第38話 はじめてのこうふく

「清水宗治殿、お連れ致しました。」

 伝令の言葉を、自身の天幕内で聞く親紅だった。

「通せ。」

「はっ。」

 こうして、魔法封じの首枷を着けられた宗治が、入って来た。

「叔父上、誠に残念ですが、あなたを罪人として扱います。……何か、言う事はありますか。」

 『罪人として扱う』と言う言葉とは、うらはらに何か真宵……もとい、逡巡めいた感情を、ちらつかせる親紅だった。

 宗治の唇が、何やら苦し気に震える。酸欠の金魚か、何かの様だ。

「首枷が、きつそうだぞ。」

「そんな事は、ございません。魔法で、丁度良く調整されております。」

 側の家臣に 確認してしまう親紅。

「面倒だな。」

 大股に、宗治へと近づく親紅。

「若君、お待ち下さい。」

 家臣が、制止するのも聞かない。

 気付くと、天幕内の家臣たちが、輪を作っていた。宗治を、かごめかごめするかの如し。

「何か、言う事はありますか。」

 今度は、顔を近づけて、聞く親紅。

 唇をすぼめ、何かを吹き出す宗治。

 金属製の針!

 そう最初に気付いた男が、動いた。

「『火剋金』!」

 針は、瞬時に溶解した。が、時間が無かったのか、針に対魔法防御でも仕込んであったのか、液体のまま飛散する。

 が、勢いが、削がれてくれた。これで、十分だ。

「『火剋金』!」

 今度は、親紅の術で、完全に除去された含み針だった。

「どうやら、身体検査までは、していなかったようだな。」

「申し訳ございません。恐れ多い事でございます。」

 側の一般兵士が、答える。

「そう言う事なら、俺に任せときな。」

 そう言って、宗治のボディ・チェックをする。

「何をする! 無礼者!」

 宗治の怒声など、スルー。最後に、宗治の懐から紙束を取り出した。

「何をする! 返せ!」

 俺は、そいつをチラ見してから、親紅に渡した。

「成程、今この時期に挙兵した理由が、分かりましたよ。叔父上も抜け目ないお方だ。…………(牢屋に)ぶち込め!」

「はっ。」

 兵士は、すぐに察したらしく、宗治を引っ立てて行った。

「君、名を何と言う。」

 さっき、術を使った赤毛の騎士に、話しかける親紅。

「はっ、魔鬼文四郎重良橙爵に、ございます。」

「文四郎、後で褒美を取らせる。持ち場に戻りなさい。」

「はっ。」

 文四郎は、立ち去る。他の家臣達も、全員自分の仕事に戻った。

「良かったよな。上手くいって。」

「当たり前だよ、龍一君。前にも言ったが、彼らは、元々三村領の、三村の家臣。叔父上に譲渡したに過ぎない。忠誠心は、こちらの物だ。従弟の方も上手くいくさ。」

「そりゃ、そーか。で、親紅、清水宗治をどうする気だい?」

「叔父上は、王立法廷で裁かれる。それまで、三村家が、身柄を預かる。差し当たっては、楪城の座敷牢だな。」

「そっか、裁判か。なら、いいや。で、ついでといっちゃあ何だが……。」

 件の黒装束『魔族』が、清水宗治にやらかした事を説明した。ついでに木箱も渡す。

「成程、叔父上も騙されていた訳か。で、その『魔族』は、どうしたんだい。龍一君。」

「殺した。」

「死体は?」

「喰った。」

「……龍一君、君は、どうしてそう、常識の埒外から、話しかけるんだ。」

 胸倉を掴まれ、首を締めあげられる俺。

「ギブぅ! ギブアップ! こういう時こそ、泣いてさっぱりしてぇ~。」

「うん、まったくだ。」

 などと言う当たり前の指摘をする者などこの世界にいない。


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