秘密

 数日後、レベッカは軽く依頼をこなしていた。


「全く、相変わらずつまらない依頼ね」


 街周囲の依頼は簡単なモンスター討伐で最上級であるレベッカにとっては楽勝過ぎて飽きていた。

 するとちょうど依頼に向かうハイトを見つけた。


「ん?あれはバイト野郎、ちょうどいいやあとつけよう」


 レベッカは隠れながらハイトの後を追う、ハイトは依頼の紙と道を交互に見ながら依頼であるモンスターを探して歩いていた。


「相変わらず貧相な装備ね、というか新人なのによく一人で街の外を歩けるわね」


 街の外は基本的にモンスターだらけで商人が移動する際には冒険者を雇う、時折モンスター以外にも盗賊などがいるため冒険者はそんな盗賊を罰するための依頼も存在するがそれは相当な被害がない限り出ない。モンスターや盗賊がいる中でパーティーいわゆるチームを組まずしてたった一人で冒険するなんて自殺行為に等しかった。


「むしろ貧相だから襲われないとか?いやいや盗賊はそう考えてもモンスターは無能だからそんな事はないでしょ」


 あれやこれやと考えてるレベッカを差し置いてハイトは森の中に入っていく。


「森?大丈夫か?私は助けないぞ」


 謎の心配が出てきたレベッカだがついて行く、そしてかなり森の奥へと進んだハイトは何かを見つける。


「――なっ!?アレは『白金草』!?どどどうして?」


 白金草とは森の中にひっそりと育つ白金色の草のレアアイテム。白金ということもあり普通に見つけることは可能だと思うが実際はモンスターが食べてしまったり、白金という珍しい種がほぼ限定的で稀にしか生まれずほとんどが育つことはなく枯れ、白金草は特異変質を遂げる草であるためほぼ見つけることは皆無であった。

 そんなレアアイテムを見つけたハイトは何の躊躇いもなく取ってバッグにしまう。


「驚かないの?というか価値を知らない?いやそんなハズはない……しかし白金草なんて私でも森に入って見つけようとしたけど三週間はかかったわ」


 何故か負けた気がしたレベッカだが何か裏があると思いさらに観察を続ける。


「また白金草!?なんで?」


 また数歩進んだ先で見つかる白金草に驚きを隠せなくなったレベッカは急いで街に戻る、そして冒険者協会に行き受付まで走って帰ってきた。


「はぁはぁ……サーニャはいる?」

「あ、は、はい……今すぐに呼びます」


 いつも冷静に受付していくレベッカとは裏腹に汗をかくほど慌ただしいレベッカに驚きながらも受付はサーニャを呼びに行くとサーニャは変わらずニコニコしていた。


「あら、どうしたのレベッカ?」

「アイツの依頼は?」

「アイツ……ああハイトさんね。依頼は森の中にある家畜用のモンスター肉とある程度の草が納品依頼ね」

「アイツ。白金草見つけていたんだけど、どうなってるの?」

「どうなってるのと言われても私からは何とも言えません、直接……」

「嫌だ!」

「どうして?」

「それは……」

「私達には個人情報の守秘義務がありますのでたとえ最上級冒険者であろうお方でも口を割ることは不可能です、もしその冒険者の個人情報が欲しいのであればご自身で接触するなり、聞くなりとして下さい。では私は仕事あるのでこれで」

「うえっ!?ちょっ、サーニャ!待って、仕事と言ってもあんた大した仕事はないでしょ」

「レベッカからすれば大した事ではないかもしれませんが私からすれば大した事ですので」


 笑顔で手を振ってそのまま受付の奥へと消えていくサーニャ、明らかに忙しい様子もないのに立ち去っていきレベッカはため息を吐いて近くの椅子に座る


「全く何なのよもう……」


 頬を膨らませご立腹のレベッカに周りの人達は近づこうとはせず、そのまま夕方になるとハイトが帰ってきて受付でアイテムを納品する。


「確かに納品しました、報酬金もしっかりと頂きました。それでは」


 ハイトは納品アイテムしたことと報酬金を貰ったことをしっかりと確認してそのまま出ようとした時、たまたま近くの椅子に座って寝ていたレベッカを見つけ足が止まる。


「…………」


 だが、ハイトは気にせずそのまま立ち去った。

 レベッカが起きたのはその夜の冒険者協会が閉じる時間直前だった、サーニャに叩き起され結局レベッカはハイトに会うことも出来ずさらにその日に討伐した依頼の換金も忘れてしまい次の日の朝早くから冒険者協会にやって来た。


