第21話「お前はカバかよ」

 とある高校の廊下で、昼休みに二人の男子生徒がしゃべっていた。


「はあ、参ったな……」

「どうしたのよ?」

「今朝 スマホ落としちゃってさぁ。ヒビ入っちゃったんだよね」

「はは、カバだなぁww」

「ぇ」


「おーい」


 教室の窓から身を乗り出して、別の男子生徒が二人を呼んだ。


「なあ、サトシのやつ見なかった?これから委員の仕事があんだよ」

「サトシなら今日休みだぜ。ホームルームで言ってたろ?」

「えっ!?そうなの?参ったな」


 そう言うと、その生徒は、頭をかきながら教室を出て行った。


「ところで サトシのやつ、なんで休みなの?お前 仲良いだろ。なんか聞いてる?」


 やり取りを聞いていた方が、もう一方にそう尋ねた。


「うん。噂じゃ、メントスコーラやって、耳からコーラ噴いて入院したらしいぜ」

「は?高校生にもなって何やってんのよ。カバだなぁ」

「……そのカバ――」


 そこへ、また別な男子生徒が慌てふためいてやって来た。


「なあ、聞いてくれ!ちょっと俺ピンチ!5時間目の数学の宿題忘れてたんだ!頼む。どっちか写させてくれ!」

「マジで!?数学の“上にとつヤスムラ(※略してとつムラ)”は、宿題忘れたやつに尻噛みするって有名だぜ?この前、2組の鈴木もガッツリ噛まれたって話だ」

「そうなんだよ。だから頼む!」

「俺の机にノート入ってっから使っていいよ」

「わりぃ、恩に着る。それじゃ!」


 宿題を忘れたその生徒は、また慌てて走っていった。


「ったく、よりによって凸ムラの宿題忘れるとかカバかよ……」

「あのさ、さっきから気になってるんだけど、そのカバってのは一体何なの?」

「ああ、これ?人を傷つけないためのテクニックさ。バカをカバに変換してんだ。お前はカバか、とか。これなら誰も傷つかないだろ?」

「あー……。いや、それさ。そもそも人にバカって言わなきゃよくない?」

「あ~。え?ひょっとして、お前もカバか?」

「いや、それぇ!」

「「www」」


「おい!てめぇら!」

「「!?」」


 またまた、誰かが声をかけてきた。

 その声に、二人は ハッとして振り返る。


 二人の前には、灰色の巨大なイカツイ顔面があった。小さくて細長い耳をぴくぴっくさせて、小粒で鋭い黒目がちな瞳を怒らせている。大きな下あごからは太い牙がのぞいていた。


「俺たちのことバカにするのもいい加減にしろよ。ボコんぞ!」

「「カ、カバ人間先輩!?」」

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