アメリカ独立戦争(カナダ侵攻作戦)-3
ウースター将軍は、1776年4月初旬に援軍を率いてケベック市郊外の大陸軍宿営地に到着する。さらに南から少数の援軍が到着し続け、4月末にジョン・トーマス将軍が到着して指揮を引き継いだ時、全軍は,000名以上になっていた。しかし、実際には天然痘やカナダの冬の厳しさのためにかなり減っていた。
5月2日、イギリスの艦船が川を上ってくるという噂が流れたため、トーマスは5月5日に病人をトロワリヴィエールまで退かせる。また、残った部隊も可能な限り速かに撤退させることに決めた。
その日の遅く、15隻のイギリス側艦船がケベック市の下流40リーグ (190 km) に居り、川を遡るための好条件を待っているという知らせが入る。翌日に艦船のマストを視認できたときには、宿営地退去の動きが慌しいものになった。風向きが変わり、艦隊の中の3隻がケベック市まで達したのだ。
レキシントン・コンコードの戦いの知らせがイギリス本国に届いた後、フレデリック・ノースの内閣は反逆者軍と戦う為に外国軍隊の支援が必要になると判断した。そして、北アメリカでヨーロッパ同盟国の部隊を使わせてもらえるよう交渉を始める。
ロシア帝国のエカチェリーナ2世からは拒絶されたものの、神聖ローマ帝国の諸侯からは支援の用意があることが伝えられた。
1776年にイギリスが立ち上げた50000名の軍隊の内、3分の1近くはこれら神聖ローマ帝国諸侯たちの兵士だった。ヘッセン=カッセル方伯領やヘッセン=ハーナウからの兵士はヘシアンと呼ばれるようになる。50000名の内、約11000名はケベックでの従軍に送られることとなった。1776年2月、ヘッセン=ハーナウとブラウンシュヴァイク=リューネブルクからの兵士はアイルランドのコークにむけて出帆した。そして、そこでイギリス軍を運ぶ輸送船団に合流し、4月初旬に出港する。
カールトンは大陸軍宿営地に動きがあることを知り、到着した艦船から直ぐに援軍を降ろす。正午頃には大陸軍に探りを入れるため、約900名の部隊で前進する。これを見た大陸軍はまさに恐慌状態に陥った。カールトン隊が前進を早めると算を乱した撤退は更にに悲惨な状態を呈す。
カールトンは手ぬるいやり方でも反逆者軍に勝てると思い、艦船を上流に送って大陸軍に嫌がらせを行わせ、恐らく行く手を遮ってくれると期待していた。
カールトンは大半が病人か負傷者であったが、大陸軍兵士を多く捕まえる。その中には、セントローレンス川南岸で遺棄されていた分遣隊も含まれていた。そして、大陸軍は逃げるのに忙しく、大砲や火薬など貴重な軍需物資の多くも残していったのだ。
大陸軍は5月7日に、ケベック市から約40マイル (64 km) 上流のデシャンボーで再結集する。トーマスはそこで作戦会議を開いたが、指揮官たちの大半が退却に賛成した。
トーマスはデシャンボーに500名を残し、残り部隊はソレルに行くことを決め、多くの兵士が背嚢の中に着るもの無く、食糧も数日分しか無かったため、モントリオールに援助を仰ぐ伝令も送る。
モントリオールにいた大陸会議代表団はこの知らせに接して、セントローレンス川を守ることは不可能と判断した。そのため、デシャンボーには極僅かな部隊を派遣する。
トーマスはモントリオールからの知らせを6日間待ち、何も得られなかったため、トロワリビエールに向けての退却を始めた。その後間もなく、イギリス艦から降りた部隊と小競り合いが始まる。
5月15日、大陸軍はトロワリヴィエールに到着した。そこで病人を残すとともに、彼らを守るため、ニュージャージ出身の分遣隊も残す。18日までに残った部隊は、ウィリアム・トンプソン指揮下の援軍とソレルで合流する。21日、大陸会議代表団との作戦会議が行われた。トーマスはその日のウチに天然痘を発病し、6月2日に死んだため、後継としてトンプソン将軍が大陸軍を率いることになる。
1776年5月6日、イギリス海軍のチャールズ・ダグラス海尉が指揮する小戦隊が補給物資と3000名の兵士を積んでケベック開放のために到着した。イギリス側の艦船がケベックシティに到着したことで、大陸軍は予定より早くソレルまでの撤退することとなる。
しかし、カールトン将軍はしばらくの間、積極的な攻勢を採らず、5月22日になってから第47および第29連隊と共にトロワリヴィエールに向かう。レ・セドルでフォスター隊がうまく成果を収めた報に接すると、攻勢を掛ける代わりにケベック市に戻った。
トロワリヴィエールの部隊指揮はアレン・マクリーンに任せ、ケベックでは6月1日に到着したジョン・バーゴイン将軍と面会する。バーゴインは大半がアイルランドからの募兵とヘシアンからなる大部隊と豊富な資金を運んできていた。
ソレルに居た大陸軍は、トロワリヴィエールには「わずか300名」がいるだけとの情報を得る。そのため、ソレルからトロワリヴィエールに部隊を派遣して占領し戻ってこられると判断していた。
