第24話「俺、監禁事件!」【ホラー】

 闇の中で目が覚めた。


「どこだ?イテテ」


 頭が痛い。暗くて自分の身体さえも よく見えない。物音さえ聞こえない。


 どのくらい ここで気を失っていたのだろうか?


 状況が呑み込めず心臓の鼓動が早くなる。


 落ち着け。パニックになるなよ、俺。


 そう言い聞かせて、ゆっくりと上体を起こした。


 身体をまさぐってみる。服は着ている。普段着っぽい。足は?靴下は履いてるが、靴は履いていない。ポケットにも手を突っ込んでみる。

 何もなかった。基本 身に着けているスマホも見当たらない。


「犯人も その目的も分からないけど、多分 室内で誘拐されて、その時に通信手段のスマホを奪われて ここに監禁されたと考えるのが妥当だな……」


 状況を整理して、俺は、そう仮説を立てた。


 自分の部屋で襲撃されたのだろうか?記憶はないけど。だけど これは現実だ。一体どうなっているんだ……?


「おーい……!」と天井を見上げて言ってみる。


「…………」


「おーい!!誰か!!」


 力の限りに叫んでも、返事はなかった。


 当たり前か。助けを求められるような場所に監禁はしないだろう。


 俺は、手掛かりを求めて動き出す。


 立ち上がり、手を真上に伸ばしてみる。天井に触れることはなかった。思いきりジャンプしても それは同じだった。


 次に壁を探す。


 ジャンプして着地した時の衝撃音。叫んだ時の声の返り。その反響から、おそらくここが長方形の部屋だと言うことは想像ができた。

 反響が短かった方向は、近くに壁があるはずだ。


 手を前に出して彷徨うように ゆっくりと歩いていくと指先が壁に触れた。


「なんだ、この質感。ガラス……?」


 壁は、コンクリートや木造ではなく、住宅の壁というよりは、もっと無機質なガラスの表面のような質感だった。


 指を滑らせながら、ゆっくりと前進していく。やがて、隅へと着いた。


 ここを起点としよう。


 俺は、靴下を脱いで下に置いた。


 俺の足が26cmだから、このくらいの歩幅が1メートルってことね。


 1メートルの歩幅を保ったまま、歩数を数えつつ、ゆっくりと壁伝いに歩いていく。


「1、2、3……」


■ ■ ■ ■ ■


「……13、14、15」


 足先に柔らかいものが触れた。靴下だ。一周して戻ってきたのだ。

 15歩と7歩。つまり長い方のへんが約15mで短い方の辺が約7mの長方形の部屋ということだ。


 大きなため息を吐いて、俺は、壁に背をもたれて座り込んだ。


 部屋を一周して分かったことがある。

 つるつるした壁には、ドアノブのようなものがなかった。継ぎ目さえ見あたらない。どうやら この部屋は単独で存在しており、隣接する部屋などは なさそうなのだ。


 床や壁を叩いて反響を確かめる。

 突き抜けるような感じがしない。板のような薄いものでは ないことがわかる。


 おそらく、ここは地下。


 自分の息遣いだけが むなしく響く。外からは、光も音も漏れてくることはない。

 床にも脱出口のようなものはなかった。


 想像以上に、マズイ状況かもしれない。


 俺は焦燥感に駆られていた。空気の流れも感じないのだ。ダクトがないのなら、いずれ低酸素状態になってしまう。


 大の字に床に転がった。


「唯一の出入り口は、おそらく天井。地上とつながる階段か、穴が空いているんだろう。頭の痛みも、そこから ここへ落とされた時のかもな……」


 一体、犯人の目的は何なのだろう?


「まさか、どこかにカメラでも仕込まれてて、今も監視されてんのかな……?ねぇ、犯人さん?聞こえてる?ただの大学生の俺を監禁して どうしようっての?親に身代金要求しても、ウチの家そんな金持ちじゃないんだけどね?それともデスゲームにでも参加させる気?それとも実験か何か?」


 闇に向かって、俺は、半ばやけになってしゃべった。

 そうすることで、犯人の目的がかもしれないと言う可能性を考えないようにして。


 パッ──!


 急に天井が明るくなる。そして色んながらのタイルが映し出された。


「!?」


 俺は跳ね起きた。


 天井全体がディスプレイのようになっている。

 規則正しく並ぶタイルに見覚えがあった。


「これ、俺のスマホか?」


 反転しているが、自分のスマホのアプリの配列にそっくりなのだ。


 巨大な指が近づいてきて、天井を触りスワイプする。

 天井のアプリたちが、横にスライドして、壁や床に移動してくる。


 天井には、スマホの画面越しに景色が見えた。音も聞こえる。


「ここは、大学の学食!?」


 何者かがスマホの画面を覗く。


 ────!?


 そこに映ったのは俺だった。そばに友だちのマサルがいる。マサルは、俺(?)と楽しそうにしゃべっていた。


 失っていた記憶がフラッシュバックする。


 俺は、いつものように、スマホをベッドの上で いじりながらダラダラしていたんだ。その時、見覚えのない妙なアプリが画面に表示された。


 顔のない のようなキャラクターが描かれたアプリ。

 軽率にも、俺は、そのアプリをタップした。すると画面が暗転。スマホの画面から急に白い腕が伸びて来て顔を掴まれた。次に画面の暗がりから出てきたのは、生白い顔のないヤツで、俺は、そのままソイツにスマホの中に引きずり込まれたんだ。


 ソイツは、どうやら俺に成りすましているらしい。


「おい!てめぇは誰なんだよ!ここから出せ!」


 聞こえないのか無反応だ。


「おい!マサル!助けてくれ!ソイツは俺じゃない。助けて──」


 ソイツがこちらを覗き込んだ。

 スマホの電源をオフにする。暗転する瞬間に、ソイツは、俺を見てニヤリと笑った。

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