第4話 はじめてのむら

 そうこうする内に、村に着く。

「騒がしいな。」

 ハーレーダビッドソンを『無限収納』にしまい、徒歩で村に接近する俺。

”説明するのぢゃ! 『無限収納』とは、『神通力』ぢゃ。内容は、『無限収納が可能で、中は時間が停止している上、中身を見られることも無い。』ぢゃ。”

【生物をしまう事が出来ない事を除けば、実に有意義な能力だ。】

「そっちに行ったぞぉー!」

「こんの性悪ザルめ!」

 騒いでいるのは、恐らく村人だろう。

 すると、遠くから一匹の猿が、こちらに走って来るのが、見えた。

 そこで、木の陰で、『影化』と『保護色』『物品創造』を使って待つ。

 案の定、猿は、木に登る。樹の上は、言わば猿のホームグラウンド。人間如き、振り切るのは、簡単。そんな処だろう。

「漫画で読んだ事がある。

確か、漫画で世界の武器を、分かり易く紹介したものだ。

『ワイヤーの両端に、1つずつの重りを付けた狩猟道具を、ボーラと呼ぶ。』

だったな。」

 『影化』と『保護色』を解除し、『物品創造』で作った即席のボーラを使う。猿は、上る途中の幹諸共、ボーラで全身をがんじがらめに、縛り上げられた。

「ん、これでよし。スチールウール製のワイヤーは、簡単には、噛み切れないだろう。」

 そこに、村人らしい男衆が、やって来た。皆一様に、殺気立っていたが、猿の様子を見るなり、「へ?」と言う貌になる。

 まあ、こんなもんか。

 ちなみに、村人達は、マゲこそ無いが、黒髪黒目の日本人風だ。

「こいつを、引き渡す前に、1つ聞きてぇ。こいつは、何をしやがった?」

 それまで、ポカンとしていた人々は、急に我に返った。何だか、後から後から集まってるな。

「その性悪猿は、俺達の冬備えの食料を、食い荒らしやがったんだ!」

【お、『完全言語』が、利いてるな。】

”説明するのぢゃ! 『完全言語』とは、『神通力』ぢゃ。内容は、『術者は、この世界の如何なる生物とも意思疎通が可能。』ぢゃ。”

「うちは、干し柿だ!」

「うちは、干し芋だ!」

「つか、干し柿に、干し芋に、泥棒猿って、ここは、日本かよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「和風ファンタジーなだけに。」

 などと言う無意味な指摘に、無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

”つまり、盗人ぢゃ。自業自得、是非に及ばずぢゃ。”

「そーいや、爺っちゃんも干し柿大好きなんだ。よく、一緒に食べたなぁ……。」

 念の為、噛まれない様、注意して猿の口を開かせる。口臭に辟易としながら、歯クソを取って口に入れ、味をみる。口の中のものを吐き出してから、村人に告げる。

「間違いない。確かに、干し柿だ。猿は、干し柿なんて作る訳がない。あんたらの言う通りだ。じゃ、後はお好きにどうぞ。」

 俺は、木から離れる。集まった村人達に近づくと、自然とみんな道を開けていった。要は、引いているのだろう。そこを通り抜ける。

”お主、よくも、かような臭き物を口にできたのぉ。”

【漫画で読んだ事がある。

確か、法廷闘争劇だ。

『人1人を、有罪と言う為には、その人物の人生に、100%の責任を負う義務がある。』

だったな。もし、俺がサルを引き渡したら、村人はサルを殺して、冬の食料にするだろう。】

”それが、どうかしたのかや?”

【それは、俺が、サルを殺したのと同じだ。だから、奴を死刑にするだけの、『有罪』と決めるだけの決定的な、証拠が必要だ。それが、『責任』だ。】

”そこまで、気に病む必要が、あるかや。たかが盗人サル1匹。”

【もし、サルが無実だったなら、どんな手を使っても、村人を止めた。……あの家を見ろ。軒先にぶら下がっているのが、干し柿だ。そして、明らかに食い散らかした痕跡がある。】

”成程、確かにそうぢゃ。”

【しかも、ご丁寧に歯型まで一致してる。決まりだ。それに、サルが、言っていただろ。自分は、悪くない。只の木の実を食っただけってな。だから、全て自業自得だ。】

「おいおい……『完全言語』とやらは、猿にも有効かよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

”お主が、それで納得しておれば、よいのぢゃ。”

