第3話 僕が、名門エースリート学院に入学へ?

 僕に話しかけてきた大人の女性は、グラントール王国国民なら誰でも知っている、超有名人に違いない!

 僕は思い切って、女性に聞いた。


「あ、あのう、あなたはサラ・ルイーズ?」

「……ええ。私はサラ・ルイーズです。エースリート学院の学院長をしております」


 やっぱりそうだ。もちろんサラ・ルイーズは、有名な私立エースリート学院の学院長として有名な女性だ。若干二十二歳の時、魔導体術まどうたいじゅつの学校を建造した。

 しかし、もっと有名な話がある。サラ・ルイーズは、グラントール王国世界魔導体術まどうたいじゅつ大会、一般の部で、十八歳から四連覇を成し遂げた女性なのだ。……デルゲス・ダイラントの一回きりの優勝ではない。四年連続だ! グラントール国民なら誰でも知っている、国民的英雄だ! しかも美人……。

 アリサは言った。


「サラさんは、あたしの育て親。あたしはみなし子なの」

「へえ……そうなんだ」

 

 アリサは僕と境遇きょうぐうが似ているらしい。僕も両親がいない。


「サラさんは有名人だよ。でも独身。三十五才で、結婚適齢期けっこんてきれいきを過ぎてる。結婚に興味がないらしいの」

「アリサ、余計なことは言わなくていいの。あなた、自分を助けてくれた人に、ちゃんとお礼を言った?」

「……言ったよ。でもさー、男の子に助けられるなんて」


 アリサはそう言って、また僕からそっぽを向いた。あ、そういうことか。僕に助けられたのが悔しかったのか。


「アリサ、あなたね、もう少し素直になりなさい」


 サラ・ルイーズは静かにアリサをしかった。

 僕は緊張して、ケビンにやられた痛みもちょっと我慢して、直立不動だ。こ、こんな国民的有名人と、じかに話せるなんて!


「そんなに緊張しないで」


 サラ・ルイーズは、僕をたしなめた。


「それにしても、あなたのさっきの動き……。そう、ケビンの攻撃を受けた動き。面白かったですよ」

「え? ああ、ありがとうございます」

「そうね、私はあの動きを見たことがある。サーガ族の……。待って、あなた、その手の甲を見せてみなさい」


 急に、サラ・ルイーズは僕の手をとった。そして僕の手の甲をしげしげと見つめた。


「あなた!」


 彼女は叫んだ。


「三ツ星のアザがある!」

「え? ああ」


 僕はルイーズさんが何を驚いたのか分からなくて、首を傾げた。


「確かに、三ツ星のアザは、子どもの時からあります」


 ルイーズさんの言う通り、僕には右手の甲に、不思議な三ツ星のアザがある。手の甲の真ん中に、星のような黒いアザが、三つ並んでいる。小さい頃は、カッコイイと思っていたが、さすがに十六才になると、こんなアザはどうでも良くなった。


「あなた」


 ルイーズさんは聞いてきた。


「制服を着ているけど、その制服は確か、ドルゼック学院のものでしょう」

「はい、そうです。でも、ドルゼック学院に在籍していましたが、今日、退学になったんです」

「退学? どうして?」

「その、僕が弱すぎるから、だそうです。ドルゼック学院の面汚つらよごしだからって」

「そんな理由で、魔導体術まどうたいじゅつの学校を退学になるなんて、聞いたことがない。魔導体術まどうたいじゅつの学校は、弱い人を強くするための場です。ドルゼック学院の学院長は、デルゲス・ダイラントだったわね。あの男はインチキをやって、魔導体術まどうたいじゅつ世界大会で優勝した男だから」

「ええ? インチキ?」


 僕はおどろいた。信じられない。


「あなたは、ひどい学院に入学していたのですね。では明日、私の学院──エースリート学院に来なさい。すぐ入学手続きをします」

「は、はあああ?」


 僕は失礼だと思ったが、思わず声を上げてしまった。

 ドルゼック学院は、全校生徒八千人の巨大な学校だが、学費は無料で試験も筆記のみ。

 一方、エースリート学院は千人で中規模。難しい筆記試験と実技試験があるから、人数が絞られているんだ。私立で、入学費も学費も高い。

 ドルゼックよりは学院の規模は小さいが、エースリートは本物の魔導体術家まどうたいじゅつか育成学院と噂されている。授業もかなり厳しいらしい。


「どういうこと? サラさん」


 アリサも驚いているようだ。


「い、意味がわかりません」


 僕は声を震わせて聞いた。


「そんなこと、できるわけないじゃないですか。エースリート学院は、厳しい入学テストもあるし、選ばれた魔導体術家まどうたいじゅつかの少年少女しか、入学できないはずです」

「黙りなさい」


 ルイーズさんはピシャリと言った。


「あなたは、自分の隠された能力を知らない……!」


 ルイーズさんはゆっくり後ろを振り向いた。後ろには、高さ二メートルはある、デルゲス・ダイラントの石の彫像がある。デルゲス・ダイラントがこの公園に、一億ルピーも寄付したそうだ。


「こんな風に──破壊しなさい!」


 ヒュオッ


 ルイーズさんはすさまじい速さで、石の彫像に向かってけんを放った。い、いや、見えなかった!


 ドーン!

 

 と音がして、いきなりデルゲス・ダイラントの彫像がバラバラになってしまった! ふ、粉砕だ! 粉々だ……。ど、どうなっているんだ? これがルイーズさんの、英雄のパンチ! なんてすごいんだ!


「あなたもこんな風に、強いパンチ、そして蹴りを手に入れることができますよ」


 ルイーズさんは言った。


「私のエースリート学院に来ればね。でもその前に──。あなたが本当にサーガ族の生き残りであるならば、『秘密の部屋』に行く必要がある」

「『秘密の部屋』?」

「サーガ族は、『秘密の部屋』を必ず、地下に造り、残す風習があるのです」

「『秘密の部屋』……地下……」

「その『秘密の部屋』を見つけて。あなたの隠された能力を、引き出しておきなさい。さ、アリサ、行きますよ」


 ルイーズさんはもう行こうとしていた。


「あ……助けてくれてありがと」


 アリサはそう言って、顔を赤らめた。


「えっと……じゃあね」


 そして僕に手を振り、あわてて、ルイーズさんを追いかける。


「秘密の部屋」……。それは地下にある……? そんなものどこにあるんだ?

 ──いや、僕はすぐに気が付いた。「秘密の部屋」は……秘密の地下室は……ある!

 でも、そこは僕がこの地上で、もっとも恐れている場所にあるのだった。

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