第36話 スキル鑑定士② & 決勝当日!

 どうやらディーボは、僕と同様に、スキルを四つ持っており、僕と同じスキルを二つ持っているらしい? 

 しかもそのうち二つは、ユニークスキル(その人だけに備わっている強力なスキル、能力)。その内の一つは、ララベルでも知らない謎のユニークスキル……だそうだ。

 ララベルは言った。


「ディーボって子の試合映像を魔導鏡まどうきょうで見て、鑑定したんだよ~ん」

「ララベル、ディーボも『秘密の部屋』に行ったということ?」


 ルイーズ学院長の問いに重ねるように、ララベルは言った。


「うーん……彼はアルフェウス家の息子でしょう? 『秘密の部屋』に入る資格のある、サーガ族と何か関係があるのかまでは、今の段階では分からない」


 ララベルはいったん言葉を切った。


「さてと、ディーボのスキルをこれから見せるよ。──と、その前にレイジ君。ディーボの試合を間近で見ていたでしょう? 彼の試合には、どの試合にも共通点があるよ。何か分かる?」

「共通点って……」


 僕はしばらく考えていたが、ピンときた。


「ああ、それは、気付いていました。ディーボは必ず最初、攻撃を受ける。ダウン寸前になることもありました」

「どうして、彼は最初に攻撃を受けると思う?」

「いや……分かりません。彼はバルフェス学院の一位です。彼なら、先手攻撃で有利に展開できるはずだと思いますけど」

「うん、その通り。じゃあ、ディーボのスキルを見せるよ!」


 ララベルは水晶球に文字を映し出してみせた。水晶球の表面にはこう書かれてあった。



 ディーボ・アルフェウスのスキル


【スキル】大魔導士の知恵 常人の七倍の判断力


【スキル】龍王りゅうおうの攻撃力 常人の七倍の攻撃力


【ユニークスキル】痛みの反響魔導力 痛みを二倍にして返す


【ユニークスキル】??? 鑑定不可能



「こ、これは!」


 ルイーズ学院長が声を上げた。


「上の二つは、レイジと同じ! 『大魔導士の知恵』と『龍王りゅうおうの攻撃力』は、レイジも持っているスキル! その下の『痛みの反響魔導力』は……?」

「敵から受けた攻撃を、二倍にして返す、特殊なスキルよ。これこそが、彼のユニークスキル! 彼独自だけが持つことができる、強力なスキルだよ」


 ララベルは説明した。


「だ、だから相手の攻撃を受けていたのか!」


 僕は声を上げた。ララベルはうなずいた。


「相手の攻撃を受けた時の『痛み』が、自分の『気』に混ざり合い、攻撃力が高まる、というわけ」

「こ、怖いな……。でも、最も下の『???』は何なんですか?」

「これは、分からない。あたしの水晶球でも見ることができなかったんだよね~。しかも貴重なユニークスキルみたいだし」


 ララベルは腕組みをした。


「いや~、屈辱くつじょくだわ。あたしが鑑定することができないスキルが存在するとは」

「一体、どんなスキルなのかしら」


 ルイーズ学院長も首を傾げている。僕は思い切って聞いた。


「僕にはユニークスキルはないんですか?」

「ない」


 ララベルの即答に、僕は肩を落とした。


「ないと思うけど……水晶球よ、もう一度、レイジ君のスキルを出して」


 ララベルはそう言いながら、僕に手をかざして、水晶球をもう一度のぞく。


「ん……? えええっ?」



 レイジ・ターゼットのスキル


【スキル】大魔導士の知恵 常人の七倍の判断力


【スキル】龍王りゅうおうの攻撃力 常人の七倍の攻撃力


【スキル】獣王じゅうおうの筋力 常人の七倍の筋力


【スキル】神速しんそく 常人の七倍の瞬発力


【ユニークスキル】神の加護 神の加護により、人の悪意をはね返す ←新着!


【ユニークスキル】??? 鑑定不可能 ←新着!



