第37話 はじめてのおりじなる

”何をしておる! 起きよ! 起きるのぢゃぁぁぁぁぁぁっっ!”

「ンンンーっ。ム~~ダぁ……、我が奥義によって、彼は『催眠状態』……それも、『自身が、望む物、全てを手に入れる夢の中』にいます。二度と目覚める事は、ありませんねぇ。」

”このままぢゃと、殺される! 早う動くのぢゃ! 家に帰るのではないのかや!”

「所詮、人間。幾ら『外骨格』が堅くとも、中身(心)はそうはいきません。『自身が、望む物、全てを手に入れる』。そんな美味しい状況を、自ら手放す人間などいませんよぉ。」

”たわけ! この程度で止まる気かや!”

 肩をすくめる黒装束。ついでに、龍一の『神通力』を、術で『探知』し始める。

「所詮、人間風情。人間の本質は、脆弱、惰弱、暗弱ぅ~~。楽をする為なら、如何なる言い訳も容認し、悪事にも手を染める生物。神に甘やかされて、ようやく存在できる生物ぅ。」

 黒装束は、ゆっくりこちらに近づく。

「そして、『神剣』が、存在しない今、我らの勝利は、疑い無し。さて、本来なら餓死するまで放置する所。が、『飲食不要』をお持ちであれば、仕方ありませんねぇ。」

 遂に、拳の間合いに入った黒装束。

「しかも、『外骨格』のせいで、呼吸も不要ですか。しぃかぁし、『魔力』も無限ではありません。このまま、湖に落としましょう。『魔力』が、切れた所で、溺死ですよねぇ。」

”何を、ぐずぐず寝ておる! 起きよ!”

「何の夢を見ているのやら、確か、『シンケンショウブ』でしたか。短いお付き合いでしたが、さようならぁ。」

 黒装束は、最後まで台詞を言い終える事は出来なかった。

「ゲビュッ!」

 俺の右ストレートを、胴体に喰らって数メートル後ろに吹っ飛ぶ黒装束。

「お前は、次に『そんな、馬鹿な。』と、言う。」

 龍一の「ふぅーっ、よく寝たぜ。」は、「お前は、次に『そんな、馬鹿な。』と、言う。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 某奇妙な冒険とも無関係に相違ない。

「そ……そんな、馬鹿な……。私の奥義は、完璧に、完全に、完了していました。何故ぇ。」

「漫画で読んだ事がある。

確か、異世界から放逐された『剣』に串刺しにされた挙句、異世界転移させられた男の話だ。

『幸せとは、やって来ない。自らの艱難辛苦の先に、掴むしかない。』

だったな。あいつらは、俺より遥かに苦労してる。俺が、負ける訳にはいかねぇ。」

「な……何を、言っているのです……ぅ。」

”ちと、口を借りるぞよ。”

【2分以内にしろ。】

「左様か、分からぬか。ならば、聞かせてしんぜよう。…………わらわにも、さっぱりぢゃ。」

「は?」

「ぢゃが、1つ分かっておる。それはのぉ。その方、既に負けて死んでおるのぢゃ。」

【終わったな。】

”うむ。返すのぢゃ。”

 俺は、『増腕』で、『虫』の様な物をつかみ取った。

”説明するのぢゃ! 『増腕』とは、『神通力』ぢゃ。内容は、『余分に腕を生やす事が可能。』ぢゃ。”

【利き腕でこそ無いが、手数が増えるので、有効だ。】

「『思念蟲』か、こいつに、自分の記憶をコピーして、指定する人物の元へと飛ばすんだな。メッセージ伝達手段だぞっと。が、俺は見逃さねぇ。」

 『思念蟲』を潰した。

「どうした。もう終わりか。諦めたか。」

「ならば! この私の全身全霊の力で、『シンケンショウブ』! お前を屠るぅ~~。」

 俺に向かって来る黒装束。

「『刀装腕(とうしょうわん)』!」

”なっ! ……なんぢゃとぉっ! ここに来て、自己流(オリジナル)の『神通力』!”

 俺の手首から肘までが、枝分かれし脇差の様に鋭くなった『刃』。それが、『刀装腕』だ。

「ていっ!」

 俺が繰り出した右の『刀装腕』を、身を沈めてやり過ごす黒装束。

「とぉっ!」

 だが、左の方は、避けきれない!

 だが、黒装束は、思い切った手に出た。

”! こやつ! 左腕で防ぎおった!”

 だが、左腕の半分近くを、失った黒装束だった。

「私の勝ちだぁ~~!」

 俺の脇をすり抜けて、隠し部屋の出入口へと駆け出す黒装束だった。

「思ってたよ。お前は、逃げるってなぁ!」

「うぐぅっ!」

 黒装束は、『ある物』にぶつかって、進めない。だが、黒装束の首に、横一文字の傷が、出来ていた。

「漫画で読んだ事がある。

確か、勇者様ご一行が、天空の城に殴り込んで、大魔王を退治する話だ。

『そこに、見えない刃を、置いておきました。あなたなら、必ず私の背後から襲い掛かる。』

だったな。そいつは、この部屋に飾ってあった剣だ。」

 俺は、振り返り様、黒装束の後頭部に、ハイキックを浴びせる。黒装束は、首を剣にめり込ませた。念の為、更に力を込めた。

「ゴっ!」

「今回使ったのは、『保護色』と『固定』だ。」

”説明するのぢゃ! 『固定』とは、『神通力』ぢゃ。内容は、『術者は、対象物を今ある場所に固定し、動かなくする事が可能。』ぢゃ。”

【生物を固定できない、対象物に触れる必要がある、固定できる数は、現状1度に1つ、固定可能最大重量は、現状5キログラム、と言う制限こそあるが、使える。】

「漫画と、違うのは、お前が、自分の首を斬り飛ばすほど、速く走らなかった事だけだ。」

 黒装束が、絶命したのを確認。

「『第一戦闘形態』……『解除』……『神剣』……『顕現』!」

 『神剣』で、黒装束を突き刺し、肉片から黒い血の一滴に至るまで、全て喰らい尽くした。

”うむ、これにて一件落着ぢゃ。”


 * * * 


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