第9話 はじめてのぎょうしょうにん

 あれから数日が、経過した。この数日は、色々あった。

 件の性悪イノシシが、落とし穴にはまっていた事に、首を傾げつつも、大喜びの村人達。

 ぼたん鍋に舌鼓を打った。と言っても、村人全員で、分配した為、俺も一口だけだった。

 ちなみに、かつが、捕まえたウナギを、樽で飼育している。ウナギの餌は、タンパク質だ。野生のものは、川魚や昆虫を食べるらしい。今回は、件の性悪猿を、バラして与えている。

 件の猿は、下茹でして灰汁をとってから、希望する家庭に分配した。

 猿の肉何て臭くて食べられたもんじゃあない。他の家では、味噌漬けだ。でも、ウナギが、喜んでいるので、村長宅での最後の晩餐になる。そうこうする内に、その日は来た。

「龍一様、馬久兵衛さんが、到着しました。」

 村長の話を聞いた時、俺は、丁度わらじを一足編み終えた所だった。

「お、っそっか。あんがと。村長。……かつもあんがと。わらじの編み方教えてくれて。」

「どういたしまして。りゅういちさま、さんすうおしえてくれて、ありがとうございます。」

「いたし……ましてー。」

「おう、どういたしまして。九九は、しっかり暗記しとけよ。」

 村長と共に、馬久兵衛さんを出迎えに行く。村長夫人に作ってもらった頭巾と、鍔広の帽子を着用の上でだ。

 ここで、1つ謎が解けた。そんなに、おおげさなもんじゃあないとも言えるが。

 村長宅に、馬を6頭収められる馬小屋がある。だが、馬は1頭もいない。

 要は、馬久兵衛さんの馬車3台を、引く馬を収める為だった。

「ごんぞうさん、今日も宜しくお願いします。」

 そう挨拶する馬久兵衛は、銀色の立派なもみあげ以外は、スキンヘッドの細い三十路男だ。

「馬久兵衛さん、今回もお願いします。こちらは、龍一様です。」

「ども、龍一です。」

「…………馬久兵衛です。」

 馬久兵衛は、使用人に馬を馬小屋につないでおくよう、指示すると、村長宅にお邪魔する。

「実は、折り入って、お願いがあるのです。」

 そう、切り出す村長。まず、龍一の紹介をする。その後に……

「待ってください。村長、お話を遮ったのは、失礼かと。しかし、今の話、龍一様の出自次第で、吉にも、凶にもなりえますよ。」

「そうでしょうな。ですが、龍一様は、猪鹿村の災いを、取り除いてくださいました。とても善い方です。」

「勘違いですよ、村長。」

「勘違い? ですか。」

「もし、凶と出た場合、村長に災いが、降りかかりますよ。ひょっとすると、『猪鹿村』全体かもしれない。」

「それなら、何とでもなります。最悪、『知らなかった』で、押し通します。龍一様も、同様です。むしろ、私は、龍一様を、保護すべきと思います。と言っても、老人の直感ですが。」

「……わかりました。……いえ、分かったような気がします。で、龍一様を保護し、王都までご案内すれば、よい訳ですね。」

「引き受けて下さいますか。馬久兵衛さん。」

「お馴染みの、お客様の頼みですから。今回は、特別ですよ。」

「ありがとうございます。」

「有難う。馬久兵衛さん。」

 頭を下げた村長、俺だった。

 この後、今後の方針を、手短に打ち合わせた。馬久兵衛さんだって、暇じゃないのだ。


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