「くっそ〜〜、なんで寝ちゃったのかな〜〜」

「別に冒険者協会で寝ても構いませんが普通の宿の十倍の料金取りますよ」

「高っ!!」


 朝早くということもあり冒険者協会にはまだレベッカとサーニャしかおらず二人で受付の机を挟み会話していた。


「てか今ならちょっとくらいアイツの事を教えてくれても……」

「ダメです」

「なんでぇ?」

「冒険者規約ですので」

「規約規約ってサーニャは別に規約違反しても大丈夫じゃない?」

「あら?そしたら私は違反がバレてもなんとかなりますがレベッカを擁護したりしませんよ」

「なんでそうなる!?」

「私は冒険者協会の人間で更にはお墨付きの人間なのであれやこれやと嘘を並べても多少はバレませんよ、同じ冒険者協会の人間でもその下に動く冒険者の方々はさすがの規約を破ることは出来ませんから嘘はいけません、仮にしたとしてもレベッカなら私がすぐに見抜けます」

「簡単に幼なじみを売る人間がどこに……目の前に居たわ」

「別に売るわけではありません、戦略的口実のどう……人材派遣ですよ」

「道具って言おうとしたな」

「さぁね、そろそろ皆が来る時間よ、レベッカはどうする?昨日の換金は他の人に任せちゃうけど依頼を取るなら先に取っておくよ」

「んーー、今日はいいや」

「そう、じゃあハウス」

「ペットじゃねぇよ!!」


 軽くレベッカをからかいつつも着々と手元の資料から全ての受付の机に綺麗に揃え並べていくサーニャにレベッカは邪魔しないように少し離れる。


「本当に仕事早いわね」

「これくらいは普通よ、同じ仕事をしてると不思議と早くなっていくのよね。レベッカもそうでしょ」

「まぁね。私の場合は討伐時間が段々と早まることね」

「人には人の得意ごとがある。私は戦闘に向いてないからこの職を選んだだけ、ただ少しレベッカが羨ましいけどね」

「それって……」


 レベッカはサーニャのその言葉の真意を聞くとこなく受付の人がやって来て入れ替わるようにして奥に消えていく。それと同時に冒険者が続々とやってきていつも通りの光景になっていく。

