第2話 はじめてのかり

「漫画で読んだ事がある。

確か、星型のアザをその身に宿す一族と、仲間達の冒険譚だ。

『こういう時、我が一族には、伝統的な戦闘手法がある。それは……』

『逃げる!』」

 全速力で、走る俺。

”逃げるなぁぁぁあっっっ!”

【さっき確認したが、『飛行』や飛び道具の類は、『魔力』不足で、使かえねぇー。】

”それが、どうした!”

【つまり、空を飛び回る敵には、対抗手段がねぇ。】

”それが、どうした! 闘え!”

【勘違いすんな。俺は、戦ってる。どうしても行かなきゃならねぇー。『あの場所』に!】

”むっ! 気付かれたぞよ! 警戒せんか!”

 上空の『奴』が、俺を見下ろすと、一息吸う。次の瞬間、口から炎の球……『火炎弾』を、放った。目標は、俺だ。

「おっと!」

 とっさに横っ飛びして、回避する俺。つい、言葉が、口から出てしまう。

「あっぶねぇー……単体攻撃の『火炎弾』で、助かったぜ。Nice! 出し惜しみ。」

”気を付けい! 次が、来る!”

「漫画で読んだ事がある。

確か、戦車同士の模擬戦闘スポ根物だ。

『こっちは、1発当てられたら、脱落です。ジグザグに走って下さい。』

だったな。」

 俺は、ジグザグに走りながら、1つ1つの『火炎弾』を回避しつつ走る。

”何と! 上空から『まっすぐ飛来する物』は、『横(斜め)』移動する物には、当てにくい! そう言う事かや!”

 今度は、上空の『奴』が、一際大きく息を吸う。

”気を付けい! 今度は『範囲攻撃』ぢゃ!”

【大丈夫だ。間に合う!】

 『奴』が、『炎の吐息』を吐いた瞬間。ほぼ同時に、飛び込む俺。

「とぉっ!」

 洞窟内に、飛び込むことで、辛うじて『炎の吐息』をやり過ごす。

”ここが、お主が、どうしても行くべき『あの場所』かや。”

 奥へと全力疾走する俺。通路で、さっきの『炎の吐息』を喰らったら、ひとたまりもない。

 最後、奥に一際開けた場所が、あった。そこに飛び込んで、横っ飛び。

”『炎の吐息』ぢゃ! しかし、助かったのぉ、奴が、焼いたのは、通路のみ。ギリギリ間におうたぞ!”

【それを見ろ。】

 洞窟内に落ちている物を指し示す。

”これは……『鱗』? ひょとして、『奴』の『鱗』かや。”

【そうだ。『奴』は、何故この場所に現れたのか? 疑問に思った。だから、周囲の風の音に耳を澄ませた。そしたら、ここに洞窟の入り口っぽい音が、聞こえた。】

”つまり、ここは『奴』の住処。ならば、侵入者たるお主を、放置するはずも無い。『奴』は、必ずここに、やって来る。そして、ここでは自由に飛べぬ。なんと、完璧な作戦ぢゃ。”

【まだだ。まだ足りねぇー。それじゃ、五分五分に過ぎねぇー。】

”して、如何にする?”

「漫画で読んだ事がある。

確か、格闘技をテーマにした壮大な親子喧嘩だ。

『大男と闘うなら、まず、身体の末端からだ。』

だったな。」

 既に、俺は準備を整えていた。そこに、『奴』は、翼をたたみ、四足獣のように身を屈めて、『広間』に入った。しかし、きょろきょろするばかりだった。

【『奴』は、簡単に俺を見つけられない。何故なら今、俺は数少ない使用可能な『神通力』の内、2つを使っているからだ。それは、『影化』と『保護色』だ。】

”説明するのぢゃ! 『影化』とは、『神通力』ぢゃ。内容は、『平面になる事ができる。厚みが全く無い故、壁や天井、床に張り付くと、見つからぬ。』ぢゃ。”

【攻撃を喰らうと、ひとたまりもない。と言う欠点はあるがな。『保護色』の説明は、いらねぇ。そろそろ、仕掛けるぞ。】

「なんだ。その微妙な『神通力』は! コンボでようやく意味があるのか。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

 俺は、『奴』の尻尾の絶妙な位置で、『実体化』し、尻尾を脇の下で捕まえ、締め上げる。

「漫画で読んだ事がある。

これは、柔道技の1つ。脇固めだ。」

 そして、ようやく俺を発見した『奴』は、驚きに目を丸くしていた。

 何故なら、俺は、漆黒のプロテクタースーツに、全身を覆っていたからだ。マフラーが赤いのは、ご愛敬。

「そう言えば、未だ見せてなかったな。『第一戦闘形態』。でも、さっきこれを見せてたら、警戒して接近してくれねぇかも、しれなかったからな。」

「お前の最大の『チート能力』は、その戦闘センスじゃねぇか!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

”気を付けい! 『奴』が、尻尾を振り回しておる!”