「えええ~? さ、さっきまでは水晶球に映ってなかったのに! レイジ君のスキルが増えてる! こんなの初めて!」


 ララベルは目を丸くして、声を上げた。


「し、しかも、ユニークスキルが二つ! ひ、一つは……【ユニークスキル】神の加護? こんなの初めて見た……。もう一つは? ええ? また鑑定不可能~! キィ~! 再び屈辱~」

「あ、あの~」


 僕はララベルに聞いた。


「突然、僕のスキルが増えたんですか?」

「違うわよ、多分、水晶球が隠してたんだわ!」

「どうして突然、水晶球に僕のユニークスキルが現われたんでしょうか?」

「そ、そうね~。水晶球は知能を持っているのよ。その水晶球が、今日、この時間まで、あなたに備わっていた二つのユニークスキルを、隠しておいた方がよいと判断したんじゃないかしら……多分」

「それってどういう……。あ、そもそも、この僕の隠されていたユニークスキルって一体、何なんですか?」

「え、えーっと……。一つめの【ユニークスキル】神の加護 の方は、『神の加護により、その者の意志で人の悪意をはね返す』って書いてある……うーん……私もよくわからない。もう一つの、『???』の方は、これは鑑定ができないってこと。あたしも知りたい! ぎゃー! 屈辱!」


 ララベルは一通り叫んだあと、ようやく落ち着きながら言った。


「当日は、あたしもレイジ君とディーボの試合を観るから。ディーボとレイジ君の謎のユニークスキル、その時に解明できたらいいよね~」


 ララベルは悔しそうに言った。


 ディーボ……スキル鑑定士でも鑑定できないスキルを持つ少年……。一体、何者なんだ? 勝負をすれば、彼の正体が分かるのだろうか?

 それに、僕にも同様に、『神の加護』っていうユニークスキルと、鑑定できないユニークスキルがあるって?

 それって、どんなスキルなんだろう?




 そしてついに、決勝当日──ディーボ・アルフェウスとの試合の日が来た。


 空は晴天。雲一つない、素晴らしい天気に恵まれた。決勝の対戦場所は、王立競技場「グラントールスタジアム」だ。


 王立競技場の敷地内には、スタジアムが三つある。魔導体術まどうたいじゅつの学生トーナメントや一般トーナメントは、決勝のみ、グラントールスタジアムで行われる。グラントールスタジアムは、グラントール王国国民にとって、特別な場所なのだ。

 五万人収容できて、座席、壁、柱などは大理石、金、銀、などがふんだんに使われている。壁などに彫られた装飾も、グラントールの職人たちが彫り上げた美しく豪華なものだ。

 ちなみに雨が降った時は、天井の屋根が、魔導力によって閉じる。


「えーい!」

「やああっ!」


 リング上では、幼年部の子どもたちによる、魔導体術まどうたいじゅつ演武が行われている。

 拍手も盛大だ。

 すでに客席は、僕とディーボの決勝目当てのお客で、五万人の超満員だ。学生トーナメントの決勝は、国民的行事の中でも最も大きな行事の一つだ。


 二時間後には、僕とディーボの試合が行われる。



 僕は控え室で試合開始時間を待っていた。控え室には、ルイーズ学院長、ケビン、車椅子に乗ったベクター、スキル鑑定士のララベルがいる。


「の、喉が渇いたな」


 僕はケビンに飲料水をもらった。手がプルプル震える。……あー、緊張する。し、試合中におしっこ、ちびったらどうしよう……。

 ルイーズ学院長は、「まあ、緊張するのは仕方ないわよね」と言った。


「グラントールスタジアムで闘える魔導体術家まどうたいじゅつかなんて、大人でもほとんどいないんだから」

「……にしても、レイジよぉ。震えすぎじゃねえのか」


 ケビンは腕組みをしながら僕に行った。僕は言い返した。


「僕の身にもなってみてくれよ。今日はグラントール王や王族たちも来てるって話だぞ」


 僕が文句を言うと、ケビンは呆れたように言った。


「パンチが正確に打てないぜ、こりゃあ」


 その時、控え室の扉が勢いよく開いた。


「ちょっと、変なことになってるよ、レイジ!」


 控え室に飛び込んできたのは、アリサだった。


「レイジ側の花道両側の席が、全部、バルフェス学院の生徒や関係者に買われているみたい」

「どういうことだ?」


 僕は首を傾げて聞いた。花道とは、選手がスタジアムに入り、試合リングに上がるまで歩く道のことだ。左右に観客がいて、声援を送ってくれる。

 僕が試合する場合、花道両側の席には必ず、エースリート学院の生徒たちが座って、声援を送ってくれていた。

 しかし今日は何と、敵側のバルフェス学院の生徒が座ることになる? 僕は嫌な予感がした。


「フン、それはバルフェス学院の──。ディーボ・アルフェウスの作戦だよ」


 スキル鑑定士のララベルは言った。


「こざかしい真似をするよね、ホントに」

「作戦? ディーボは何を企んでいるんですか?」


 僕が聞くと、ララベルはニヤリと笑った。


「レイジ君。これをはね返さないとダメだよ。逆にはね返したら、試合前の段階で、君が精神的優位に立つかも……」

「ええ? どういうことです?」


 僕はルイーズ学院長と顔を見合わせた。

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