第34話 はじめてのしろはた

「誰か! 誰かいないのか!」

 喚き散らしながら、城内を徘徊する清水宗治だった。が、鳥の鳴き声……

 もとい、閑古鳥としか出会う事は、無い。無いまま、時だけが、過ぎてゆく。

「何故だ! 何故、こうも早く人がいなくなる!」

「上様ぁーっ! こんな所においででしたか。」

 ようやく、宗治に追いついた石川久智だった。

「おお、左衛門、探したぞ。一体何があった。」

「それが、昨晩城に、河川運輸業者の船が、多数乗りつけました。そして、城内の兵、民間人、全て柵外へ逃がしたのです。説得を試みましたが、耳を傾ける者は、いませんでした、」

「なん……だと……………………では、奥は、見つからないのは。」

「それが……」

「上様、こんな所においででしたか。」

「おお、明日丸か。お前も逃げずに…………。」

 腰巾着……もとい、側小姓は、お姫様抱っこした10歳児を、床に降ろした。

「父上!」

「おお、満福丸!」

 親子が抱擁する感動の対面。

「どうした、満福丸。何があった。」

「昨日の夜、母上が、奥女中を全員連れて、船で逃げようとしたのです。でも、僕……私は、父上の側にいたかった。でも、無理矢理連れていかれそうに……そうしたら……」

「そうしたら?」

「明日丸殿が、助けてくれたのです。」

「そうだったのか、でかしたぞ、明日丸。」

「奥様の説得に失敗した非才の身には、もったいなきお言葉にございます。で、これから如何に取り計らいましょう。」

「上様、恐れながら申し上げます。」

 ようやく、口を挟める石川久智だった。

「左衛門、皆まで言うな。」

「しかし、上様、我らには戦う兵も、兵糧も一切合切残されておりません。このまま戦を長引かせても良い事は、ございません。どうか、ご英断をお願い申し上げます。」

「左衛門、発言を許可した訳では無いぞ。」

「しかし、上様。」

 尚も言いつのる石川久智を、片手で制する宗治だった。

「儂は、降伏する。」

「上様、ご英断、お見事にございます。」

 深々と礼をする石川久智だった。

「だが、儂には、最後の務めがある。お前達は、先に行け。儂も後から合流する。」

「父上……。」

「私からも1つ、宜しいでしょうか。」

「何だ、明日丸。」

「満福丸様には、父親が必要です。どうか、我が子の為に、生き延びて下さいませ。」

「私からも、お願い申し上げます。」

「父上……。」

「分かっている。儂とて、死に急ぐつもりは無い。どうしても、果たさなければならないのだ。」

「分かりました。では、私は、満福丸様と共に、船の手配を致します。」

「頼むぞ、明日丸。」

「父上……必ず、会いに来て下さい。」

「ああ、後でな、満福丸。」


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