第21話 『訊くのは、あなただけ⁉』

「どう?」

 とアルマが訊いた。

「まわりには、誰もいないみたいだね」

 木の陰からスペスが様子をうかがう。


 果たして家はあった。

 村があった場所に、ポツリと一軒だけあった。


 それは家というよりは小屋といったほうがいいくらいの大きさだったが、それでも屋根や、付いている扉の大きさから見て、小人のものではなく、アルマのような人が住めそうなものだった。


 その側面の壁には、穴を開けただけの素通し窓があり、明かりはそこから漏れていた。いまのところ、中からは何の音もしてこない――


「あそこから、中を覗いてみようよ」

 スペスの提案に、アルマは『さすがね……』と感心する。

「やっぱりお婆さんを覗いていた人が言うと、頼もしさがあるわ」


「いや、してないからね」とスペスが首を振った。「これが初めてだし、今回はアルマも共犯だよ」

「む……」とアルマがうなる。「仕方ないから、今回は見逃してあげる」

「いいね……」

 とスペスは親指を立てたが、声には緊張が滲んでいた。


「じゃあ……行こう」

 ふたりは音を立てないように窓の下まで移動すると、そっと中をのぞく――


「誰だッ‼︎」

 いきなり中から怒声が響いた。


 獣が吠えたような大声をぶつけられ、ふたりは身をすくませる。

 しかし、それは〝ここ〟に来てから初めて聞く人の声で――この場所にも人がいたという事実が、緊張ですり減っていたふたりの心を少しだけ軽くした。


「あ、あの……、夜分に、すみません。わたしたちはその……泥棒とかじゃなくて、み、道に迷ってしまって、その……帰れないんです」

 しどろもどろになりながらも、アルマは中に声をかける。

「…………」

 返事はなかったが、聞いているものと信じて、アルマは続けた。

「あ、あの……わたしたち本当に困っているんです! どうか――助けてもらえますか?」


 またしても返事はなかったが、やがてガタガタと音がして、横の扉がきしみながら開いた。

 ゆっくりと、魔法の灯りをつけた棒を持って出てきたのは、スペスよりも頭ひとつは大きな女だった。

 見たところ歳はふたりより上だが、そこまで離れてもいない。


 腰まである黒い髪を雑にまとめあげ、下着同然の短い部屋着からはみ出そうなほど大きな胸を隠すそぶりもしない。惜しげもなくさらした手足には、ひと目で鍛えてるとわかる、太くひき締まった筋肉がついていた。


 出てくるなり、女は鋭い目つきでふたりを睨んだ。


 その眼光に気圧けおされて、アルマは体を強張こわばらせたが、女は、しばらくふたりをけたあと、「入りな……」とだけ言って、ドアを開けたまま中へ戻ってしまった。


 先にスペスが小屋をのぞき、アルマにうなずいて中に入る。

 アルマは入る前にまわりを見まわしてみたが、暗い森が広がるばかりで、何もおかしな所は見つけられなかった。


――この人は助けてくれるのか、それとも……


 浮かんでくる不安を押しつぶすように、アルマは服の裾をぎゅっと握って小屋へ入る。


 ドアを閉めると、黒髪の女は壁の出っぱりに魔法で灯りをつけていた。小屋は太い丸太を組んでつくられていて、まだ新しい木の匂いがした。

「靴は、そこで脱げ」と女が言った。「アタシは、家の中では素足で居たいんだ」


 入り口の土間にはスペスのブーツが脱いであり、アルマもそれに習って靴を脱ぐ。

 普段から靴を履いた生活を送っているアルマには、裸足で家のなかに入るのがなんだか不思議な感じがした。


 遠慮がちに、床に敷かれた毛皮へ足を乗せると、ふわりと柔らかく足を包みこんで、踏んだ心地がとてもよかった。


「……座れ」


 女は、木を輪切りにしただけの無骨な椅子をふたりにすすめた。言われるままに座ったふたりを、女は立ったまま、腕組みで見おろしている。


「あのここはどこ――」

「黙れ」

 静かだが凄みのある声が、アルマの質問を止めた。


「いまから訊くのは、アタシの方だ――いいな?」


 有無を言わさぬその迫力に、ふたりはただうなずくしか出来なかった。

「では質問だ」女が言った。


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この女は、ふたりをどうするのか?


それでは次回、

第22話 『ダメならやりません⁉』

で、お会いしましょう!

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