第38話 レイジVSディーボ②

 ついに決勝が始まった。


 僕とディーボはリング上で構えている。ディーボは打ってくるのか? 守るのか?


 するとディーボがいきなり踏み込んできた! 右のストレートパンチ!


 ビュオッ


 速い! 単なるストレートパンチではなかった。

 僕はすんでのところでかわした。普通、ストレートは体をひねるが、そのまま直線的に入り込んできた! ノーモーション・パンチか!


 挙動が分かりにくい──。


 ヒュッ


 ディーボの左から右のフック! そして軽いジャブ。

 僕はすべて手で打ち払った。

 今度は僕の攻撃だ。


 左ストレート!


 ディーボは素早く後退する。すぐに僕は前進し、ボディーブローから、下段蹴り! しかし、ディーボは全てカットする。

 下段蹴りは、スネではなく、足の裏でカットされてしまった。


(ここだ!)


 僕はワン・ツーからの中段蹴り。ディーボは受けたが、これはおとりだ。僕の右アッパー。しかしディーボは、涼しい顔でかわしてしまう。

 代わりに、今度はディーボが左ジャブ、左ボディー。同じ腕で素早く打ってきた。僕はそれを手で払いのけると、すきを見つけて右ストレートを放った。しかし、ディーボはそれさえも、身をかがめてかわしてしまった。

 

 直後、ディーボの右直突みぎちょくづき!


 僕はそれを読んでいたので、後退してかわす。


 ウオオオ……。


「すげえ……」

「速い」

「見えたか、今の攻防?」


 観客たちの声が聞こえてくる。

 すると、ディーボはすぐさま、足を前に運んだ。


 何と!


 僕の胴に抱きついてきた! 組み付くのが、これまた速い。これは倒すのが狙いだ。肩と側頭部を使って、左右どちらかに押し倒してくるはずだ。


 僕はふんばって、すぐさま、ディーボの腕を引きがす。

 ──離れることに成功した! これはケビンとベクターとの特訓の成果だ。


「へえー……ここまでやるとはね」


 ディーボは愉快そうに笑っている。


「うれしいよ……。僕と互角に闘える人間がいてくれたことが」


 ゆらり、ディーボの体が揺れた。


 ディーボが消え……た、と思った時、彼は目の前に現れていた。僕は腕を掴まれ、彼は正面を向いた。

 ボーラスを痛めつけた、伝説の投げ技がくる!


変形山嵐へんけいやまあらし! 切り抜けて!」


 アリサの声がする。僕は彼に掴まれた手を引き剥がした。


 驚いた彼の顔がそこにあった。そこに隙ができていた。

 僕は彼の顔めがけて、右ストレートを放っていた。しかしディーボは姿勢を低くし、五ミリ程度の差でパンチをかわす。


 観客がざわめいている。


「ど、どっちの攻撃も当たらねえじゃねえか!」

「レベル高ぇ~」


 しかし、ディーボはまた組みつけてきた。恐らく、「変形山嵐へんけいやまあらし」を狙っているのだろう。僕は、同じように彼を引きがそうとした。

 しかし、彼は離れない。


 僕は動いて、彼を転ばせようとした。しかし、彼は僕の胴に組み付いたままだ。

 

 僕は強引に、僕の胴を掴んでいるディーボの手を引きがすことにした。しかし、もの凄い力だ。なかなか離れない!


 ううっ……!


 僕が立ち、彼が組み付いて、一分が経過した。僕が動こうとすると、彼も動く。彼が動こうとすると、投げを放ってくる危険性があるので、僕もすぐ反応する。

 ディーボが僕の胴に組み付いたまま、二分が経過。


 三分が経過……。こんな状況、初めてだ!

 

 また観客がざわめきだした。


「おい、なんとかしろよ、この状態!」

「試合になってないぞ!」

「バカ、真剣勝負なんだぞ、こういう状況になっても何もおかしくない」


 すると、審判団の一人が、リング上に上がってきた。組み合っている僕らを見て、言った。


「いったん、離れなさい!」


 僕らはうなずいて、組むのをやめた。その審判団の一人は、リング下に降りて、「再開!」と叫んだ。


 僕らは離れて、また構える。


 ウオオオオッ……。


 観客はどよめく。

 

 ディーボは足をふらつかせた。ん? さっきの三分の組み合いで、スタミナを失ったのか。足しきりに気にして、顔をしかめている。

 

(怪我か? わなか?)


 僕がディーボを観察していると、ディーボはすさまじい速さで、僕の方に近寄ってきた!


 ディーボは素早く、僕の腕を取った。ディーボは僕の腕を取りつつ前を向くと、僕の右スネを自分の右足裏で払った!

 またディーボの変形山嵐へんけいやまあらし


「レイジ!」


 アリサが声を上げる。


(ディーボ! 読んでいたぞ!)

 

 僕はディーボの首を、腕で抱えた。


「ぐっ」


 ディーボが声を上げた。 

 ディーボの首に、僕の締めが決まりかけたのだ。そのまま一緒に、前に倒れ込んだ。

 僕はすぐさま距離を取り──。ディーボが立ち上がって、振り返った直後を狙い……。


 僕は、ディーボのアゴに──突き上げるパンチ、右アッパーを決めていた。

 手ごたえがあった。

 吹っ飛ぶディーボ。


 場内は、ドオオオッと騒然となった。すべてがゆっくり時間が流れていくように思えた。


 ディーボはリング上で仰向けになっている。完全に、アゴの急所にアッパーが決まった。あれは立ち上がれないはずだ。

 審判団の団長があわてて、「ダウンカウントをしろ!」と声を上げた。


『ダウン! 1……2……3……4……!』


 カウントが進んでいく。

 しかし、ディーボはぴくりと動いた。やがてゆらりと体を起こしたのだ。

 顔は真っ青で、滝のような汗をかいている。


 これで終わるのか? それとも? 僕は身構えた。


「これで終わるわけないだろ?」


 ディーボはそう言いながら、ゆっくり立ち上がろうとしている。顔は笑っている。


 僕は、彼のユニークスキル(その人だけに備わっている強力なスキル、能力)──。



【ユニークスキル】痛みの反響魔導力 痛みを二倍にして返す


【ユニークスキル】???



 を思い出していた。


 そうだ、ディーボがこれで終わるわけがない。必ず、何かを隠しているはずだ!

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