ドロップ率100%の冒険者
水無月 深夜
ドロップ率
ドロップ率。それは敵を倒した際にアイテムや武器を一定の確率で落とす(=Drop)ことを指し示す確率。
あくまで確率であって信用性は低い、落ちればいい。程度にしか考えない。
確率はあくまで確率。そして運も確率。
冒険者とは街の外にいるモンスターを倒しそれに応じた報酬金を受け取る。そしてそれを生活の足しと装備を揃えてさらにハイレベルなモンスターを倒していく、冒険者はその繰り返しをして強くなる。
時折、モンスターを倒した際に落とすアイテムは普通の物からとても貴重な物と上から下まである。それを巡って集める冒険者もいるがあくまでそれは確率の問題だった。
「ダメね、今日も無し……」
一人の女冒険者が巨大なドラゴンを倒し終わりアイテムを確認するが何も無いことに落胆する。
「しかし本当にあるのかしら、ウワサで聞いたけどやっぱウワサはウワサね」
女冒険者はとあるウワサでドラゴンからドロップするアイテムを求めていたがこれまでドロップしないことに軽い苛立ちを見せるが首を横に振ってそのアイテムを諦めることにした。
「さてと、このドラゴンは一応討伐対象だったから報酬金を貰って帰るかしら」
ドラゴンの脳天に突き刺した大剣を抜き納めて女冒険者は帰った。
討伐したドラゴンの近くの村から報酬金を貰って街に帰ってきた女冒険者は冒険者協会に寄って行く。
中に入ると協会内に居た全員がレベッカに注目するがレベッカは気にもせず端の席に座る。
「はぁ〜〜、疲れた〜〜」
「お疲れ様。その様子ですとまたドロップしなかったのかしら?レベッカ」
椅子に腰掛けると冒険者協会で働く受付係の人が声をかけてきた。
「まあね、これで三十二体目よ。サーニャ」
「よくもまあ討伐すること」
女冒険者の名前はレベッカ。最上級冒険者でどんな依頼もこなす最強の一角だが今はとあるアイテムを求めてドラゴンだけを討伐して回っている。
最上級冒険者は冒険者の中でもトップクラスで誰もが憧れる冒険者でレベッカはその最上級の一人で注目の的だった。
そしてその幼馴染である冒険者協会の受付係サーニャは専属の受付となっているがほとんど街の外に行ってしまうため普通の仕事をしている。
「あ、そういえば最近新しい冒険者が入ったんですよ」
「ふ〜ん、それで?」
レベッカにとって新人冒険者はどうでもいいことだがサーニャが嬉しそうな顔をして話すため断ることが出来なく聞くことにする。
「その冒険者聞くところによると納品アイテムの中に必ずレアアイテムが存在してるらしいですよ」
「はぁ?何それ?納品アイテムは別にノーマルアイテムでいいんでしょ?」
「確かにノーマルでもいいんですがその冒険者は何も言わずに納品するだけで普通に報酬金を受け取って帰るだけなんですよ」
「ますます分からないわ。それでその冒険者は?」
「えっと……あっ!ちょうど来ましたよ」
サーニャが冒険者協会に入ってくる貧相な装備を身につけた冒険者を指さす。
「え?アレが?」
新人でさらに納品アイテムにレアアイテムを納品すると聞いてそれなりの冒険者か最上級の誰かだと思ったレベッカだったが意外にも貧相過ぎた装備にあまりパッとしない男にめちゃくちゃ残念そうな顔をする。
「そうです、ちょうど納品するらしいですね」
「いやいや無いわ。貧相な装備どころかアレ冒険者協会から最初に貰う初期装備じゃない」
冒険者協会から貰う初期装備は鍛冶屋がデタラメと言っていいほど雑な物が全てでむしろ貰っても装備するのは金に困った冒険者がほとんどだが生半可な冒険者は大体一二週間すると居なくなる事が多かった。
そんな冒険者を気にかけるほどレベッカは暇ではなかった。
「でも〜一応声をかけてみれば?」
「どうして?」
「ドラゴンの件。いいんですか?」
「うぐ……あ、あれはまだいいのよ、そう期限なんて無いし」
「いいんですか〜〜?」
「……………」
「私レベッカの専属なのにいつもレベッカは街の外に行っちゃうから毎日毎日大変な思いをして……」
