第7話 はじめてのやくそく
「村長、孫ちゃん達、ぐっすりだぞ。」
「ご迷惑をおかけしました。龍一様。」
「時に、村長。1つ聞きたい。今どんな『嘘』をついている?」
「は? ……な、何の事でしょうか、龍一様。」
「さっき、村長の言葉で、1つ引っ掛かる発言があった。おせつを『倅の嫁』と呼んだ時だ。何か、違和感を感じた。子供の前で、言いにくい事でも、今なら大丈夫だ。」
「……龍一様は、目聡いですなぁ。分かりました。お話ししましょう。ですが、1つお願いが。」
「他言無用だろ。」
「はい、お願い致します。龍一様。では、お話します。かつ、れいは、間違いなく、倅とおせつの子供でございます。ですが……」
「ですが?」
「倅と、おせつは、夫婦では無いのです。」
なんだぁってぇー!
「ん?何か。」
「いや、何でもない。続けてくれ、村長。」
「はい、龍一様。倅は、騎士になる前、修行中でした。爵都で、倅とおせつは、知り合い交際し、子供まで設けたのです。そして、『騎士なった暁には結婚』そう約束までしていました。」
何だろう……嫌な予感がする。
「やめとけ、やめとけ、『嫌な予感』なんて、当った時のダメージが、大きいぞ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「しかし、倅の騎士叙勲こそが、罠だったのです。倅は、騎士家の婿養子に入るよう、領主様より命じられました! 断れば、一生騎士にはなれない。とまで……。」
「そんな事が……じゃ、騎士になるか、おせつとの結婚か、2択を強いられたのか?」
「はい、龍一様。そして、倅は、おせつと、わしら夫婦を説得し、おせつと、孫達をここに、かくまったのです。」
「それって、出世の為に、女を捨てたクズにしか見えねぇーな。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「つまり、おせつと孫ちゃん達を、爵都に置いておくと、騎士家で、子供が出来なかった時に、後継ぎにするから、『寄こせ』とか言われる。って事か? 特にかつが。」
「龍一様は、察しがお早いですな。それに、ここなら3人くらいの食い扶持。何とかなります。おせつも、かつもよく働いております。」
「話しは、変わるけどよ。『騎士になると、指定する村1つの年貢米軽減処置あり』って、さっき言ってたな。それって、どれくらいなんだ?」
「龍一様、年間8分でございます。」
「8分……って、8%か、微妙だなぁ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「今は、五公五民だから、それが42対58になる訳か。だが、浮いた8分の米を7年備蓄し続ければ、5割6分。つまり半分を超える。これなら、年貢米1年分になるな。」
「その通りでございます。龍一様。しかし、『兵士』では、2厘にしかなりません。倅もおせつも、悩んだ上での決断です。」
「そー言えば、村長の息子って、今は何て名前だっけ?あと禄高も。」
「はい、龍一様。魔鬼文四郎重良(まき・ぶんしろう・しげよし)、100石でございます。」
漫画で読んだ事がある。
確か、サルと呼ばれながらも、天下人にのし上がった男の話しだ。
『百姓だった時は、名字も無かったが、出世し禄高が上がる度に、名前を改めていった。』
だったな。恐らく、村長の息子も、騎士になって、名前を変えてるはず。正解だったな。
「分かった。確かに、戦争で命を落とす覚悟もそうだが、村の為に、年貢軽減処置を選んだ。しかも、おせつや、孫ちゃん達に、類が及ばないようにした。そう言う事か? 村長。」
「はい、龍一様。」
「分かってるよ。あんたの息子は、立派な騎士……男だ。それに、約束も守る。」
「ありがとうございます。龍一様。」
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