第11話 はじめてのしゅっぱつ

 馬久兵衛さんは、仕事が早い。2日で、出発まで漕ぎ着けた。

「おっかしぃなぁ。『あれ』何処やったけ。」

「りゅう一様、ありました。」

「おっ、ありがと。かつ。」

 かつから、ボーラを受け取った。

「どういたしまして、また、つかいかた、おしえてください、りゅう一様。」

「ましてぇ。」

 さて、そろそろ……そう、思った矢先だった。

「龍一様、そろそろ出発です。」

「ありがとう、村長。」

「じゃあな、かつ、れい。」

「いってらっしゃいませ、龍一様。」

「ませぇ、りゅういちさま。」

 頭巾を微調整し、帽子を被って、村長宅の外に出ると、村人が総出で、出迎えてくれた。

「龍一様、道中お気をつけて。」

「龍一様、またお来しください。」

「龍一様、餞別です。」

 色んなものを渡された。一々確認するのが、大変だ。だが……

「りゅういちさまぁ、リンゴのはちみつづけ、たべてください。」

 断腸の思いを貌に浮かべた子供が、やって来たときは、悪いと思った。

「だから、かならず、ここにかえってきて、ください。りゅういちさま。」

【これって、あれだな。】

”お主の言い分、分かりにくいのぉ。”

【多分、親に言われたんじゃねぇか。『林檎の蜂蜜漬け』を差し出せ。でないと、俺が村に戻ってこない。ってな。】

”そうか、そうか、さもありなん。”

【何で、そんなに、俺を村に再来させたいんだろうな。】

”当たり前ぢゃ。お主が、村に仇なす害獣共を立て続けに、3匹退治したぢゃろう。”

【え? あれバレてたの。折角、村人全員が、寝るのを待ってたのに。】

”当たり前ぢゃ。この村には、狩人がおらぬ故、害獣対策には落とし穴くらいしかない。が、一向に捕まらない。左様に村長が、申しておった。”

【…………。】

”今まで、連中は落とし穴を巧妙に避け、村の作物を喰い荒らしておった。それが、立て続けに落とし穴で絶命。しかも、落とし穴を増やした訳でもない。察するも容易かろう。”

【………………そっか、バレてたのか。まぁ、しゃーないな。】

”……やれやれぢゃ。”

「それは、受け取れねぇな。林檎の蜂蜜漬けは、お前が食べるんだ。」

「……いいの?」

「俺は、必ずここに、戻って来る。だから、お前が食べるんだ。」

「はい! りゅういちさま。」

 子供の貌は、台風一過の快晴の如し。

「じゃ、俺は出発する。みんなも元気でな。」

 俺が、馬車に乗り込むと、村人全員から、「万歳!」と何度か聞こえてきた。

「ここで、万歳三唱かよ! 何時代混ぜてんだ!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。


 * * * 


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