運のドロップ率
ブラックハウンドを無事に討伐を終えた三人、しかしハイトの言葉でレベッカは完全に沈黙していた。
ハイトは必死に励ましの言葉を投げ掛けるがレベッカは沈黙したままでサーニャは冒険者協会に依頼の達成を告げたあと急いでレベッカのところに行く。
「わたし……運がないのね……」
「ああいやあくまで確率ですよ、確率」
「うん……確率ね確率、けど運はない……」
「レベッカ!ドラゴンの討伐見つかった」
「あ〜うん、でも私は運がないからもういいかなぁ〜」
「そんな簡単に諦めるの?」
「運がないからね……はは……」
乾いた笑いをするレベッカ、まさかのドラゴンのレアアイテムが普通のアイテムと勘違いしてさらにはその普通アイテムでさえも中々落ちないことに笑うしかなかったレベッカは無となっていた。
「レベッカさん、俺が言うのもおかしい話ですがドロップ率なんて確率ですから」
「いや運でしょ、しょせん」
「総合的に言えばそうですね」
「あぁ〜〜やっぱ私には運がないんだ〜〜」
サーニャに泣すがるレベッカに思わずハイトは言葉を漏らす。
「めんどくさ……」
「あぁ?ぶっ殺すよ」
「いやもう正直言いますよ、アイテムのドロップ率はしょせん確率です。当然運も絡みますが絶対に落ちないということはないんですよ」
「それ言い換えると一生落ちない確率も存在するってことよね」
「……………はい」
「ぶっ殺す」
「ちょっ、その為に俺をパーティーに入れたんじゃないんですか?」
「ああたしかにそうね」
「でも同時にレベッカさんの運が無いことを証明すると」
「死ね、いや殺すわ」
不意にまた言葉を漏らすハイトに大剣を抜こうとするレベッカを止めるサーニャ。
「レベッカ。それよりドラゴン討伐」
「……命拾いしたね。サーニャそのドラゴンの情報は?」
舌打ちするレベッカは大剣を置いてサーニャに依頼の内容を聞く。
「紅牙ドラゴンの討伐。ここから遠くの地域にある火山地帯に住むドラゴンでその近くで働く鉱山に影響が出始めたため討伐依頼が出されたよ、一応他の街にも討伐依頼は出されてる模様。ちなみにレベッカこのドラゴンは……」
「ええ紅牙ドラゴンは希少種。素材はかなり高価で売れる、それに鉱山からとなればそこから鉱物を含んだアイテムも落ちると思う」
紅牙ドラゴンはドラゴン種の中でも希少であり、生まれるのが数十年に一度あるかないかというモンスター。生態は謎に近く中央連合からは討伐よりも調査を優先されている特定モンスターだった。
期待を膨らませるれだがハイトの言葉を思い出す。
「けど私には運がなぁ……」
「その為の俺では?」
「ああそうね、ムカつくけどその為のあんただわ」
「ちなみにサーニャさん、その紅牙ドラゴンの討伐依頼はここの街以外はどこ?」
「えっとたしか中央連合の近くにある街が二つと遠方からのドラゴン調査を中心とした街一つとここです」
「ふむ……中止です、討伐には行きません」
「は、はぁ!?なんでよ!絶好のチャンスよ、一攫千金も狙える。こんな美味しい討伐依頼逃せるわけにはいかないわよ」
「すみません。中央連合の近くにも依頼が出されてるのであれば俺の顔は汚れていてもバレます、ここは辺境なのであまり顔は知られていませんが内部者は一人はいると思うのでかなり厳しいです」
「たしかにそうですね。レベッカこの依頼はハイトさんにとってかなり不都合、危険です。そしてレベッカに対しても中央連合が黙っていません。それに分かってると思いますが現にハイトさんが不在ということもあり誘拐説、自殺説、逃走説など様々な憶測が中央連合では飛び交っています。その状況で見つかればいくらレベッカでも言葉を覆すことはほぼ不可能」
「むむむ……た、たしかに……。けど!」
