シンケンショウブ

桃太郎

第1部~三村領動乱編~

第1話 はじめてのいせかい

 ある日の事だった。俺は、家路を急ぐ事無く歩む。この時の俺は、数日前、初めて袖を通したばかりの学ランに「着られて」いる事など気付く由もなかった。

 漫画と変身ヒーローとバイクとを、こよなく愛する俺は、何処にでもいそうで、ここにしかいない中学1年生だ。

 実に唐突だが、『怪僧』と出会った。

「お主、死相がでておる。あちらに行ってはならぬ。」

 『怪僧』は、輪っかが、いくつもついた杖で、『ある方向』を指し示した。しかし……

「そっちは、俺ん家だ。」

 そう言いおいて、『怪僧』を通り過ぎる俺。

「運命(さだめ)じゃ。」

 俺の後方で、そんな事を言ったような気がしたが、気のせいだろう。


 * * * 


 自宅敷地に入る。玄関まで後数歩。何か落ちている様に見えた。

 足を止め、腰を曲げ、かがみ込むようにして地面を見る。この時だった。

 背中から激痛と共に、灼熱感が、俺を襲う。

 血を吐く。苦しい。身動きできねぇー。声を……た……

 この時、落下してきた剣によって、串刺しにされた事など気付く由も無い俺だった。

 声が、聞こえた。

”死にたくなくば、唱えよ。『〇×△□☆』!”

「『〇……×……△……□……☆……』!」

 俺は、絞り出すように、何とか声を放った。そして、意識を失った。


 * * * 


「無意識のトンネルを抜けると、そこは『異世界』だった。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「天候は、森の中なので晴れとだけ。木陰の中、草のカーペットで、目を覚ます。か……。俺は、さっきまで家の、玄関を開けようとしていた。そうだ、傷!」

 詰襟の前をはだけて、『待侍』とプリントされたTシャツをたくし上げる。

「! 傷が、ねぇ。服も何とも無い。……どう言う事だ?」

”おう! ようやく覚醒したかや。待ちかねたぞよ。”

 俺は、周囲を見渡す。特に、声の主は見つからない。

「漫画で読んだ事がある。

確か、落語を扱った作品だ。こんな時は、こう言うんだ。

『声はすれども姿は見えず、ほんにあなたは、屁の様な。』

どうだ。」

”ぢゃかぁしぃ! わらわを『屁』扱いするでない!”

「それなら、姿を見せてくれ。」

”ここにおるわ。”

「だから、何処だよ。」

”お主と融合しておる。今は、お主の中ぢゃ。”

「漫画で読んだ事がある。

確か、宇宙人犯罪者を取り締まる宇宙人が、地球に来て、地球人を誤って殺した為に、生命維持の為、死んだばかりの地球人と融合し、共闘して地球の平和を守る話だ。

『その「余分な命」は、地球人が受け取るべきだ。』

だったな。」

”ん? 「余分な命」? 左様にご都合主義な物なぞないわ。”

「ガガーリン!」

 俺の「ガーン!」は、「ガガーリン!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 某宇宙飛行士とも無関係に相違ない。

「気のせいなら書くな! 無関係なら書くな!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

”しかし、まだるっこしいのぉ。わらわの情報を、お主の脳に直接焼き付ける。気をしっかり保つがよい。”

「それって、どう言うことだよ。」

 だが、そんな台詞も最後まで、言い終える事など出来なかった。

「グハァッ!」

 暫し、のたうち苦しむ俺。何と言うか、形容するのも難しい。

 家の前で受けたのは、痛みより、出血だった。今は、純粋に痛い。ひたすら頭が、痛い。

「割れてるんじゃあねぇーか……。」

 などとツィートしちまった。

 どれだけの時間、痛みに苦しんでいたのか分からないが、痛みが、やわらいできた所で、頭を触る。

「良かった……割れてねぇー。」

”なんぢゃ、だらしない。身体だけでのぉ、衣服も直してやったのぢゃぞ。”

【やかましい! 人間が、こんな痛みに耐えられるかぁ!】

 等と言う無駄口を叩かない俺だった。

”ほぉ……早速使っておるのぉ……それが、『接触念話』ぢゃ。”

【さっき、『焼き付けられた記憶』にあった。それで、十分だ。それより……】

”うむ。現状を把握できたであろう。”

【まずは、おさらいだ。今までの経緯を確認するぞ。

 1つ、お前は、『神剣』。神から人間の英雄に、プレゼントされていた。

 2つ、『魔族』の侵攻で、振るわれた。

 3つ、が、英雄は敗北。お前は、異世界……日本に飛ばされた。

 4つ、俺に突き刺さった。

 5つ、異世界……ここ、天虹王国(てんこうおうこく)に『帰還』する『魔法』を使った。】

”そして、今に至る……と言う事ぢゃ。”

【次に、これからの話だ。

 1つ、俺は、瀕死の重傷で、お前と分離すると、すぐに死ぬ。

 2つ、お前は、『魔族』との戦闘と、帰還の『魔法』で、『魔力』を使い果たしている。

 3つ、このままでは、俺を『復活』させる事も、『帰還』させることも、不可能。

 4つ、だが、『魔族』や『龍族』などの『力ある者』を殺して食うと回復する。

 5つ、いずれ、本来の『魔力』を取り戻せば、『復活』も『帰還』も可能……。】

”然り。”

「漫画で読んだ事がある。

確か、現世で理不尽にも死を迎えた男が、異世界転生し、『チート能力』で無双する話だ。」

「おい! そんな話『Web小説』じゃ、掃いて捨てる程あるぞ!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

【しゃーない。その話、乗った。】

”ほぉ……決断が、早いのぉ……”

【そりゃ、正直、言いたい事は、たんまりあるさ。でも、俺だって死にたかねぇや。家にだって帰りてぇ。にしたって、生き残る手段が、他にねぇんだ。

だから、しゃーない。】

”初めは、そんなモンぢゃろう。それより……”

【それより何だ?】

”最初の『獲物』が、ご登場ぢゃ。”

 上空を、『龍族』が、1匹、旋回飛行していた。


 * * * 


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