第34話 レイジ VS 不良ども二十五名
次の日、僕はさっそく、ケビンと、病院からひそかに抜け出したベクターとで、ディーボ・アルフェウス対策を始めることにした。ベクターは車椅子に乗っている。
場所はエースリート学院の訓練所の練習用リングだ。僕はリングに上がった。ケビンはすでに、リング上に上がって、ストレッチをしている。
(ん? 何か視線を感じるな……?)
にらみつけられるような、嫌な視線だ。誰かに見られてる?
「何やってんだ!」
ベクターがリング下から、僕に声をかける。
「レイジ! 集中しろ!」
「あ、ああ」
「よし、特訓開始だ」
ケビンが声を上げた。
ケビンは僕に対して、掴みにかかる。彼は素早く僕の腰を持ち、
「う、いてっ!」
「ダメだ、レイジ。そんなに簡単に投げられては。投げに付き合うな」
「な、投げられないようにするには、どうしたらいいんだ?」
僕は背中をさすり、立ち上がりながらケビンを見て言った。
「ディーボに掴まれたら、ヤツの手を引き
ケビンの話に、リング下の車椅子のベクターはうなずいた。
「その前に、ディーボに掴まれないようにしろ。掴まれそうになったら、すぐ手を引っ込めろ!」
「ええ? パンチとかを出したら、すぐ掴まれそうだなぁ」
僕がそう言っている間に、ケビンは素早く僕に近づいた。すぐに僕の足を自分の足で内側から払った。
ドダン!
「い、いてぇ! 何するんだ!」
背中を打った僕が声を上げると、ケビンは首を横に振った。
「油断するんじゃねえ! これも投げ技だぜ」
「足が来るなんて聞いてないぞ」
「だから練習するんだよ。今日は百回はお前を投げる」
「お、おいおい~! そんなに投げるのか」
おや? また敵意のある嫌な視線を感じる。僕は訓練所の周囲を見回した。あれ? 倉庫の方に、誰かがいる? 誰だ?
一体何者――?
その時、後ろの方から、「レイジー! 集中!」と女の子の声がした。
声を出したのは、女子下級生に
「レイジ、練習あるのみ、だよ!」
アリサが声を上げると、下級生の女の子たちも、こっちに声をかけてきた。
「レイジさーん! 応援してます!」
「優勝して!」
「かっこいい~!」
下級生の女の子たちは、キャアキャア言っている。アリサは、「さ、こっちも練習、練習」と下級生たちを落ち着かせている。
僕は頭をかきながら、特訓を続けることにした。
放課後、僕はすぐに学校を出た。今日は、ギルドの書類整理のアルバイトがある。明日の放課後は、ルイーズ学院長の知り合いの、スキル鑑定人に会う予定だ。
(何かと忙しいな……)
さて、アルバイトに行くには、公園を通った方が近道だ。
しかし……また嫌な視線を感じる。公園には誰もいない。
僕は振り返った。
「調子良さそうッスね、レイジセンパイ」
公園の木陰から出てきたのは、制服を着崩した、エースリート学院の生徒だった。
バーニーだ! 修学旅行の時に、絡んできたヤツだ。
「お前か? 僕が練習している時、倉庫の方から見ていたのは」
「あ、バレてましたか」
バーニーはポケットに手を突っ込んだまま、僕をにらみつけた。
「勝負しましょうよ、久しぶりに」
(うっ……!)
僕は周囲を見回した。何と、エースリート学院の制服を着た少年たちが、ぞろぞろと公園に入ってきたのだ。三人、いや五人、いや、もっとだ。二十五名の少年たちだ。全員、僕の方を見ている。
(こいつはマズいな)
バーニーは、三年生、二年生、一年生の不良たちを集めてきたようだ。(
くそ、この人数で襲いかかってくる気なのか? さすがに、この人数でこられると……どうなる?