 そこに、小柄な老人が、姿を見せる。

「わしは、猪鹿村の村長、ごんぞうです。この度は、性悪猿を捕まえて頂き、誠にありがとうございます。」

 深々と礼をする村長。

「あー……どういたしまして。つか、出しゃばっちまったけど、いいのか。」

「とんでもない。猪鹿村一同、皆感謝しております。なにしろ、この村は、実りこそ豊かですが、収穫前の作物や食料を狙う不届きな、輩……特に獣が多いのです。」

「そうだったのか。人助けになってよかった。」

 俺が、大好きなヒーローは、人助けをするものだ。

「ところで、じき日暮れです。この辺りでは、宿泊する場所にもお困りでしょう。狭い所ですが、我が家にお泊りになられては? 些少ながら、お食事も。」

「助かる。と言いたい所だが、俺は銭を持ってねぇんだ。」

「とんでもない! お礼をしたいのは、こちらの方です。銭など受け取れません。」

「じゃ、世話になるよ。」

 俺達は、よく実った稲を、わき目にあぜ道を進む。

「広いなー。それに、稲もよく実ってるじゃん。」

「ええ、これもそれも、村が、一丸となって仕事をしてきた成果です。ようやく、稲刈りまでこぎつけました。今は、村全体が忙しいのです。とはいえ、わしらは、恵まれています。」

「どう言う事なんだい?」

「領主様の善政の賜物、なんと、五公五民です。お陰様で、自分で作った米を、少ないながらも食べてよい事になっております。」

「漫画で読んだ事がある。

確か、早き流れる事、曇の如しと言う男の話だ。

『年貢米は、五公五民。つまり、税は収穫米の半分だ。』

だったな。」

「おや、何か?」

「いや、何でもない。稲刈り、大変そうだな。なんなら、手伝うか。」

「時に……あなた様は、かなり高貴なご身分のお方と、お見受けします。宜しければ、お名前をお教え願えませんか。」

「高貴? そーだっけ。」

「わしとて、伊達に長生きしてきた訳ではございません。立派なお召し物に履物。見たこともない品々ばかりです。更に、色彩鮮やかな、虹色のお髪、間違いございません。」

【虹色の髪? 髪染めっと、校則違反だから、黒だぜ。どゆこと?】

”それは、恐らく、わらわと融合した際、『神通力』や『魔力』も、お主と融合した。その影響ぢゃろう。”

【なななぁぁぁんだぁってぇーっ!】

「わしら平民は、『才能』が無いので、黒髪黒目です。しかし、『才能』を持つ者は、色鮮やかな髪と、瞳をお持ちです。身分がお高いと後者に生まれつく。それが世の習いです。」

”そんな事より、お主、村人と慣れあい過ぎぢゃ。ここは、面倒事を避けるべし。わらわは、偽名の使用を推奨する。”

【そもそも偽名なんぞ、スパイや犯罪者が、使うもんだ。だが、しゃーない。もし、俺と同じ名字の奴がいたら、その一家全員の、迷惑になるかもしれねぇ。】

「漫画で読んだ事がある。

確か、恋愛に関する男女の価値観の話だ。

『最も、扱いづらいのは、察して欲しい。そう、思い、言葉にしない事だ。』

だったな。」

「村長……そのー、えー、俺の名字を聞かないでくれ。すまん、そこは、『察して欲しい』。」

 村長は、眼を細めて、「うんうん」と頷いてくれた。何を察したのかは、不明だが、きっと察したのだろう。

「そう言う事でしたら、何とお呼びすれば、よいでしょう。」

「龍一。」

「そうですか。では、龍一様、こちらへどうぞ。」

「待ってくれ、『様』も取って欲しい。」

「それは、なりませぬ。それを許して良いのは、家族のみ。わしは、龍一様を、御もてなしするしがない平民でございます。どうか、『お察し下さい』ませ。」

 深々と礼をする村長。

「ありゃ、こりゃ、一本とられたかな。……んー、好きに呼んでくれ。」

「はい、龍一様。時に、1つ注意点がございます。」

「何だい? それは。」

「西の山に行ってはなりません。」

「何故だい?」

「あそこは、『龍族』が、出るのです。危険ですから、決して足を踏み入れてはなりません。」

 手にした杖で、ある山を指し示す村長。

”それは、あれか?”

【だろうな。村で情報収集したかったんだがなぁ……。さっき殺っちまったよ……。】

「分かった。西の山には、行かないよ。」

「そうですか、それは良かった。では、こちらへどうぞ。」

 村長宅は、村一番の大きな家だ。柿やみかんらしい実が付いた木もある。勿論、猪鹿村では、お馴染みの草ぶき屋根だ。こうして、村長宅に案内された。


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