第11話「朝の占い」【SF】

 みなさんには、朝のルーティーンってあるだろうか?


 僕は、テレビの占いで今日の運勢をチェックするのをルーティーンにしている。その時までには、大学へ行く準備もすませて、歯磨きをしながら それを見るようにしてるんだ。それがすんだら、すぐに出発できるようにね。


 って、そうだ。歯磨き歯磨き……。歯磨きを忘れてた。


 と同時に、テレビでは、王道の星座占いがはじまった。


『今日、もっとも良い運勢なのは~、かに座のアナタです!

 長年の悩みが一気に解決しそう。いつもと違う道を選べば、運命の出会いがあるかも。ラッキーパーソンは、茶色いカバンを持った人です』


 さすがに、1位ではなかったか。そうだよな、歯磨きを忘れちゃったわけだし。


 僕は、すばやく風呂場へ向かい、歯磨きの準備をはじめる。


『2位から5位の星座は……。……うお座のラッキーアイテムは……』


 聞き耳を立てつつ、口をゆすぎ、歯ブラシに歯磨き粉をつけ、秒で戻った。


 ご――っ!


「……ンッ!!」


 僕はリビングの床に転がって悶絶した。左足の小指を、机の角にぶつけてしまったのだ。占いなんて耳に入らない。

 震えながらも顔を上げると、もう後半だった。


『続いて9位から11位です』


 ここからはアンラッキーな下位の発表だ。


『9位のふたご座。なんだか重苦しい一日。気分転換を心がけよう。ラッキーアイテムは、「般若心経はんにゃしんぎょう」。

 10位のいて座。身勝手な人に振り回されそう。ずっと一緒にいた仲間や同僚を信じよう。ラッキーアイテムは、家族や友人とのアルバム。

 11位のおうし座。中途半端なことをすると余計痛い目に。覚悟を決めて思い切りいこう。ラッキーアイテムは、金属製のシャープペンシル』


 うわ、僕のないや。


 8位までに出た可能性もあるが、なんとなぁ~く嫌な予感がする。


『そして今日 もっとも悪い運勢なのは、ゴメンナサ~イ☆やぎ座のアナタです。

 うっかりミスが多い一日。パニックになって怪我をしないように。まずは落ち着こう。アンラッキーパーソンは、酔っぱらってカレーを食べている人。

 でも大丈夫。そんな やぎ座のツキを回復させるラッキーメニューは、海苔のり佃煮つくだにです――監修:ウラノス神楽』


 やぎ座1月生まれの僕はテンションが下がった。


 それに当たっちゃってるよ。歯磨き忘れて、足の小指をぶつけたわけだし……。よし!こんな時は、別の占いを見て、気分を切り替えよう。


 僕はチャンネルを変えた。


『それでは、今日の生まれ月占いを見ていくブゥ』


 いつものブタのマスコットがそう言って占いがはじまる。


『《超veryブゥ》なのは――』


 この「veryブゥ」っての、いつも「ブゥ」って音が「×」とか「ブーイング」とか連想させて、イマイチ分かりづらいんだよな。


『7月生まれのキミだブゥ。人生で最もエネルギッシュな一日。大胆な行動をしてみるといいブゥ!ラッキーカラーは、パープル。

 続いて《veryブゥ!》

 2位の11月生まれ。自分が本当にやりたかったことが見つかる日。最後なんだから素直になるといいブゥ。ラッキーカラーは、ゴールド。

 3位の4月生まれ。思わぬ出会いがある日。その人とは、短いけれど濃密な時間をすごせるブゥ。ラッキーカラーはブラウン。

 4位の3月生まれ。何をやっても許される日。自分の欲望を開放するといいブゥ。ラッキーカラーは、グリーン。

 《そこそこブゥ》

 5位の9月生まれ。色んなものから逃げ惑う一日になりそう。覚悟を決めることが大事だブゥ。ラッキーカラーは、グレー。

 6位の8月生まれ。予想外のことが起きてパニック。家族との時間を、大切にね?ラッキーカラーは、イエロー。

 7位の10月生まれ。死んだおばあちゃんに会えるかも?楽しみだね。ラッキーカラーは、ブラック。

 《がっかりブゥ》

 8位の2月生まれ。これまでの人生を後悔しそう。今さら悩んでも、う~ん……。ラッキーカラーは、ベージュ。

 9位の6月生まれ。巨大なものに挟まれてイタ~イ思いをするかも?最後は諦めが肝心だブゥ。ラッキーカラーは、オレンジ。

 10位の12月生まれ。水の中には入っちゃダメ!長く苦しむことになるブゥ。ラッキーカラーは、ピンク。

 11位の5月生まれ。急いで!あまり時間がないよ。今すぐ魂を磨こう!ラッキーカラーは、ブルー。

 最後は《badブゥ》

 12位の1月生まれ。積み上げてきたもの、経験知識財産。すべてが塵と消えるブゥ。まぁ、キミも……。ラッキーカラーは、レッド――prophecy by:カステーラ響子』


 連続最下位。

 僕は がっくしと肩を落とした。


 にしても、今日の占いなんか変だな。どれもビミョーと言うか、みんなそこそこ悪くないか?


 もう一つ、見てみよう。


『さぁ、それでは番組の最後に、本日のセヴン☆ライス占い行ってみま...SHOW!』


 ちなみに 僕はオムライスである。


『まずは、絶好調!《大盛ラッキーライス》なのは、

 カレーライスなYOU!もうやけっぱち!恥も外聞がいぶんも捨てて、派手に暴れまわれ!ラッキーアイテムは、度数の強いお酒。

 続いて《並盛ラッキーライス》な二皿だ!

 トルコライスなYOU!うまくいけば、悟りを開くことができるかもしれないぞ!ラッキーアイテムは、ベニテングダケ。

 天丼なYOU!ダイエットなんて無駄無駄ァ!好きなだけ食べて、好きなだけ寝て。やりたい放題やっちゃいな!ラッキーアイテムは、睡眠薬。

 さぁ後半戦、《半ライス》なメンツ行ってみ...YO!

 シシリアンライスなYOU!今すぐに真っ暗な地下に向かえ!現実逃避しているうちにすべてが終わる!ラッキーアイテムは、VRゴーグル。

 海鮮丼なYOU!心配するな!痛いのは、一瞬だけだ!ラッキーアイテムは、カッターナイフ。

 天津飯なYOU!世界なんて、ぜ~んぶ夢だ夢だ!ラッキーアイテムは、ワイヤー。

 最後は、絶不調!《小鉢ライス》なのは、

 オムライスなキサマだ!逃げても無駄だ!誰も助からない。ラッキーアイテムは、スタンガン――開運料理研究家 孤高のフライ返し マイケル・J・佐藤』


「全部ダメじゃねぇか!どんな日だよ!?」


 ……。


 ……とりあえず、海苔の佃煮の小瓶とスタンガンをバッグに入れた。

 すると急に部屋が暗くなった。太陽が雲に隠れたというレベルではない。夜になったかのように真っ暗になったのだ。次いでカタカタと窓枠が揺れはじめる。


「なんだ?」


 カーテンを開け、空を見上げた。


「は!?」


 雲を散らし、蒼穹を塞ぐ巨大な隕石が迫って来ていた。


「は?は?ちょ、ちょ、ちょっ……!」


 僕は、慌てふためいて支離滅裂しりめつれつな挙動をしてしまい――


 ご――っ!


「……ンッ!!」


 リビングの床に転がって悶絶した。右足の小指を机の角にぶつけてしまった。

 なんて日だ。左右の足の小指をぶつけるなんて……。

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