「悪いですが行くのであれば俺は降ります。俺にとって冒険は唯一の生きがいなのでそれを奪われるのはとても苦しいです。レベッカさんに憧れていることは確かですがわざわざ危険に向かう必要はないかと」
「あんた……」
「レベッカ。ハイトさんの言う通りです。一人もしくは私も同行して二人で行くのであれば全然大丈夫です。しかしハイトさんを連れていくとなると危険は及びます、もちろんハイトさんだけでなくレベッカや私までも」
悩ましい判断だった。レベッカにとって千載一遇のチャンスで一攫千金のチャンスでもある、単独ならばリスクは全くないがアイテムのドロップの保証はない、一攫千金は狙えたとしてもそれは二の次、本来の目的はドロップアイテムだった。
ハイトを連れていけばドロップは確定で保証されるがそれはレアアイテムのみという制限はあるが紅牙ドラゴンのレアアイテムは高価というだけではとどまらず超が付くほど高価で売れ、間違いなく勝ち組。しかしリスクは大きくまたレベッカも危険な目に合う可能性があった。
「レベッカさん、紅牙ドラゴンでもなくても『宝玉命』は落ちます。ここは諦めましょう」
「う〜〜でも一攫千金……」
「レベッカ。諦めよう」
「…………はぁ、分かったわよ」
さすがにリスクを背負う必要はないと判断して諦めたレベッカ。
「しかしこれであんたはもう少し私と付き合ってもらうことになったわね、残念だわ」
「俺は嬉しいですが?」
「死ね」
「酷い言われようだなぁ……」
結局、次のドラゴンが見つかるまでぼちぼちと依頼をこなすことにした三人だった。
しかしその夜、レベッカは荷物を纏めて一人で街を出ようとしていた。
「さすがに千載一遇のチャンスは見逃せない。ドロップは運が絡むけど久々の中央連合の連中と会うかもしれないから何かしらの情報はもらえるはず」
諦めきれないレベッカは疼く気持ちを抑えきれずに一人で行くことにした。
そして街を出ようとした時、見覚えのある人物が立っていた。
「サーニャ!なんで?」
「全く、レベッカの考えなんてお見通しよ。私も行くわ」
「でもサーニャには危険だと思う」
「大丈夫。戦いには参加しないから、私は討伐に来た冒険者達から情報を集めるわ」
「そう、それならよかった」
「ハイトさんには何も言ってないから私とレベッカだけよ」
「そしたら危険はないね、サーニャは私が守るから」
「安心できるわ、ありがとう」
「当然よ、行きましょう」
「うん」
レベッカとサーニャは紅牙ドラゴン討伐である火山地帯に向けて出発した。
そして数日かけて火山地帯にたどり着くとそこには何人もの冒険者がテントを建てて紅牙ドラゴンが出現するのを待っていた。
「なんとか間に合ったみたいね、まだ出現してない感じ、その間に情報を軽く集めましょうか」
「そうだね」
レベッカとサーニャが紅牙ドラゴンやアイテムのことで情報を集めようとした時、一人の冒険者がレベッカに駆け寄ってくる。
「も、もしかしてあんたはあの光魔大剣の使い手レベッカか?」
「ええそうよ、それが何か?」
「悪いが先導してくれねぇか」
「構わないけど何かあったの?」
「実は昨晩、紅牙ドラゴンが現れたんだが意外にも強くって他の冒険者と連携を取ったんだがなかなか上手くいかずに逃げられちまってな」
「はぁ!?馬鹿じゃないの?」
「大丈夫だ、まだここにいることは確かだ。だから先導して手伝ってほしい」
「ふん、構わないけどアイテムは私のモノよ」
「ううん、そこは山分けにしないか?」
「嫌よ」
「そこをなんとか!」
頭を下げる冒険者にレベッカはそれでも譲らないと言おうとするがサーニャが止めた。
「レベッカ。気持ちは分かるけどここは中央連合も居るみたいだから上手く関わらないと今後が面倒臭いよ」