 するとハイトがやって来たのを見つけるレベッカは反射的隠れて観察を始める。


「今日こそは謎を突き止めてやるわ」


 ハイトは受付で依頼を受諾して出ていく、レベッカも後を追いかける。

 街の外に出るハイトは昨日とは変わって貧相な装備をしっかりと整える。


「アイツ……貧相過ぎて整えても変わらないわよ、本当に馬鹿なんじゃないの?」


 雑魚のモンスターの攻撃ですらまともに防ぐことが出来ない貧相な装備にも関わらずハイトはそれでも整えてから歩き出す。


「じれったい、けどダメよ。私は助けない絶対に助けない……」


 独り言をブツブツと言い周りの冒険者から変な目で見られるが気にせずハイトの後を追うレベッカ。

 途中でゴブリンと遭遇するハイトだが巧みな身のこなしで攻撃を避け隙を見つけ倒す。


「むぅ……、新人ながら身のこなしは中々ね。けど私の方が強いし」


 動きは悪くないと関心しつつも謎の対抗心が出るレベッカ、そして当然のようにゴブリンのドロップアイテムは『鋼の心臓』だった。


「またレアアイテム。本当にどうなってんの?もしかしてあの貧相な装備に見せかけて実はドロップ率に極振りされてる仕様とか?いやいやそんなの聞いた事ない」


 ますます怪しく感じるレベッカは目を細め注意深く観察するとハイトは盗賊に遭遇して囲まれていた。


「あ〜〜、そりゃそんな装備してるからなぁ」


 盗賊は取れるものがあれば取るという新人相手でも容赦ない、盗賊達はハイトの持ち物全て渡すように脅されていた。


「抵抗しなさいよ、なにやってんの?」


 ハイトは何も言い返さず持ち物全て盗賊達に渡そうとしていた。レベッカはそれを見ていてじれったい気持ちになりつつも助けないと自分の中で決めているため我慢する。


「うぅ……、別に助けなくてもいいけど……」


 もどかしい気持ちで見ているレベッカはついに我慢出来ずに物陰から飛び出る。


「ちょっと!あんた達!そんな新人相手に何やってんの!!」

「げっ!他の冒険者だと!」


 盗賊達は驚くがハイトは驚いてなくただレベッカを見ていた。


「いや女冒険者か、それに一人か」

「余裕だな」

「悪くない女だ」


 いやらしい目付きでレベッカを見る盗賊達。


「三秒以内で消えれば許すわ、でも消えないのなら今ここで倒す」


 大剣を抜き構えるレベッカを見て一人の盗賊が声を上げる。


「――あっ!お前はまさかあの光魔大剣使いのレベッカか!!」

「あら?馬鹿にも私の名前を知ってる人がいるのね」


 一人の盗賊が声を上げたことにより周りの盗賊達がその盗賊に聞き始める。


「こ、こうま?なんだそれ」

「馬鹿、彼女はあの魔王討伐軍の最高軍部の戦闘総指揮官である降魔の異名を変え光魔に変えた超やべぇ奴だよ」

「嘘だろ、そしたら俺達は歯が立たないどころか木っ端微塵で塵になるやん」

「ここはそうだな……」

「逃げるぞ!!」


 盗賊達はその場から散り散りになって一目散に去っていった。


「はぁ、全く。この大剣を見てから気づくなんてやっぱ魔王を倒して十年は経つからそりゃ忘れるか」


 レベッカは大剣を収めてハイトに近づく。


「あんた何普通に持ち物を馬鹿共に渡そうとしてんのよ」

「……そうか君があの降魔大剣の使い手レベッカか」

「なに?文句ある?」

「いや別に、それでレベッカさんは俺に何の用ですか?」

「用はないわよ、たまたま通りかかっただけよ」

「数日前から付けていてたまたま通りかかったと言うんですね、初めて知りました」

「――ばっ、違うわよ。それはその〜〜……」


 付けていたことがバレて何とか言い訳を考えるが全く思い浮かばす口をモゴモゴと動かす。


「それより持ち物を渡す理由答えてませんでしたね」

「そう!あんた馬鹿じゃないの?一応冒険者なんだからあんな盗賊達に渡す必要はないの、いい?」

「そうですね。レベッカさんになら答えてもいいでしょう」

「なにその変な言い回し、私嫌いなんだけど」

「俺には元から存在する『ドロップ100%』の加護があるのでいくら手持ちが減ろうともまた探して倒せば確定でアイテムはドロップしてさらにはレアアイテムもドロップするので手持ちには困りません」

「………………は?」

「詳しく説明すると面倒臭いのでここまでです、それでは」


 固まるレベッカにハイトは依頼に戻ろうと歩き始めるがレベッカは我に返り急いで腕を掴み止めた。


「ちょちょちょちょ、待ってどいうこと?何それ」

「ん〜〜、俺にもサッパリです。それでは」

「だ〜か〜ら、説明しろ」

「面倒臭いので、それでは」

「あんたさっき私を知ってそれで答えたんでしょ、なら私に教える権利あるでしょ」

「いやないです。それでは」

「もーーー、なんなのコイツ」


 引っ張ったり引っ張られたりと同じことを何回も繰り返してハイトはついに根を上げたのか大きくため息を吐く。


「分かりました、それではサーニャさんを交えて話をしましょう。それが条件です」

「どうしてサーニャを?」

「条件です」

「わ、分かったわよもう……」


 ハイトの条件に渋々了承して一度冒険者協会に戻るレベッカとハイトだった。

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