はみだしミニーチェ『神は死んだ』

 ニーチェのアフォリズムの中でも目にしたことも多いであろう有名な言葉。


『神は死んだ』


 しかしこの言葉も誤解が多い。


 ニーチェはキリスト教批判をしていた哲学者であるから、科学技術の発達により宗教の権威の失墜を声高に表明した言葉のようにも思える。


 だがキリスト教の権威の失墜は別にこの時代に始まったものではないのだ。


 すでに当時からして無神論者、唯物論者、合理主義者に懐疑論者、哲学者まで宗教的観念から世界を解釈することは危ぶまれていた。


 たとえばイマヌエル・カントなどはニーチェの1世紀前の哲学者であるが、『神』という使い勝手のよい存在を排除して思考する道徳哲学を突き進めた。

 しかしカントもまた形而上の『真理』の世界を排除することは出来なかった。


 ただニーチェは宗教も道徳哲学も共に無価値であるという。

 我々を救ってくれる都合のいい答えも、これさえやっていれば幸せになれるという正しい行いもない。

 

 単にキリスト教という宗教観の否定ではなく、人間から超越した思想も存在もない。

 そこから考え始めようじゃないかと提唱したのが『神は死んだ』なのである。


 そこからニーチェは人間の身体性に着目する。


 魂だとか精神だとか正しい行いだとか神様が見てるなんていう、誰も証拠を出せないあやふやなものなんかよりも、私たちは眠ければボーッとしちゃうしお腹が空いてれば怒りっぽくもなる。

 そういう証明するまでもない自分自身の身体の方が重要だろ?

 誰かにパンを分け与えて祈ってても病気になったら助からない。

 ちゃんと美味しいもの食べて、ゆっくり暖かくして寝て、元気でいる。

 人間が生きるっていうのは、そこからスタートするしかないっしょ?


 という非常に現代的なアプローチをする。


 超人思想といい近代における『個人』の考え方に相当早くタッチしているのである。


 現代でも「俺がいないと会社が回らないから」とか「このままでは日本がダメになる!」とか「この歳で独身だと世間的に恥ずかしいし」とかいう、超越的な大きな存在のせいにしてる人は見かける。


 ニーチェはそんな人たちに「あなた自身はどうなんですか!?」と強く訴えかけるのである。


「神は死んだが、お前の人生は続くんだ!」

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