魔術師
冒険者協会から出て街を歩くレベッカに後を追ってきたサーニャ。
「レベッカ!待って!」
「なに?」
「ドラゴンの情報」
サーニャはサリエから貰った伝言は伝えなかった、今の状態のレベッカにはかえって逆効果でサリエの最後の伝言であるため無駄にさせるわけにはいかなかった。
「どこ?」
「ここから少し遠いよ」
「行くわよ」
「え〜〜、休ませて」
今はいつも通りについて行くしかないサーニャ、気を見て伝えるつもりだった。
「レベッカさん、サーニャさん。待ってくださいよ」
「はぁ!?あんたもついてきたの?」
「えぇ!酷くないですか?パーティーですよね?」
「レベッカ。ハイトさんがいないとアイテムは〜……」
「ドロップ率100%といってもレア限定でしょ、それにあんたからの情報では私が欲しいアイテムは普通よ、そしたら数をこなせばいいだけよ」
「まあ極端な話そうなりますよね。ですが倒した分だけ何も無いってのも損になりませんか?レアアイテムは俺達には必要ないので売ればそこそこになりますよ」
「う、う〜ん……たしかに、あんたに言われるとムカつくけど……」
「あはは……俺はいつもどこでも貶される」
「それに魔術師ですから」
「あっ、それ説明してよ」
「いいですけどついていきますよ?」
「う〜ん……」
「そこ悩みます?」
「あんたが嫌いだから」
「え〜そこまで嫌われてるんですか?」
「最初に会った時の態度といい、私の事を疑ったりといい。つくづくムカついたからね」
「根深い人だ」
そんなこんなでレベッカはハイトを連れていくことにした。
そして街を出てドラゴン討伐に向かう。
「それで魔術師ていうのはサーニャ?」
「え?俺に聞くんじゃないんですか?」
「はぁ?誰があんたに」
「酷い」
「それでサーニャ。知ってる範囲でいいわ、教えて」
「え〜〜それが教えてもらう人の態度ですか?」
「うぐっ……お、おね……」
「おね?」
「お願いします……」
我が強いレベッカだがハイトに教えてもらうよりもサーニャが良かったがそのサーニャはいつも通りにレベッカに対して強くレベッカは何とかお願いするとサーニャは笑顔で説明を始めた。
「はい。まず魔術師というのはレベッカ達魔王討伐軍が結成される前に存在していた最強の一族です」
「コイツが最強?ありえない」
「コイツ扱い……」
「強さの基準で言えばサリエさんに相当いえそれ以上の強さを持ちます」
「ありえない。こんな奴が?」
「そこは人はそれぞれですから、レベッカも見たようにあの紅牙ドラゴンをいとも簡単に二つに裂いたことです」
「たしかに……けどあの紅牙ドラゴンは異常よ、私の一撃なら吹き飛ばしていた」
「異常とも言えますがそれ以外にもハイトさんはレベッカが断ち切った火山を中の溶岩が溢れ出る前に修復させました。アレは魔術師以外出来ることではありません」
「あの修復のせいで少し疲れちゃいましたよ俺」
「あんたは黙ってて」
「はい……」
ちょくちょく会話に入り込んでくるハイトを黙らせるレベッカ。
「それでどうしてその魔術師は減ったの?」
「簡単に言いますと私達と同じ魔王討伐によって減ったからです」
「魔王ってあの私達が倒した魔王?」
「魔王なのはたしかですがちょっとそこら辺の文献は……」
「魔王は全部で二十五体居た」
「うぇ、急に入ってこないでよ」
先程レベッカから黙るように言われたがいてもたってもいられず割り込むハイト。
「サーニャさんはあくまで文献通りで本の通り話しているが全て正しいとは限らない」
「ハイトさんの言う通りですね、私よりもハイトさんから聞いた方がいいかもしれません」
「はぁ?私がわざわざ頭を下げた意味がないじゃない」
「いや最初から俺に素直に聞いていれば良かったんじゃ……」
「早く話さないと殺すわよ」
「サーニャさんとの差が凄い、とりあえず話しますよ」
「はいはい」
サーニャとの扱いの違いにハイトはため息を吐くがこれ以上レベッカを怒らすと面倒臭いと思い話を始めた。
「魔王は全部で二十五体いました。それらを俺達は分散して倒しましたが最後の一体で力尽きました」
「最後までやり切れ」
「それが出来たら苦労しませんよ、まあそれで残りの一体だったのですがその最後の一体が他とは違い圧倒的な力を持ち他にモンスターを従えていたことから戦力的にも足りず新たに軍団を結成する必要がありました」
「それが私達魔王討伐軍ね」
「そうです。そして俺達魔術師は後世であるレベッカさん達に託して数々の武器と知性を残しました」
「もしかしてこの降魔大剣も?」
「はい。ちなみに俺の両親です」
「えっ?は?ん?………ええーーー!?どどどどういうこと!?」
ハイトの両親がレベッカが持つ大剣だとサラッとカミングアウトしてレベッカは驚きサーニャは唖然とする。
「魔術師達は姿を武器に変え、知性を魔導書に変えありとあらゆる物を後世に託しました」
「ちょっと待って、あんたの両親の話いいの?」
「武器になることは名誉であり、誇りでもあります。それに武器は喋りませんから」
「そうだけど、返すよこの大剣」
「それはレベッカさんを持ち主と認識して最大限の力を発揮してます。しかし魔王がいない今は力は弱まり普通の大剣となってしまう。それが魔術師の宿命であり生きた証」
「なんかごめんね、この大剣を無理やり働かせたり力を酷使したりとしたから、その本当にごめん」
