第8話

 翌朝は目覚めも良かった。帰ってきてからのことはあまり覚えていないが、ちゃんとベッドで眠り、しっかりと目覚ましも掛けていた。私の仕事場は最寄り駅から三駅ほど離れた工業地帯にある。その一角に倉庫街があり、その一か所が私の職場だ。トラックによって運び込まれた品物を、各配送先へと仕分けする倉庫だ。日に数便のトラックが到着する以外に、人の出入りもない。扱う品物も日曜品が主であり、無駄口を利かないのも気が楽な要因である。少々の二日酔いを責める上司もいなければ、からかう同僚もいない職場は、今の私の理想郷であるかもしれない。仕分けをしながら、昨日の余韻を楽しんでいた。と同時に、智子が言った言葉に気が付き、胸が張り裂けそうな思いも感じていた。『用事で一週間ほど』智子が言った言葉は、数日後にはこの地を離れることを物語っていたからだ。連絡も取り合えない間柄とはいえ、私はやるせない気持ちを胸に、黙々と仕事に打ち込むしかなかった。


 智子の泊まるビジネスホテルの正面には、大手コーヒーチェーンの店がある。その店内の一角で、智子はサラリーマン風の男と対面していた。

「では、これを」男が大きめの封筒を差し出すと、

「はい。色々とありがとうございました」と智子も封筒を差し出した。

「もういいんですか?」男は確かめるように尋ねた。

「ええ。後はこちらでなんとかなりそうです」

「わかりました。お気をつけて」そう言うと男は差し出された封筒を胸ポケットに入れ、その場を立ち去った。男が去っても智子は座ったまま、外の景色を眺めていた。そして腕時計を見てから立ち上がり、店をあとにした。

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