トンプソンは、イギリス軍援軍の主力が到着したことを知らず、また現地の地形を無視したまま、2000名の部隊を率いる。トンプソンの部隊は湿地に進み、そこで兵力を増強し塹壕に身を隠したイギリス軍の待伏せ攻撃を受けた(トロワリビエールの戦い)。
大陸軍はトンプソンと他上級士官の多数、兵士200名が捕虜となる。しかも、遠征に使ってきた船舶がイギリス軍に鹵獲されるなどの損害を出した。
この結果は、大陸軍にとってケベック地方の占領の終わりを暗示するものになる。この時、ジョン・サリバンが指揮していた大陸軍もソレルから撤退しているが、カールトンはその利点に付けこんで、攻撃することは無かった。
6月14日の早朝、カールトンはついに川を遡上してソレルに進軍する。その日の遅くに到着した時には、大陸軍が朝の内にソレルを放棄してシャンブリーとセントジョンズに向けてリシュリュー川を上りつつあることが分かった。
ケベックからの後退の時とは異なり、大陸軍はいくらか秩序だった後退を行っていたものの、カールトン艦隊の到着によって本隊を離れ、アーノルドの部隊と合流するためにモントリオールに向かった部隊もある。
カールトンはバーゴインに4000名の部隊を率いてリシュリュー川を上らせ、大陸軍の後を追わせる一方、自分はモントリオールに向かって帆走を続けたのであった。
モントリオールでは、アーノルドが下流で起こっている事態を知らず、フォスターとの交渉を終えたばかりだった。
5月15日、サリバン将軍からの知らせを受けるため、下流のソレルに送った伝令がカールトンの艦隊を目撃する。そして、岸に逃れて盗んだ馬でモントリオールまで戻り、その知らせを伝えた。
アーノルドとモントリオール周辺にいた守備隊は伝令の報を受けてから4時間の内に市を放棄し、地元の民兵隊の手に委ねる。カールトンの艦隊は6月17日にモントリオール市に到着した。
17日、アーノルドの部隊はセントジョンズ近くで本隊に追いつく。しかし、本隊であるサリバンの軍隊は戦える状態ではなかった。
そして、簡単な作戦会議によってクラウンポイントまで退却することが決まる。丁度、バーゴインの前衛部隊が到着する文字通りまさにその瞬間に、大陸軍はセントジョンズを離れたのであった。
7月初旬、大陸軍の残党はクラウンポイントに到着する。ケベックでの敗北は決定的となったものの、イギリス軍はまだ動いており、作戦は完全には終わっていなかった。
大陸軍はリシュリュー川とシャンプレーン湖を撤退する時、残された船舶をイギリス軍が鹵獲出来ない様に、撤退する度に用心深く焼くか沈めている。そのため、イギリス軍は船舶を建造する為、数ヶ月を要することになった。
9月28日、カールトンはイギリス本国に宛てて報告書を送っている。「私はこの艦隊が間もなく出帆でき、戦闘で得られる成功を期待している。」と伝えた。
アーノルドはイーサン・アレンと共に1775年5月にタイコンデロガ砦を占領した際、小さな海軍を作っており、それがこの時もシャンプレーン湖を偵察していた。
イギリス軍がアーノルドの部隊に対抗するため、海軍を作っている間、カールトンはモントリオールの事後処理を行っている。
カールトンは、大陸軍が撤退する前のケベック市においても、地元の愛国者側同調者が演じた役割を調査する委員会を形成していた。そして、委員を田園部に派遣し、アメリカ側の活動に積極的に参加した者を逮捕する。その中には、ロイヤリストを拘束した者も含まれていた。カールトンは、モントリオールに到着した時にも同様な委員会を組織している。
7月初旬、ホレイショ・ゲイツ将軍が大陸軍北部方面軍の指揮を任された。ゲイツは直ぐに軍の主力をタイコンデロガに移す。また、クラウンポイントには約300名の部隊を残した。
ゲイツ将軍の主力部隊は、タイコンデロガの防御を厚くすることに専念し、アーノルドにはクラウンポイントでアメリカ艦隊を建造する任務が与えられる。
夏の間、タイコンデロガ砦には援軍が送られ、総勢約10000名の軍勢になったのであった。
10月7日、カールトンは進軍を始め、9日にはイギリス艦隊がシャンプレーン湖上に到着する。10日から11日の夜に始まったバルカー島と湖の西海岸付近での戦いでは、イギリス軍がアーノルドの艦隊に大きな損傷を出させ、クラウンポイントまで撤退させた。
アーノルドはクラウンポイントではイギリス軍の攻撃に対して耐えられないと考え、さらにタイコンデロガまで後退する。イギリス軍は10月17日にクラウンポイントを占領した。
カールトンの部隊はクラウンポイントに2週間留まり、いくつかの部隊はタイコンデロガ砦から3マイル (5 km) の所まで進出させる。そして、ゲイツの部隊を誘い出そうとしたものの効果は無かった。11月2日、カールトンはケベックで冬季宿営を行うため、クラウンポイントから撤退している。
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