耳元で嫌味を囁くサーニャに我慢出来ず立ち上がるレベッカ。
「あーーーもう、分かったわよ。というかサーニャは別に苦労してないでしょ、仕事早いくせに」
「うふふ、別に私は早くないですよ〜」
基本的に冒険者協会は特定の冒険者に対して専属は付けない。しかしサーニャはそれが許されてる、その理由はただひとつ、彼女一人で冒険者協会丸々ひとつ運営出来るほどの仕事が早く適切だったため他の受付が仕事が無くなるなどの嬉しい苦情なのか嫌な苦情なのか多くなっていきついには彼女からの提案でレベッカ専属と居ない時は裏方で収まった。
専属を認められたのもレベッカが最上級冒険者だった事もあり何の心配も無いことと都合のいいことをだった。
そんなサーニャは何の苦もない嫌味を盾にレベッカは耐えきれず立ち上がって早足に貧相な装備の冒険者の所に行く。
「ちょっとあんた、話いいかしら?」
「俺ですか?」
「目の前で話してるのに他に誰がいるのよ」
「まあ構いませんけど、少し待ってください」
新人冒険者は受付にアイテムを数点渡したあと報酬金を受け取る。
「それ全てレアアイテムよね、どこで?」
「モンスターですけど」
「それは分かってる、なぜレアアイテムを納品してるの?」
「人の勝手じゃないですか」
新人であるはずの冒険者が最上級冒険者に対しての態度が気に食わなかったのか段々と苛立ちを見せるレベッカ。
「あんたねぇ……私が誰か知ってる?」
「レベッカさんですよね、知ってますよ」
名前を知ってその態度だということにレベッカの怒りは頂点に達し新人冒険者の胸ぐらを掴むと新人冒険者の手から報酬金がバラけ落ちる。
周りにいた冒険者だけでなく受付係の人達が何ごとかと思って止めに入ろうとするが相手は最上級だと分かって止めようにも止められなかった。
「新人だからって舐めないでよ、私は最上級よ」
「それで?最上級だからって誰に対しても上から目線は良くないと思いますよ、むしろ最上級だからこそ誰に対しても優しくしないとダメじゃないですか?」
正論とも言える意見にレベッカは怒りが抑えきれず殴ろうとするがサーニャが止めた。
「はい、レベッカ。規約違反でお話しましょうね」
「さ、サーニャ……まさかそれが目的?」
「さぁね、とりあえず向こうのお部屋でお話ね」
「待ってサーニャぁぁぁ、いだだだだ」
「お話は向こうのお部屋でねレベッカ」
言い訳しようとしたのかレベッカの腕をそのままひねり返すサーニャ。
「あなたもいいかしら?」
「構わない」
「それじゃあ行きましょうか」
「痛い痛い、離してサーニャぁ〜〜」
サーニャはレベッカの腕をひねり返したまま引き連れて奥の部屋に連れていき、新人冒険者も後について行った。
周りの人達はその一部始終を見て最上級冒険者よりも怖いのはサーニャだと認知された。
「えっとそれではレベッカは冒険者規約第一条違反に基づいて罰則は分かってるわよね」
ソファに座って分厚い本を開いて説明するサーニャにレベッカと新人冒険者が黙って向かい側のソファ二人で座って不機嫌なレベッカに真面目に聞く新人冒険者。
「はいはい。分かってるわよ。それよりサーニャこれが本当の目的?」
「何のことかしら?私はただ冒険者規約違反者を取り締まっただけだけど?」
「うぅ、そう言われると何も言い返せないわね」
「まあいいわ。えっと新人さんじゃなくてたしかあなたの名前はハイトくんだったわよね?」
「ハイトでいいです」
「律儀でいいわね、でもここは冒険者協会で受付係だから呼び捨てにはしないわ、とりあえず一応形式上罰則は終了。あとはレベッカが話があるらしいの聞いてあげてもらえるかしら?」
「別に構いませんが……」
新人冒険者、ハイトはサーニャからそう促され隣に座るレベッカを見るとレベッカは髪の毛が逆立つほどハイトを睨みつけていた。
「レベッカ。ドラゴンのレアアイテム欲しいんでしょ」
