情報のドロップ率
冒険者協会に戻りハイトはサーニャを呼び先日に使った部屋にハイトとサーニャそしてレベッカだけになる。
「あら〜もしかしてレベッカやっと知った?」
「サーニャその言い方もしかして知ってた?」
睨むレベッカだがサーニャは表情変えずにニコニコしたまま頷く。
「なーーんで教えてくれなかったの?」
「聞かれなかったから」
「それは個人情報だからって教えてくれなかったじゃない」
「そう言ったかしら?」
「言ったわよ!もういっつも大事な事を隠すんだから」
「ごめんなさいね、それでハイトさんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫です、それよりサーニャさんにお聞きしたいのですがこの方は本物のレベッカさんでよろしいのですか?」
「本人の目の前で堂々と言えるわね、あんた」
「本物のレベッカよ。降魔大剣の使い手レベッカ」
その事を聞いてハイトはホッとしたのか初めて笑う、そしてレベッカの方に向いて頭を下げる。
「正式な挨拶をさせていただきます。わたくしは中央連合の魔王討伐軍の最高軍部指揮系統を担当していたハイト・アーノルドです。戦闘総指揮のレベッカさんは最前線にて戦闘を行っていてわたくしはその後方担当と作戦指揮系統をしていたので一度も顔合わせはしませんでしたよね」
「あんたが最高司令官なの?ありえない……」
魔王討伐軍。それは数十年前に起きた大事件によって生まれた魔王を討伐するために結成された軍。
その軍を結成する際に中心都市となった中央連合と呼ばれる街は冒険者協会だけでなく数多くの商業や工業などが盛んだった。
そして数年前、ついに魔王討伐に成功しその時に結成された軍に最前線で指揮を務めるレベッカ、そして後方指揮権を持つハイト、その他諸々中央連合最後の戦力によって成功した。
「無理もありません、あの魔王討伐軍に編成した冒険者並びに志願者を合わせ億を超える人数だったので顔を合わすことすら困難かと」
「いやそうじゃなくてなんでそんな奴がこんな貧相な装備でこんな辺境の街で冒険者を?」
「それはサーニャさんの口から説明した方が早いかと、頼めますか?」
「大丈夫よ」
サーニャは一枚の書類を取り出して軽く咳払いしてから読み上げる。
「ハイト・アーノルド。彼は魔王討伐後における冒険者協会設立時に第一級冒険者として登録。しかしのちのスキル鑑定による『アイテムのドロップ率100%』というこの世にはないスキルを所持していたことが判明しその場にいた中央連合は彼を希少な人材として名簿から抹消。その後は中央連合にて様々な書類を管理することになったが数ヶ月後、行方不明となった。こんなところですかね、訂正はありますか?ハイトさん」
「特にないです。ありがとうございますサーニャさん。ということだ」
「はぁ?何がということだ。だよ、舐めてんの?てかそんな説明自分の口から言えよ、それに行方不明ってあんた脱走したの?」
説明をちゃんとしたはずなのにガミガミ怒るレベッカに少し困惑するハイト。
「れ、レベッカさんいつもこんな感じですか?」
「ん〜〜、レベッカは隠し事が嫌いな子でね、でも優しい子だから」
「あーーもうそんなことは言わなくていいから、それでどうしてそんな奴がここに?行方不明の理由は?」
「ちゃんと説明しないと報告しそうな勢いですね」
「あったりまえよ、中央連合に逆らうなんて断罪ものだわ」
「そりゃね。説明しますと俺は素直に冒険がしたかっただけ」
「そんな理由?」
「そんな理由です。さっきの説明を聞いた通りに俺は冒険者の名簿から抹消。すなわち一生外に出れなくなったんですよ」
「ああそうね。でもなんでそこまでして?」
「ずっと後方でレベッカさんや他の人が前線で戦ってる姿を見て憧れてしまった。あの時はみんな命を懸けていたのは理解しています、しかしなんて言いますかその〜戦ってる姿カッコイイなと思いまして」
「はっ、笑える。でも嫌いじゃない。んであんたは憧れてこんな辺境で冒険者をやっていると」
「はい、恥ずかしながら」
レベッカはハイトを見る、ハイトの目を見てレベッカは納得する。
「分かった。中央連合には報告しない」
「ありがとうございます」
「だけど条件がある」
「構いません、できる範囲であれば」
「ドラゴン討伐手伝いなさい」
「ドラゴン討伐?なぜですか?」
「ドラゴンのレアアイテムがほしいのよ、それ目的であんたを連れていく」
「ああ構いませんよ」
「だけど!あんたとの関係はそこまで、ドラゴン討伐が終わってレアアイテムをゲットしたら私とあんたは赤の他人いい?」
「それでいいですよ」
ハイトとレベッカは両者納得するがサーニャだけ納得いかなかった。
「あれあれ〜、それだとレベッカだけが得してません?」
「サーニャ。何が言いたいの?別にいいでしょ、こんな奴にこのぐらいは」
「ん〜〜そうですねぇ、一方的にレベッカの方が得してません?」
「別に、私が得してもいいでしょ。規約違反ではないんだから」