「あぁそうね。分かったわ、いいわ山分けね」
「よっしゃ、決まりだ。指揮は任せた、俺達を上手く導いてくれよ」
「はいはい、どうせ私一人で十分だろうけどね」
冒険者は周りにレベッカのことを伝え回る、その間にサーニャは様々な情報を取り入れレベッカも軽く集めたあと装備を整えテントを張る。そして夜になりサーニャとレベッカはテントの中で情報を纏める。
「最近ドラゴンの出没が減ってるみたい」
「私も聞いたわ、中央連合からしたら嬉しいらしいけどね」
「その分、ドラゴンのアイテムはさらに高騰して高額売買されてる」
「どうでもいいわ、ていうか『宝玉命』はますます手に入りづらいということね」
「直接ドロップを狙った方がいいね」
「この紅牙ドラゴンで落ちれば楽なもんね」
「そうだね」
「はぁ……まぁやりますか」
レベッカは横になって先に眠る、サーニャは持ってきた紙に情報を纏めたあと眠った。
次の日、突然の咆哮で目覚めた。
「――来たっ!」
レベッカはすぐさま目覚めて大剣を持ちテントから出るとそこにはすでに何人もの冒険者が構えていた、そして全員の視線の先には火口からゆっくりと赤く染まったドラゴンが這い出てきた。
「紅牙ドラゴン。久々に見たけど綺麗な焔色ね……」
煌びやかな焔色の鱗に黄金色の瞳とまさに希少種を表すような体色にその場にいた冒険者は唾を呑む。
「サーニャは後方に下がって」
「分かった」
テントから出てきたサーニャにレベッカはそう伝えて後方に下がる。そしてレベッカは息を吸って大声でその場に居た冒険者に指示を出す。
「総員。戦闘準備!目標は紅牙ドラゴン。陣形は私を一人が初撃を叩き込んだあと足を狙い、倒れたあとを全員で叩き込めぇ!」
久々の大戦闘に魔王討伐軍にいた事を思い出すレベッカ。そしてその場にいた冒険者はそのレベッカの覇気と指示に返事をする。そして紅牙ドラゴンは火口から完全に這い出でると同時に飛び上がってレベッカ達の前に降り立つ。
「まずは一撃だ!喰らいやがれぇぇ!!」
レベッカは飛び上がって思いっきり大剣を振りかざして紅牙ドラゴンの脳天に叩き込むがあまりの硬さに弾く。だがレベッカの一撃で紅牙ドラゴンは仰け反る。
「ちっ、意外と硬いな。だが……次!足を狙え!」
その合図で他の冒険者は足を狙う、頭とは裏腹に脆いのか足は簡単に攻撃が通り傷が入ると紅牙ドラゴンは体制を崩す。
「まだ足りない……体制を崩したが完全ではない。仕方ないアレを使うか……」
あと少し体制を崩せば一気に叩き込めるがまだ足りないと判断したレベッカは大剣を握り直してゆっくりと担ぎ上げる。
それを見ていた何人かの冒険者が紅牙ドラゴン付近にいた冒険者に声を上げる。
「全員下がれ!レベッカの一撃が来るぞ!」
その言葉で全員紅牙ドラゴンから離れる。
「この一撃は魔王討伐以来だから久々で力加減出来ない。行くぞ。降魔大剣!『降魔滅却』!!」
黒い焔が大剣を包み振り下ろす、空、大地さえも壊す程の一撃に大地は大きく揺れ紅牙ドラゴンの後ろにあった火山は半分に割れ空の雲は綺麗に真っ二つになり数キロ先まで大地に亀裂が入った。
「す、すげぇ……」
「ヤバすぎだろ」
「これじゃあアイテムは……」
冒険者達はレベッカの一撃に驚く。レベッカは久々の本気で疲れからか大きく息を吐いてその場に座り込む。
「レベッカ!大丈夫?」
「平気。ただアイテムはロストしたと思う、それに火山を切ったせいで……え?」
サーニャがレベッカに駆け寄る、レベッカはアイテム諸共消えたと思いつつも討伐したことを確信したが土煙が段々と晴れてくる中で薄らと紅牙ドラゴンの影が見えると紅牙ドラゴンは大きく羽ばたいて土煙を払う。まだ健在の紅牙ドラゴンに全員が驚く。
