魔王討伐軍
中央連合は他の街とは比べ物にならないほど広大な土地を持つ、それは魔王討伐のために作られた街ということもあり今でも継続的に拡大を続けている。
そんな街の中央には魔王討伐今は変わり中央連合軍冒険者協会がある、
その冒険者協会の中の一室、作戦会議室にレベッカとサーニャ、ハイトとあの将軍と呼ぶ人物だけ居た。
「お久しぶりですね、将軍」
ハイトは笑顔を崩さず向ける、そして将軍と呼ばれた人物はヘルムを脱ぐと驚くほど顔が整った女性でも憧れるぐらいの美しい女性だった。
「あんたは聖剣使いのサリエ。まさかまだ中央連合にいるなんてね」
レベッカはその顔を見て思い出す。聖剣使いのサリエ。レベッカやハイトと同じくして魔王討伐軍の一人。そして魔王を討ち取った張本人であり、冒険者の中で最強の地位を持ち規格外の戦闘能力を持つ人物だった。
「久しぶりだな、レベッカ。ハイト」
かなり怒り気味の口調のサリエだがこれがいつもの口調。サーニャもサリエとは一度会ったことがあるがその口調には慣れてない様子で緊張する。
「将軍。俺の処罰は?」
「なんだそんなに処罰してほしいのか?」
「そういうわけじゃないですよ、ただ面倒事は嫌いですよね?将軍」
「確かにそうだが、それよりもレベッカとサーニャだ」
「げっ!」
「はい」
鋭い視線を向けるサリエにめちゃくちゃ嫌そうな顔をするレベッカに直立不動になるサーニャ。
「まず始めにサーニャ。お前は冒険者協会の人間としてハイトが行方不明となっていたことは分かっていたよな」
「は、はい」
「なぜ報告しなかった?」
「あっ、えっと〜〜その〜〜」
いつもは悠々として言い返すサーニャだがやはり相手が相手で緊張で言葉が上手く出てこないサーニャ。それを見て苛立ったのかレベッカが間に入る。
「サリエ。サーニャは関係ない」
「ほう」
「レベッカ?」
「元々は私がサーニャに黙って欲しいと言い聞かせてハイトと仮パーティーを組んだ。だからサーニャは悪くない」
レベッカは咄嗟に嘘を言うとサリエは納得したのかハイトの方を見る。
「ハイト。この言葉に問題は?」
「さぁ?俺は成り行きでパーティーを組んだんですよ、まさかその相手があのレベッカとは知らなかっただけです。まさか素性がバレているとは知らなかったな〜」
「ふむ」
ハイトも同じように嘘を言うとサリエはその二人の言葉を聞いて少し考える。
「ふむ、二人ともその言葉に嘘はないと言い切れるか?」
「さぁ?」
「知らない」
しらを切る二人だが肯定もしない、否定もしないとだけあって完全に嘘をついてることが分かるがサリエはあえてこれ以上追求はせず頷く。
「分かった。これでお前達の罪は終わりだ」
「相変わらずチョロいわね」
「それ以上言うと断罪する」
「何でもないで〜す」
緩いのか緩くないのか分からないが何だかんだ罪を逃れたレベッカ達。
「それで俺はこのまま職務に戻らなければいけないのかな?」
「いやその必要はない。現時刻をもって私の権限の元、ハイトは冒険者名簿の抹消令を削除する」
「それはどうして?」
「あの場で姿を見せなおかつ魔術師の力を見せてしまった以上、隠し通すことは不可能。数日経ったらここ中央連合以外にも噂は広まる。そうなった場合はハイトを縛る必要もなくなるからな」
「縛っておくと他から言われるのが面倒臭いから解放ということか」
「端的に言えばそうだ、ついてこい」
サリエが会議室から出てレベッカ達もあとについて行く、会議室から出ると二階から冒険者協会の中が見渡せる場所だった。そこには中央というだけあってかなりの冒険者が居ると思っていたがそうでもなく数えるくらいしか冒険者がいなかった。
「見てわかる通り魔王討伐して数年。私達はその後の時代を作り上げモンスター討伐を専門とした冒険者を集ってきた。しかし魔王が消えた今はモンスターの凶暴性も収まりつつある、魔王討伐軍の元メンバーは冒険者を辞めて平和な生活を送ってる。装甲部隊のクレバー。遊撃部隊のアリエス。中央新鋭部隊のマニュレイター。みんなここにはもういない」
「……それってまさかと思うけどあのメンバーはもうあんたしかいないの?」
「そうだ」
レベッカやハイト、サリエ以外にも当然魔王討伐軍を導いた英雄、有名な人は存在する。レベッカは誰よりも早く中央連合から脱して辺境で暮らし始めていたため他のメンバーの動向が分からなかった。サリエの話を聞いて少し悲しくなったレベッカ。
「なるほどね。要するに俺に任せる仕事以前よりも冒険者の数が減ったことで縛る理由も無くなったわけですか」
