろうと必死である事だけは理解った。


なんと、哀れな…。

正義の仮面男はその"忠誠心にだけ"敬意を払い、渾身の一撃をゴミに向けて放った。



衝撃により、空中に吹き飛ばされたゴミは、今際の際、その途切れ途切れの意識と理性の間で娘の無事だけを願っていた…。

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正義のヒーロー 些事 @sajidaiji

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