「――なっ!?あの一撃でどうやって」
「そんな馬鹿な!」
「マズい、逃げろ」
全員が慌てる中、紅牙ドラゴンはレベッカに狙いをすました。
「サーニャ逃げて、まさかあの一撃で生きてるなんて」
「ダメ!レベッカも逃げるの」
疲れ果てたレベッカを連れようとするが非力なサーニャにとってレベッカを運ぶのに一苦労だった。
紅牙ドラゴンはレベッカに向かって突進してくる。もうダメだと思ったレベッカとサーニャ。
「――――全く、それでも魔王討伐軍の戦闘総指揮官ですか?そのまま伏せてください」
突然、聞こえた声に反応してレベッカとサーニャは伏せると紅牙ドラゴンが綺麗に真っ二つに切れた。そしてレベッカとサーニャの目の前にはいつもの装備とは打って変わって黒いローブを身にまとったハイトが立っていた。
「あんた、なんでここに?」
「同じパーティーの仲間なんですから仲間外れはいけませんよ、冒険者規約違反では?」
ハイトは笑って持っていた本を閉じる。
「たしかに規約違反ですが、それよりレベッカの大剣を弾いた紅牙ドラゴンを一撃で!?」
「すみません。冒険者名簿から抹消された本当の理由はこれです」
「まさか、ハイトさん魔術師ですか!?」
「はい。古代に滅びたとある一族の末裔です」
「どいうことサーニャ?魔術師って?」
レベッカがなんの事か全く分からず説明を求めるがハイトはそれどころではなかった。
「おい、あの人って行方不明のハイトさんじゃね?」
「マジだ、しかも紅牙ドラゴンを一撃?」
「ど、どいうことだ?」
周りにいた冒険者達、特に中央連合からの冒険者だと思われる人達は驚いていた。
「やってしまいました。本当は助けるつもりはありませんでしたがつい……」
ハイトはレベッカの一撃によって真っ二つになった山を本を開いて何かを唱えると綺麗に修復されていく。
「これで鉱山の心配はありません、あとは……」
真っ二つになった紅牙ドラゴンが消えてレアアイテムや紅牙ドラゴンがこれまでに吸収した鉱物を新たなアイテムに変換された高価なアイテムが出てくる。
「『宝玉命』は無し、ですが二人とも無事で良かったです」
「ありがとうございます。ハイトさん」
「あ、ありがとう……」
まさか助けられることになるとは思わなかったレベッカだが一応お礼を言うが目を合わせない。ハイトは気にしてない様子だがそれよりも周りの冒険者達が騒いだままでハイトはその場から去ろうとした時、正面から白銀の鎧を着た軍隊が向かってくる。
「早い到着だね、将軍」
軍隊の先頭に立つ他よりも装飾が施された鎧を着た人物、ヘルムを被って顔は見えず男か女かも分からないその人物はハイトに近づく。
「言い分は中央連合で聞こう、今は大人しくついてきてくれるか?」
「どうせ断るなんて出来ないだろ」
将軍と呼ぶその人物は小さく頷く、そして顔をレベッカの方に向ける。
「当然。そちらはレベッカか?」
「あんた誰?顔を見せなさいよ」
ヘルムで声だけで男か女か判断するのも困難でレベッカは誰かと問うが何も答えない。レベッカだと話にならないと判断したのか次はサーニャの方に向く。
「レベッカの隣にいるのはあのサーニャだな、お前は?」
「冒険者規約では中央連合に従うことが定められています。規約違反は処罰の対象。従います」
「さすがだな、ではついてこい」
サーニャが冒険者協会の人間だと知ってか拒否する権限が無いことをいいことに強制的に従わせる。そしてそのまま来た道を引き返しハイトはその後について行き、レベッカとサーニャもついて行くことになった。
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