「ああ、それに大型モンスターを除いてほとんどのモンスターの凶暴性は昔よりも無いからな」
「しかし冒険者協会が無くなるとどうなる?」
元より冒険者協会を中心となって街が繁栄していた。その様子を最も近くから見ていたサリエはこの先の未来が分かっていた。だがそれはあくまで予想の範囲。
「分からない。ただモンスターの危険性は皆無と判断された場合はもう冒険者協会は必要ない、あとは街に住む人々が考える。そうなれば私達が築き上げた魔王討伐という栄光は忘れ去られていつしか消える」
「あんたはそれでいいの?」
「いいんじゃないか、それでも」
「私は嫌だね、だって命懸けで私達は戦った。それを忘れ去られて消えるなんて私達が命を懸けた意味がない!」
レベッカにとって魔王討伐軍の一人で名を刻んだことは名誉で消えてしまうことは嫌だったがその言葉を聞いたサリエは少し複雑な表情した。
「命を懸けたからこそ今の平和がある」
「はぁ?なにそれ!あんただってあの時は魔王を倒すのが目的でそして英雄になることだったじゃない、それが叶ったけど消えるのよ」
「確かにそれは嫌だな」
「それじゃあ……」
「でもいつまでも背負う訳にはいかない」
「え?それってどいうこと?」
「お前は辺境の街であまり知らないと思うが私達が背負った名誉はあまりにも重すぎた。他の者は私から離れていく時に必ず口にした『疲れた』と」
「は、はぁ!?それってつまり逃げじゃない」
「そうだな。お前の言う通りだ、だが逃げは悪いことではない、だから……」
「まさかとは思うけどあんたも同じこと言おうとしてるわけ?」
話の流れからとサリエの表情に性格からこのあと口にしようとしてる言葉が分かったレベッカは止める。
「なぜ止める?」
「逆に聞くけどなぜ自ら消えようとしてるの?」
「別に、消えたくて消えたいわけじゃない。ただ早めに身を引かせてもらう」
「それこそ逃げよ、私達は魔王討伐軍。決して引くことがない最強の軍団よ」
「最強か、じゃあ今は最強と言えるのか?クレバー。アリエス。マニュレイターだけじゃない。フォルオ。ナート。スウェルドみんな居ない。戦闘専門だけ数えると私とお前しかいない。それを最強と言えるのか?」
「……それは、私は強い。私とあんただけでも強いわよ」
「そうだな。だがその強さはもう必要ない」
「どうして……どうしてあんたはあんなに強く常に前を見ていたあんたがそこまで堕ちたの?」
「言っただろ、もう変わったんだ。昔とは違う、今は平和に向かっている。強さは必要ない」
「…………分かった。もう知らない勝手にすれば……」
レベッカはサリエに失望してその場から去っていく。サーニャは後を追おうとした。
「ちょっ、レベッカ!」
「サーニャ」
「はい!」
しかし、サリエが止めた。
「レベッカはまだドラゴンを狩っているのか?」
「はい。まだその……」
「そうか、一言レベッカに伝えてくれないか?」
「分かりました」
「これは命令でもない。たった一人の友人としての最後の伝言だ」
「ということはサリエさん、本当に辞めるのですか?」
「ああ、私の役目はとうに終えてる」
「分かりました。それでは冒険者協会中央連合最高権限の元、私サーニャ・アルマスが魔王討伐軍宰相サリエ・アルマスの伝言を責任持ってレベッカ・ナハトロに伝えます」
「やっぱお前は仕事が出来るやつだな、ハイトとは違って」
「え?そこで軽く俺を貶す?」
「いえお姉様には敵いませんよ。それでは伝言を……――」
サーニャはサリエから伝言を聞き一字一句頭の中で記憶する。
「はい承りました。それでは……」
「頼んだぞ、サーニャ」
頭を下げサーニャはレベッカの後を追う。その背中を見たままサリエはハイトに聞く。
「ハイト。お前は?」
「生憎、俺はレベッカさんとパーティーなのでついて行きますよ」
「そうか。お前はこのあとはどうするんだ?」
「そうですね、側近として戻ってきましょうか?」
「馬鹿を言うな、邪魔だよ」
「直球ですね。ですがレベッカさんの旅が終わって妹さん、サーニャさんと会わなくていいんですか?」
「サーニャは天才だ。冒険者協会が無くなっても他から必要とされる人材だ」
「まあそうですよね。仕事が早すぎる」
「そういう事だ。じゃあレベッカとサーニャを任せたぞ」
サリエは一通の手紙をハイトに渡して会議室に戻って行った。
「全く素直じゃない人です」
ハイトは手紙をポケットにしまい、レベッカ達の後を追った。
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