「漫画で読んだ事がある。

確か、科学漫画雑誌だ。

『遠心力は、先端が最も強く、根元が最も弱い。』

つまり、お前は、尻尾で俺を討つ事も、振り解く事もできねぇ。」

”気を付けい! 今度は、蹴りぢゃ!”

【『奴』の前脚、後脚の長さは、把握済みだ。この位置には、届かねぇ。そして、『炎の吐息』をこの場で放てば、自宅が焼け野原になる。つまり、『奴』の選択肢は、1つだけだ。】

 『奴』が、『火炎弾』を放った。その瞬間、『影化』して、「さっ」と尻尾の反対側に回り込む。『火炎弾』は、『奴』の尻尾に命中した。

”おお! 火を吐く『龍族』は、火を無効にする『能力』を持っておる。つまり、『完璧な盾』と言う訳ぢゃ!”

 素早く『実体化』した俺は、今度は逆方向に、関節技をかける。

「漫画で読んだ事がある。

確か、無人島サバイバルの話だ。

『木を斧で切り倒す時、まず半分切る。然る後に反対側から切る。』

だったな。お前の尻尾の骨、もう十分脆くなってるぜ。」

 たったの一捻りで、『奴』の尻尾の骨は、折れた。

! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !

 『奴』の声にならない悲鳴が、洞窟内に充満した。

”何をしておる! 何故手を離す! 『奴』が、逃げるぞ! 外に出られたら、追い付けぬ!”

 どうやら、『奴』は、事ここに至り悟ったらしい。

「こいつには、勝てねぇ。だが、俺は空の王者だ。空に逃げさえすれば! あの空が、オレを待ってる!」

 と言う所だろう。

「それを、待ってたんだぁっ! その狭い通路じゃ、お前は前に進むしか出来ねぇ! しかも、後方迎撃用の尻尾も、使えねぇ! 今こそ喰らえ! とぉぉっー!」

 『奴』の後頭部に、跳び蹴りをクリーンヒットさせた俺だった。

”何と言う事ぢゃ……あの魔法金属に匹敵する硬度の、鱗や頭蓋骨を持つ『龍族』を一撃で、脳震盪ぢゃとぉ……”

「漫画で読んだ事がある。

確か、明治初頭の帝都を舞台に、チャンバラバトルをヤる話だ。

『いくら、頭が固くても、中身は、そうはいかねぇ。』

だったな。」

 俺は、手を緩めない。完全に絶命させないと、『喰えない』からだ。

 まず、両脚で『奴』の顎の付け根付近を挟む。これで、口を開けない。然る後に、全身を回転させる。つまり、『奴』の長い首を、絞る。雑巾の様に。

”ほぉ、頸骨を折ったかや。”

 俺は、油断なく地面に降り立つ。『奴』は倒れる。

 その瞬間、『奴』の両前脚が動く。折れたはずの首を支えて、こちらへ向ける。

「漫画で読んだ事がある。

確か、格闘技漫画だ。

『自ら頸骨を外す事で、骨折を、まのがれる事ができる。』

だったな。」

「おい! そのドラゴンは、カンフーの免許皆伝かよ!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「ドラゴンだけに。」

 などと言う無意味な指摘に、無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

 『奴』が、一際大きく息を吸う。

「漫画で読んだ事がある。

確か、四角いリングの上で、繰り広げられる人知を超えたバトルの話だ。

『両腕力で2倍、跳躍力で3倍、回転力で2倍、合わせて12倍の力!』

だったな。……来るっ!」

 『奴』が、『炎の吐息』を放つ瞬間、俺は、跳躍した。但し、両手を頭上で合わせ、回転を加える。そして、『奴』の胴体に突き刺さり、身体を掘り進める。

 骨を砕き、肉を貫き、奥へ奥へと突き進む。俺は、『奴』の背中から、飛び出す。

 今度こそ、『奴』は絶命した。俺は、返り血を獣の様に、ふるい落とすと、『第一戦闘形態』を解除する。代わりに片手用の『剣』を手にしていた。

 『奴』の死骸に、『剣』を突き刺す。すると、排水溝から多量の水が、落ちる時の様な音を立てる。『剣』に死骸が、吸い込まれた。

 跡には、何も残らない。

”うむ、これにて一件落着ぢゃ。”

「つか、メシドキに音たてんなよ。」

”大きなお世話ぢゃぁぁぁぁっ!”


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