「修学旅行の時の借り、返させてもらうぜ」
「だめだ、やめてくれ」
僕は首を横に振った。
「ディーボとの試合が近づいている。誰も怪我をさせたくないし、こっちも怪我をすると困る」
「はあ? 俺、修学旅行の時、あんたに腹パンでやられたんスよ? ムカついてたんスよね~」
バーニーがそう言った時、少年の集団から、二人の少年が前に出た。背が高いヤツと、背が低いが体が分厚い少年だった。
「背が高いのが、ボルグ・マーシュ。街のケンカでは負けたことがない。背が低いのがランデア・パリシ。
「おい、待っ――」
すぐさま、背が高いボルグが殴りかかってきた。
僕は彼の拳の軌道を見極めた。彼を怪我させないように、素早く腹にパンチを喰らわせた。
「ぐぼほ」
ボルグはうめきながら、崩れ落ちる。今度はパリシが後ろから跳び蹴り。不良がよくやる手だ。後ろから背中を狙うってやつだ。
僕はそれをかわすと、膝を彼の脇腹に叩き込んでやった。
「まぼ」
ランデアが脇腹を押さえて、うずくまる。
「てめぇ、化け物かぁああああっ!」
バーニーは素早く近づいてきて、頭突きをしてきた。――頭突き! この攻撃は受けたことがない。まさにケンカ技だ!
ベキイッ
僕は、バーニーのアゴに肘をかち上げてやった。向こうから頭を出してくれたのだから、簡単にカウンター攻撃をとれる。
バーニーは、僕の肘の直撃を受けて、地面に倒れ込んだ。
三人は地面に尻持ちをついて、目を丸くして僕を見上げている。周囲の二十三名の手下たちも、騒然としている。
「う、うわあ……すげえ」
「攻撃が見えなかったぜ」
「ヤベエ……あのセンパイ」
下級生たちの騒ぎをよそに、僕はバーニーに言った。
「もういいだろ」
「ち、ちくしょう……」
バーニーの横にいたボルグが、懐から何かを取り出した。キラリと光っている! ナ、ナイフだ! くそ!
「やめろ」
バーニーがボルグの手首を押さえた。
「でも、バーニーさん」
「やめろって言ってんだ! ナイフを地面に置け。そんなモンであの人は倒せねえってことが分かっただろ!」
バーニーが怒鳴ると、ボルグは渋々、ナイフを地面に放った。周囲のバーニーの手下たちは、驚いたように顔を見合わせている。
「あ、あんたすげぇよ。俺ら三人をいっぺんに……。あんた何モンだ? いや、そんなこと聞いてもしょうがねえか。学生トーナメント決勝進出者だもんな……」
バーニーは立ち上がり、僕を見て言った。
「――納得いなかなかったんだ。修学旅行の時、あんたに三十秒もかからずに、やられたから……」
「おい、不良やってるより、ちゃんと
僕は説教してやった。人に説教するのは、初めてかもしれない。
「真面目になれよ」
「あ、……そ、そうッスね」
バーニーは頭をかきながら、周囲の少年たちを見回した。
「お、おい、おめえら、レイジさんに頭下げろや!」
周囲のバーニーの手下たちは驚いていたが、やがて僕に頭を下げだした。バーニーも、ボルグもランデアも頭を下げている。
まったく、しょうがないヤツらだなあ。でも、ディーボとの決勝前に、怪我しなくて良かった。
「あ、今、思いついたんスけどね……」
バーニーは言い辛そうに言った。
「け、決勝戦、観にいっていいスか?」
僕はため息をついた。
「ああ、うん。別にいいけど」
「よおしっ! 全力でレイジさんを応援するぜえっ!」
バーニーは声を張り上げた。
「おうっ!」
そこにいる手下連中が、全員返事をする。
僕は苦笑いした。変な援軍ができてしまったが、まあ、いいか。
明日はルイーズ学院長と、スキル鑑定人に会う予定だ。ディーボの秘密が分かるかもしれない!
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