第36話 はじめてのしあわせ
「ただいま。母さん。」
「おかえり。龍一。」
俺は、家の玄関を、ググ……もとい、くぐった。そして……
「母さん……」
「どうしたの。急に、恋しくなったのかしら。」
俺が、急に抱き着いても、母さんは、優しく抱き返してくれた。
暖かい家
暖かい家族
暖かい……
「母さん、美味しそうな匂い……。」
「ご飯できるから、手荒いと、うがい、制服も着替えてきなさい。」
「うん。」
手荒いと、うがい、着替えを済ませて、リビングに着いた俺を待ってたのは……
「親父、爺っちゃん。珍しいな。二人共いるなんて。」
「よぉ、龍一。」
「帰ったか、龍一。」
今日は、二人共、酒を飲んでない。どうも、酒が混じった二酸化炭素は、臭くていけねぇ。
「龍一、遅くなっちまったが、入学祝だ。」
爺っちゃんが、取り出した物は、俺のドリームだった。
「メットぉ~、きつくなってたんだよ。あんがと、爺っちゃん。」
「そうか、そうか。」
爺っちゃんが、俺の頭を撫でている。ほんわか……
「父さん、そんなに何度も入学祝いを、渡さなくても。……」
「やかましい! この年になるとな、孫との触れ合いが、唯一の娯楽なんだ。」
ん? 既視感? 前にも聞いたような気がする……ま、いっかぁ……
「龍一、いい知らせだ。特例で許可が降りたぞ。次の二輪試験、受けていいってよ。」
「ホントかよ! 親父!」
「あれか、政府主導の高齢者ドライバー減らしか。」
「そうそう、政府が、運転免許の若年化で、高齢者ドライバー減らそうって言うんだ。申請したら、あっさり通ったぜ。明日から教習所、行っていいぜ。龍一。」
「なら、送り迎えは、儂にやらせろ。龍一。」
「ありがと、親父、爺っちゃん。」
「ご飯できましたよ。」
「待ってましたぁ。」
俺は、楽しみでしょうがない。でも、頂きますの前に……
「婆ちゃん、久しぶり。」
「はい、お久リぶり、龍一。」
飯が、並んだ所で、みんな揃って……
「いただきます。」
味噌汁を一口。おや、これ、婆ちゃんの味だ。きんぴらごぼうもそうだ。
そして、メインのかつ丼だぁ。ん、これも婆ちゃんが、手伝ったのか。うめぇ……
「おかわり。」
空になった丼を突き出す。
「龍一は、本当に、よく食べるわね。」
「そうだ、育ち盛りなんだ。食っとけ。龍一。」
「うん、爺っちゃん。」
「はい、どうぞ。龍一。」
「ありがとう。母さん。」
丼を受け取ると、爺っちゃんに、頼んでみた。
「爺っちゃん、ハーレー乗せてよ。」
「いいぜ、龍一。」
「ありがと、爺っちゃん。」
今日は、もう1杯かつ丼喰った。うめぇ……
食後は、ショートドライブだ。
「あんがと、爺っちゃん。」
「約束したろ、龍一。」
新品のヘルメットを装着して、サイドカーに乗り込む。
「いいか、都会の警官は、神経質でいけねぇ。2人乗り位で、違反切符切りやがるんだ。龍一。」
「うん、分かってるよ。爺っちゃん。」
こうして、バイクは、風になる。この風、気持ちいい……
最後は、爺ちゃんに教えて貰って、俺も運転できた。
勿論、爺っちゃんが、警戒してたので、警官には、出くわさなかった。
「ありがと、爺っちゃん。」
「おお、どういたしまして。それより、しっかり勉強して、免許取れよ。龍一。」
「分かってる。約束だもんな。爺っちゃん。」
帰ったら、風呂だ。そして……
「ぷはぁーっ……うめぇ。」
風呂上りには、牛乳1杯。今日は、宿題も無いので、漫画読んで寝るだけだ。
「相変わらず、親父のライブラリーは、すげぇーな。」
おっと、いけねぇ。つい、ツィートしちまった。
まず、1冊漫画を手に取る。
「これは、世界最強の男を父親に持つ少年が、トレーニングを重ね、殴り合いでの『強さ』を認めさせ、『世界最強』を名乗る事を許される話だ。」
次の、漫画を手に取る。
「これは、吸血鬼のせいで、『超能力』に覚醒した男子高校生が、同じく『超能力』の影響で、死にそうになった母親を救う為、地球を約半周し、ラスボスの吸血鬼を倒す話だ。」
また、別な漫画を手に取る。
「親父に、ここの本を全部読みたいって、頼んだ時、言ってた。」
「いいか、龍一。漫画には、必ず共通する特徴がある。それは、作者の『想い』が、込められている事だ。だから、その『想い』を、読み取らないと、漫画を読んだ事にはならない。」
「だから、俺は考えた。そして、作者の『想い』に気付いた。それを親父に言ったら、このライブラリーへの、出入り自由にしてくれたんだ。」
漫画を、元あった場所に、しまった。
「だから、分かる。お前ら、すんげぇ、苦労したんだよな。」
ライブラリーの本と本棚を見上げる俺。
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