第33話 はじめてのしろぜめ

「漫画で読んだ事がある。

確か、サルと呼ばれながらも、天下人にのし上がった男の話しだ。

『沼地に囲まれた城を攻めるには、水攻めだ。堤防を築いて、川の水を引き入れ、湖に浮かぶ城にすればよい。兵糧米を運び込むのは、ほぼ不可能になる。城内の食料が尽きれば終わる。』

だったな。今の楪城は、そいつだ。」

「龍一君、上手くいったな。木製の柵、外側に少し低い木製の柵、その間に鉄筋の格子状柵、とコンクリート。見事な『鉄筋コンクリート製堤』の完成だ。」

「火行の術者を連れてきたから、乾かすのも速かったし、コンクリートは、少しづつ入れたのも良かった。何より、『戦略級攻撃魔法』が、無くて良かった。」

”説明するのぢゃ! 『戦略級攻撃魔法』とは、通称ぢゃ。そう言う系統が存在する訳ではない。但し、とても高難易度の、習得条件の上に存在する、爆発的な威力と射程の魔法ぢゃ。”

【例えば、水行の『津波』、火行の『火山』、土行の『大地震』、金行の『隕石召喚』などだ。いずれも環境に甚大な影響を及ぼす。城砦など木端微塵にする魔法だ。】

 俺達は、二人並んで眼下の湖を見つめる。

「龍一君、だから、言っただろう。『戦略級攻撃魔法』は、違法なんだ。『戦略級攻撃魔法』を習得する事も、習得した術者を『召し抱える事』も、ばれれば王国への『反逆罪』だ。」

「ん? 確かお前から借りた本にあったぞ。『王国から許可をとれば、習得可能』ってな。」

「龍一君、それは、一生を国王陛下の直属臣下として、『陛下の命令に逆らった場合、即死』の『呪い』を受け入れる事で初めて可能になる。」

「更に、国王以外の者が、雇うのも違法か。確か、大枚払って、国王から貸して貰うんだよな。『戦略級攻撃魔法』の使い手。」

「龍一君、そもそも許可が、降りないよ。そんなに、簡単にはね。」

「でも、山本勘助とか、竹中半兵衛とか、黒田官兵衛とか、片倉小十郎とかっていたじゃん。」

「何だ! その『如何にもヤラかしそうな名前の連中』は!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「龍一君、それは、500年以上前、群雄割拠の時代の話だ。今は、法による統治が、行き届いている。無理なんだ。」

「まっ、いっか。無理なんだから。堤防を壊す手段が、無いんだから。やっぱり作ってよかったろ。湖に浮かぶ城。」

「……龍一君、正直君の意見に、否定的な意見が、多かった。が、これなら城内の兵は、自分が池須の魚になった気分を味わう。やがて絶望し、心が折れる。皆納得していたよ。」

「んじゃ、次の手だな。」

「龍一君、それも問題無い。三村領内は、川の恵みが多い。ここを流れている高梁川しかり、その支流庭瀬川しかり、河川による水運が、盛んなんだ。」

「そして、今回の工事で、川の水を湖に回したせいで、流れを変えちまった。水運業者にとっちゃあ、『商売あがったり』だな。が……」

「湖の中を、船で進み、降伏を受け入れる兵士を、運搬してもらう。交渉は、済んでる。」

「しかも、運賃は、投降する兵士自身が、払う。俺らの懐は、痛まない。」

「龍一君、だが、敵の油断を誘う為に、船で芸人や歌手を運んで、歌や芸を披露してもらうには、多少のお金が、かかったよ。」

「ありゃ、そっかー、わりぃ事しちまったか。」

「龍一君、気にする程の事も無いよ。これも全て『無駄な血を流さない戦』の為だ。それより、久栄さんは、間に合ってよかったな。お陰で、市右衛門が、喜んで協力してくれたよ。」

「そりゃ、そうさ。久栄さんは、兵士2人に押さえられて、側に剣持った奴もいたからな。」

「それ、ややこに、影響が無ければいいがな。」

「そりゃ、お医者でもなきゃ、分からねぇ。でも、すぐに久江さんが、見つかって良かったぜ。それに、俺の言った通り、久栄さん用の小屋を作って正解だったな。」

「やれやれ、無茶するな。龍一君。」


 * * * 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る