「そこは規約違反ではないのですがもうひとつお忘れではありませんか?冒険者同士、パーティー外での契約によって一時的なパーティーの場合は報酬、並びに報酬金は平等にする。と」
「それは私とコイツとの間では特別だから規約外でしょ」
「一応冒険者名簿には登録済みですからねぇ、特別扱いというのは無いんですよ」
「サーニャ。まさかこれも?」
レベッカは察した。ここにはハイトの秘密を知る人物が二人。そしてハイトとレベッカが一時的なパーティーを組むことでハイト側には得がないことに。しかしそれは損得の問題であり報酬には触れてないため何の問題もないがレベッカは完全に騙される。
「はい。計算の内です」
「またやられた、それで今回は何が目的?」
「ひとつはハイトさんの中央連合から逃れる口実作り、もうひとつはレベッカのレアアイテム取得までの道作り、そしてもうひとつは私が冒険に出るための口実作り。です」
「え?ちょっと待ってサーニャ、冒険に出るってどいうこと?」
「私も冒険に憧れていたので、そしてそろそろ受付の仕事にも飽きていた頃なのでいいかなって」
サーニャの抜け目ない計画にまんまと騙されるレベッカ、この抜け目のない性格からか冒険者協会の受付である仕事が完璧にこなせる実力も頷ける。そして元は中央連合での受付だったがあえて外れてレベッカ専属となった。ハイトもサーニャには素性がバレてサーニャ独自でハイトの事も把握済みだった。そんないつも手のひらで踊らされてるレベッカだが幼なじみということや全ていい方向にはたらく事もありレベッカ自身最大の信頼相手だった。
だがそんなレベッカが初めてサーニャに対して拒否した。
「さすがに駄目。私が許さない」
「どうして?」
「モンスターは優しいものじゃない、危険なのよ。受付だったから分かるでしょ、生半可な冒険者が帰ってこないこと」
モンスターは常に凶暴かつ弱肉強食の世界。しかし冒険者はアイテムだけでなく食材や金を求めてモンスターを狩る。それと同時に命は常に危険に晒される。そんな世界でサーニャを向かわせることにレベッカは絶対にしないと思っていた。
「分かってる。けど私もレベッカと一緒に冒険したい」
「…………」
悩み黙り込むレベッカ。大体の雑魚から単体の大型モンスター程度なら守りきれるが複数のモンスターやいつ起こるか分からない異常事態などを想定した場合は守りきれる自身がない気持ちのレベッカ。
「どうせ連れていかないとハイトを中央連合に引き渡すつもりでしょ」
「正解。普通の冒険者ならどうてことないだろうけど『ドロップ率100%』はレベッカにとって最高の魅力ですからねぇ」
「完璧にやられた。分かったわ、それじゃあサーニャが冒険者協会から申請降りるまで私とあんたは装備を整えるのとサーニャの装備も整える。いいわね」
「それでいい」
「契約成立ね」
「全く……嬉しいんだが嬉しくないんだか……」
とうとうドラゴンのレアアイテムが手に入るかもしれない気持ちとサーニャの心配にハイトが中央連合から逃げてきたこともあって中央連合にバレる恐怖でもどかしい気持ちだった。
「ん、そうだ。ちなみにレベッカさん、気づいてましたか?さっきのサーニャさんが言ったパーティーの報酬平等性」
「え?そんなの当たり前よ、それがどうしたの?」
「いえてっきり理解してるものかと、ただサーニャさんは一言も俺とレベッカの間に発生する報酬に規約違反はある。とは言ってませんからこの場合はサーニャさんの冒険に出るための口実はほぼ無意味なんですよ」
「どいうこと?理解出来ない」
「簡単に説明するとサーニャさんに騙されてますよ」
「え?え?サーニャ、また騙したの?」
「騙してませんよ、私はただ普通に冒険に出たいとお願いしただけで、レベッカは勝手に私の要求を断ったらハイトさんを失うかもしれないと勘違いしただけです」
「ん?ということは……私は別にあんたとパーティーが組めたから話はそれで終わりだったということ?」
ハイトとサーニャは頷く。
「はぁ!?じゃじゃじゃあサーニャが冒険行きたいのは?」
「それは本当です。まあでも仮に気づいていたとしてもハイトさんの行いは相当な罰則対象であることは変わりないのとレベッカにとってもハイトさんを失うのはかなり痛手だと思うので両者共に私を引き止める方向に向くしかないので冒険に連れて行ってくれることは確定してました」
「これは完全に負けを認めざるを得ない。本当に抜け目のない人だ、サーニャさん」
「いえいえこれくらいは簡単です、あら?レベッカ?固まってますね」
まさかの真実に固まるレベッカ、サーニャに騙されるならまだしもレベッカ自ら罠に嵌ることに驚きを隠せないどころか自分の不甲斐なさに固まる。
そしてサーニャはレベッカをほったらかして冒険者協会に書類を提出しハイトはそのまま帰っていく、のちにレベッカは我に返り部屋を出てきたが魂が抜けてしまったかのように虚ろな目で冒険者協会を後にした。
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