第8話 はじめてのげんばく

「太陽光発電装置付きスマートフォン。」

『ピカッ! ピコピコピコン』

”ん? 今何か音がしなかったかや?”

【きっと、気のせいだ。】

「つか、スマホ取り出すだけで、音をたてるのかよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「きっと、気のせいだ。」

 などと言う無意味な指摘に事実を被せる者などこの世界にいない。

「腕時計は 直流電気でも動くから小型化も可能だが、交流電気が必要なスマホじゃ無理だろ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「大丈夫だ。そんなもの、発明された後の未来から、転移してきた事にすれば問題ない。それも時間の問題だ。」

 などと言う無意味な指摘に事実を被せる者などこの世界にいない。

「おひおひ……ただでさえ、『なろう』は、『ご都合主義』だって言われてんのに……。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

 ちなみに、現在時刻02:09。流石、耐久性に定評のある某社の製品だ。異世界転移にも耐え、圏外である事を除けば、問題なく使える。

 『融合』の影響か、身体能力や五感全てが、底上げされている。今でも、昼間同様に周囲の物体や状況を、認識できてるし、耳をすませば、離れた場所の、獣の呼吸音も聞こえる。

 村は静寂と闇に満ちている。だが、念の為だ。大きく育った稲穂に、挟まれる形のあぜ道で、和式便所の様なしゃがみ方をする。これで、周囲からは見えない……。

「鏡さえあれば、こんな事する必要も無いんだがなぁ……。」

 等と言う無駄口を叩かない俺だった。

 写真をとって、内容を確認する。

「あちゃぁ、やっぱ、虹色だわ。」

 つい、ツィートしちまった。

”ほぉ……便利な道具ぢゃのぉ……。『スマイルひゃくえん』と言うのかや。”

【スマートフォン。………………だが、まずいな。これは絶対にトラブルを、呼び寄せる。】

”『魔族』や『龍族』が、やって来てくれるなら、問題なかろう。”

【そいつらより、人間の方が、圧倒的に数が多い。だから、人間とのトラブルになる。それは、イヤだ。】

”ぢゃが、どうしようもなかろう。”

【手はある。だが、今はそんな事より……。】

”やはり、ヤるのかや?”

「『へ、ん、しーん。』…………とぉっ!」

 『第一戦闘形態』になった俺は、跳躍!

 カブを畑から引き抜こうとしている『奴』の側、あぜ道に着地。

「おめぇだな。根菜を根っこから引き抜いて、喰っちまうって言う性悪イノシシってのは。……話しは、村長から聞いてるぜぇ。」

 『完全言語』は、あらゆる生物に、有効だ。

 『奴』は、俺に向き直る。どうやら、メシを邪魔しに来たコイツを、どう料理しようか。……とでも考えていそうな貌だ。

「ホントなら、今すぐ、おめぇを叩きのめして、世話になった人達の、食料にしてぇ。だが、1度だ。1度だけ、警告する。」

 『奴』を「ビシッ」と指さす。

「今すぐ立ち去れ。二度とこの村に近づくな。そうすれば、俺は、おめぇに、何もしねぇ。……さもなくば、……って、ヤる気満々かよ。……しゃーないな。」

 『奴』は、しきりに右前蹄で、地面をひっかいていた。

 そこで、俺は、両脚をガニ股に開いてから、腰を落として、低い姿勢で前屈みになる。

「漫画で読んだ事がある。

確か、国技をテーマにした学園スポ根物だ。

『はぁぁっけよい。、……のこったぁぁっ!』」

 一瞬、両手を地面についてから、『奴』へと突進する俺。同時に突進する『奴』。

「どどどっせぇぇっい!」

 『奴』と俺は、激突した。『奴』の両牙を両手で押さえ、突進を阻む俺。

「漫画で読んだ事がある。

確か、科学漫画雑誌だ。

『猪は、突進する力こそ、強いが、引いたり、曲がったりする器用さを持ち合わせていない。』

だったな。」

 押しても動かないにも関わらず、『奴』はひたすら押し続ける。だが、びくともしない。

「本日の取り組みは、土俵が無ぇ。つまり、土俵際の駆け引きも無ぇ。だから、このまま押し切らせてもらう。どどどっせぇぇぇっい!」

 低い姿勢から、伸び上がる。必然的に、『奴』の牙諸共、前半身が、宙に浮く。『奴』は、後脚で必死にもがくが、この体勢では、本来の半分の力も出せない。

「成体、雄、体重約100キログラム。日本の猪より少し重いが、問題ない。」

 俺は、顔を『奴』の胸、両前脚の間に押し当て、両手を離す。代わりに、『奴』の脇の下、胴体をがっしり押さえる。これで、両前脚もほとんど動かせない。

「……どどどっせぇぇぇっい!」

 エビぞり。そのまま、ブリッジを作る。結果、『奴』の前頭部を地面に、叩きつける。勿論、『奴』の全体重諸共にだ。

「ワーン、ツー、スリィィィッ!」

 『奴』の身体を離して、立ち上がる。『奴』は、ゆっくり静かに倒れ、ピクリとも動かない。

「ええ、相撲大好きですよ。だけど、君、『原爆固め』とは、反則ではないが無茶ですよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「Daah!」

 思わず、ガッツポーズをしてしまった俺。

「…………はっ! ………………しまった。これ、プロレス技だった。」

”なんぢゃ? それは。”

 俺は、『奴』の身体……死骸を放り投げた。死骸は、夜気を切り裂き、野球の外野フライの様な放物線を描いて、落とし穴に落ちた。勿論、頭部を下にしてだ。

「ま、いっか。」

 『第一戦闘形態』を解除し、村長宅に帰って寝る。今日は、お休み。……


 * * * 


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