第35話 はじめてのくろまく

「左衛門、ここで待ちなさい。」

 自室の前で宗治は、石川久智に告げる。

「上様、しつこいですが、『必ず』『生きて』城を脱出して下さい。」

「分かっている! だが、これだけは、城主としての『義務』なのだ。弁えよ。」

「はっ!」

 1人入室する宗治だった。扉を閉め、素早く施錠する。

「ひらけくろごまだんご。」

 直後、開いた隠し部屋の扉をくぐる宗治だった。

「ふふふ……これだぁ……誓約書さえあれば、負けた訳ではない。否、負けるはずが無い!」

 ちなみに、誓約書の内容は、こうだ。

『三村親盛、親紅の死後、清水宗治に、臣従する事を誓います。』

「よし、三村家の重臣全員が、署名している。後は、廃嫡ボウズと、兄上さえ亡き者にしてしまえば、儂の勝ちだぁっ!」

 しかし、台詞を最後まで言い終える事、叶わぬ宗治だった。

 背後から『精神操作』の術を喰らい、意識を失ってしまったからだ。

「……やれやれ……『三村の血を引く者が合言葉を唱える事でのみ開く鍵』か、まったく面倒な物を、しかけやがってぇ~。」

 黒い仮面に黒装束の人物は、宗治を昏倒させると、隠し部屋で、家探しを始める。

「しかも、中々尻尾を掴ませない。『主から、呼び出しを受けたので、2~3か月留守にする。』そう言ったのを、真に受けてくれて助かったぜぃ~。」

 すると、小さな木箱を取り出す。そして、箱を開けて中身を確認する。

「そうそう、これこれ。やっと見つけたぞ。これで、主様の元へ帰れるなぁ。」

 また、元通りふたを閉める。

「そうか、それを手に入れる為に、今回の反乱を、唆したのか。」

 ここで、ようやく隠し部屋の入り口をふさぐ形で、立つ俺の存在に気付いたらしい。

 黒装束は、俺の方へ向き直った。ついでに、ふたを閉めた箱をしまう。

「ばっ……馬鹿な……何者だ? 何時の間に……。」

「お前、2つ勘違いしてるな。1つ、『人に名を尋ねる前に、自分から名乗れ。』だろ。2つ、『自分以上に上手く魔法が使える奴はいない。』ってな。」

 漫画で読んだ事がある。

確か、元総理大臣とマージャンの話だ。

『人生には、3つの坂がある。1つ、上り坂。2つ、下り坂。最後に、マサカ!』

だったな。マサカ、『精神操作』の応用で、自分を『認識』させない奴が居るとはな。

”油断するでない! さっき言うたぞ。あ奴ぢゃ! とな。”

「そーいや、お前、人間の精神を操作して、強盗団作っただろう。」

「…………成程、そう言う事でしたか。連絡が、途絶えたので、妙だと思ってましたが、君が、捕らえたと言う事ですか。」

「連中が、捕らえられたのは、分別が足りなかっただけだ。それに、随分セコい資金集めだな。操作されてた間の記憶が無いって事は、報酬を請求される心配も無いからな。」

「……随分、奇妙な人間ですねぇ。そこまで気付いているのに、わざわざ姿を見せるとは。そんなに、『口封じ』されたいのですかねぇ……。」

「1つ。イヤーな、予感がすんだけどよぉ。この『誓約書』って、お前が、『精神操作』して書かせたんだろ。」

 宗治が、持っていた書類の内1枚を、見せびらかしつつ話す俺だった。

「……ほぉ! よく気付きました。やはり、君は生かして返すべきでは、ありませんねぇ。」

「つまり、お前の目的は、『木箱の中身』だ。それを手に入れる為『だけ』に、今回の反乱計画を唆し、偽の誓約書で、おっさんを騙して、隠し部屋の扉を開けさせた。そうだろう。」

 俺は、内容を記憶し、用済みの書類を、宗治の側の床に落とした。

「フン! 騙すも何も、謀反はこいつが勝手にやった事、『精神操作』されたのは『精神薄弱』故です。全て『自己責任』に他なりません。」

「漫画で読んだ事がある。

確か、就職氷河期世代ビジネスマンの話だ。

『自己責任と言う言葉を使う人間は、自分の責任から逃げる奴だ。必ず逃げる。』

だったな。今から、お前にブーメランしてやる。『自己責任』をな。『へ、ん、しーん。』」

 『第一戦闘形態』……メタモルフォセス……コンプリート!

「改めて、名乗らせてもらうぜ。俺の名は、『神剣昇武(シンケンショウブ)』だぁっ!」

 とりま、ポーズを決めてみる。だが、奴の反応は、薄かった。

「……馬鹿な……あり得ない! お前は、『マンジマル』様が、『帰ってこれない場所』へ、放逐したはず。何故、ここにぃっ!」

「左様、あの時、わらわに残された『魔力』だけでは、無理ぢゃった。ぢゃが、運命の悪戯か何かが、わらわと、こやつを引き合わせた。こやつの力を上乗せしたら戻れたぞ。」

「こら、会話に参加したいからって、勝手に俺の口使うな。」

”おお……すまぬのう。ちと借りるくらい許せ。”

【おひおひ……事前の許可をとれ。】

「だが、人間風情に、その様な力が、あるはず無い! 『異世界転移』など!」

「ん? 言ってなかったか。俺、龍(ヤマタノオロチ)の末裔なんだ。」

「ばかな……………………。」

「俺の家系って隔世遺伝っつうの、時々龍の血が濃い男子が、生まれるんだと。そう言う奴は、歴史に名前が残るんだ。爺っちゃんは、お前もそうなるって、言ってたな。」

「まさか、それが異世界でやり遂げる。とはのぉ……。アマクサとは、数奇な運命と縁があると言う事ぢゃ。」

【こら、勝手に名前をバラすな。それと、俺を異世界転移させたのは、お前と『魔族』共だ。他人事みたいに言うな。】

”ぢゃが、今やわれらは、運命共同体。目的の為に、一致協力が、不可欠ぢゃ。差し当たっては……。”

「つー訳だ。お前らが、余計な事してくれたおかげで、俺は家に帰りそびれた。だから、『食いシン坊剣』、略して『シン剣』の餌になってもらうぞ。」

”失礼な奴ぢゃのぉ……。”

「……仕方ありません。ならば、この私の奥義で、葬って差し上げましょう!」


 * * * 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る