「先程も言いましたように名誉ですので気にしなくて大丈夫です」
「でも……」
「レベッカさん、今更謝っても俺は気にしてませんから」
ニコニコで話すハイトに罪悪感が募るレベッカ。
「うっ、なんかさらに罪悪感が……」
「まあ大丈夫です。本当に気にしてませんから」
「本当にごめん、てかあんたはその名誉を得るために武器とかにならなかったの?」
「そうですね、本当はなりたかったですが後世に伝える。言葉として伝える役目は俺しかいなかったので俺は残りました」
「そうなんだ」
「ちなみにレベッカさん。今俺が話したことで何か気づきませんか?」
「なによ、恨みってこと?」
「違います。名誉です」
「名誉?」
「サリエさんとレベッカさんが話した名誉のことですよ」
「あっ……」
「俺達の時代はとっくに終わってます。そして後世、未来であったサリエさん達に託しました。一応手助けはしましたがそれは単なる微量な力。倒したのはサリエさん達の魔王討伐軍のみんなです」
レベッカはその話を聞いてサリエの言葉を理解した。
「その話は誰が知ってるの?」
「中央連合軍の一部の人間だけです」
「そう……はぁ、全くな〜んでそう言ってくれなかったのかな」
サリエの言葉に理解したレベッカは笑った。
「名誉はいつか忘れるものです。しかし後世に語り継ぐ人間がいればいいのです」
「あんたに言われるのが腹立つ、けど理解出来た」
「まあこれで俺の役目も終わりかな」
「終わり?」
「さすがにもう疲れました」
「何言ってるの、これからでしょ」
「言いましたよね、俺が魔術師というの」
「言ったわよ、それが?」
レベッカは首を傾げるがサーニャは何かに気づいた様子だった。
「気づかないんですか?魔王討伐軍結成に魔術師の時代とそして討伐してきた魔王の数。何年の積み重ねか……」
「……まさかあんた今何歳?」
「覚えてる限りじゃ190ぐらいですかね」
ハイトは魔術師の時代から生きている存在であり、さらにレベッカ達が魔王討伐するまで生きてきた人間であるため人の寿命を遥かに超えていた。
「ハイトさん。その寿命を延ばしていたのは同じ魔術師である魔導書ですか?」
「はいサーニャさんの言う通り俺のかつて友人だった者が魔導書となり俺の命を延ばしていました」
「そして魔王が居ない今は普通の本に戻る……」
「この魔導書、俺の友人の名はもう覚えていません。しかしこう言ったことは覚えています『必ず魔王を倒してほしい』と」
懐から魔導書を取り出すハイト、しかしその魔導書はもうボロボロで今にも崩れ去りそうだった。
「俺は自慢する訳ではないですが歴代最高の魔術師です。全員俺に全てを託して去って行きました」
「それは自慢よ、それであんたは何を託すわけ?」
「ちょっとレベッカ!」
レベッカは飽きれた様子でもう消えるハイトに対していつも通り冷たく接する、サーニャはその態度に怒ろうとするがハイトが遮る。
「はは、さすがレベッカさんですね。相変わらずです」
「分かってんならさっさとしなさいよ、暇じゃないの」
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「いいわよ、特別に許す」
「どうしてドラゴン討伐に?もう魔王はいないのでそこまで拘らずモンスターを討伐しては?」
「みんな聞いてくる。全く人の事情も知らないで」
「それはレベッカさんが塞ぎ込んでるだけでは?」
「うっさい!はぁ、私がドラゴン討伐そして『宝玉命』に拘る理由はひとつよ。私の両親を殺したのがドラゴンだからよ」
「そうなんですか」
「何その微妙な反応。殺すよ」
「もう死ぬんで、ちなみになぜそこまで?」
「倒した証明と復讐のため、そしてあの時、あの日私は何も出来なかった。だから私は誰も死なない世界にするため常に前に進まなきゃならない」
「それで殺す発言は些か矛盾では?」
「脅しよ脅し」
「脅しと言ってマジで剣を向けられたんですが?」
「あんたは例外よ」
「怖っ、まあ分かりました。それではレベッカさんに託すのは『ドロップ率100%』のアミュレットです」
「だろうね、あんたとあんたの両親は常に大切にするわ」
「ありがとうございます。それではまたいつかどこかで会えたらまた冒険しましょう」
「あー、それは遠慮しとく」
「最後の最後で酷い人です」
「嘘よ、こちらこそありがとう。ハイト」
「はい。それではまた、ああそれとこれはサーニャさんに」
「え?私ですか?」
「お姉様からお手紙です」
「手紙……」
ハイトはサーニャにサリエから貰った手紙を手渡して最後に微笑むと塵になって消えていき最後に残ったのは黄色く光るアミュレットだけになった。
「私にまだ隠し事があったなんてね最後までムカつく奴だったわね」
「レベッカ……」
「サーニャ。ハイトは最後までムカつく奴だったと覚えておきましょ」
レベッカはハイトが最後にアミュレットを首に付ける。
「早く行きましょサーニャ」
「うん」
歩き出すレベッカの後ろ姿から何かを拭く姿が見えたサーニャだが何も言わずに貰った手紙を見る。
「…………」
手紙を開けようとするサーニャだったが手を止めそれをしまった。
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