「分かってるわよ!もう使えなかったらすぐに捨てるわ、ハイトだがバイトなんだが知らないけどあんたなぜそこまでして納品にレアアイテムしか入れてないの?馬鹿なの?」
「いや馬鹿と言われても別にそのアイテムの上位に位置するアイテムだから依頼人からすれば嬉しいじゃん?」
「別にノーマルだっていいのよ、文句があるやつは一人もいなかったわ」
「たしかにそうかもしれないが一応報酬金は貰うからちゃんとしないと」
「はいはい、いい子ちゃんアピールはいいですよ。ちなみに今日納品したのは?サーニャ」
「そう言うと思ってすでに調べてあります。ハイトさんの今日の納品は『ゴブリンの心臓』です。とある商会さんからのご依頼で家畜の餌になります。大体は新人任せのご依頼ですが新人ということもありやはり鮮度的に落ちてしまうのが難点で、商会さんはそこを含めて理解してるのであまり文句は言いません、しかしその上位であるレアアイテムは同じ心臓でも『鋼の心臓』と言われており、鮮度は変わらずさらに味もいいことなので家畜にとってはかなりご褒美らしいです」
書類を淡々と読み上げたサーニャに笑い出すレベッカ。
「あははは、ゴブリンの心臓ってあんなの狩りまくれば普通にドロップするわよ、しかもそんなレアアイテムなんて十回に一回落ちるわよ、馬鹿にしてんの?」
「ちなみに続きがあります。読み上げます、今日はその依頼はハイトさんが完了しました。納品数は『鋼の心臓』を十個。依頼側の要求数は五個です。無事に依頼を達成されましたこと依頼人に変わりましてお礼申し上げます」
「別にお礼は必要ない、ただ依頼をこなしただけだ」
「ぶはっ!あんたやっぱ馬鹿ね、なんで依頼側の要求数に対して二倍の数を納品してるの?それもレアアイテムを、まあでも金にならないから納品した方が楽か〜〜、ちなみに何体倒したの?」
ゴブリンの心臓はその名の通りゴブリンからドロップするアイテムでそのレアアイテムは鋼の心臓であるが実際には他にもレアアイテムが存在しレアアイテムで鋼の心臓がドロップする訳では無い、例えレベッカの言う通りに十個中一回鋼の心臓がドロップすれば百回居ないには集まるかもしれないが極論、面倒臭い。それにそんな一気にゴブリンを倒せるわけないためレベッカはハイトが何日も掛けただろうと予想して大爆笑していた。がハイトは眉ひとつも動かすことなく答えた。
「十体」
「…………は?」
「もう一度言う、十体だ」
「は?いやいや嘘はいいから」
「嘘じゃない、十体だ」
「さ、サーニャ。こいつダメだ、馬鹿過ぎる。ゴブリンを倒し過ぎて頭がイカれたんだと思う」
「そうかしらね〜〜」
何か意味ありげな表情でニコニコするサーニャにレベッカはもう一度聞いた。
「あのねぇ、いい。レアアイテムは確かに倒した時に確率でドロップするわけ。あくまで確率よ確率。それを仮に十体倒してレアアイテムを十個ドロップしました〜。なんてありえると思う?」
「さぁ?」
「さぁ?ってあんた、私が言ったこと理解してる?」
「理解してる。だから?」
「話にならない。もう無理、帰るわ」
レベッカは飽きれて部屋から出て行ってしまった。
「全くレベッカったら……ごめんなさいねハイトさん」
「いえ気にしてません、しかし貴女は俺の正体を知っている口振りに思えましたが気のせいですか?」
「私はただの受付係ですので個人情報は詳しく知りませんので……」
「そうですか、しかし俺が変な事を聞いてしまったせいで隠すも何も自らバラしたと言っても過言ではないか」
「私は何も聞いてませんし見てませんので、ただレベッカが冒険者規約違反してお説教しただけに過ぎませんのでハイトさんには状況説明をしてもらっただけです」
「ふっ……案外、冒険者よりも貴女が怖くなりましたよ。それではまた会いましょう」
「ええ、それでは……またお待ちしておりますハイトさん」
サーニャはいつも通り他の冒険者を見送る仕草で頭を下げハイトは部屋から出て行った。
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