第10話

 そのあと、私は仕事上でのミスが続いた。間違った先へと配送したり数を間違えたりと、上司が飛んでくるようなミスを連発した。

「大丈夫か?」

「はい、すいません」

「今までミスがなかったから信用してるんだよ、頼むよ」

「はい、すいません」私には反論の余地がなかった。それでも減給やクビにはならずに済んだものの、従業員が一人増えた。

「いままで一人だったしな」と、上司は過酷だったのかと増やしたのだ。実際は過酷さを感じたこともないし、気軽にやっていたのだ。ただ、あの日を境に私は変わってしまった。『良い想い出』に出来れば楽だったのだが、辛い思いだけが残ってしまったようだ。果たして立ち直れるのだろうかと思うほど、生活も不規則になった。今まで飲酒は外出した時だけだったが、安いお酒を買い求め、部屋で飲むようになってしまった。その結果、仕事上でミスを重ねたのだ。彼女のことは忘れることはないが、智子のことは忘れなくてはいけないと自分に言い聞かせ、逃げるようにお酒を飲んだ。たった数日の出来事が、ここまで自分を狂わせるとは想像もできなかった。ただ、もう一度だけでも智子に会いたい。会って何かが変わるわけではないだろうが、ただ、会いたい。それだけだった。それだけが私の願いだった。

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