第28話 レイジVSグローバス②

 僕と強敵グローバスとの闘いが続いている。


(グローバスのバカげた打たれ強さ……必ず攻略してやる!)


 ブン


 グローバスは右フックを振り回した。僕はそれを避ける。再び風圧が頭上で感じられる。とんでもない威力だ。当たったら終わり。

 今度は変則的に打ち下ろしてきた! 

 しかし、すきが出来た。


 僕は素早く彼の腹にパンチを叩き込んだ。下から打ち上げる。特殊なボディーブローだ。完全に腹部の急所をとらえたはずだ。しかし、彼はひるんで下がっただけで、ダメージを与えるには至らない。


(何か秘密があるんだ! ……だが、その秘密が分からない)


「相手をよく見ろ!」


 その時、聞き覚えのある男子の声が聞こえた。

 僕がリングの向こうを見ると、アリサがいた。そしてその横に、見覚えのある男子の顔が見えた。何と、入院中のはずのベクター・ザイロスだった。リング下で、車椅子に乗ってリング上の僕を見ている。

 ベクター! 病院にいなきゃダメなんじゃないのか? いや、そんなことを考えている場合じゃない。


「グローバスの秘密は魔力だ! 魔力で防御している!」


 ベクターは叫んだ。魔力で防御……? どういうことだ?


「僕はエルフ族とのハーフだから分かる! レイジ、お前もよく目を凝らせば、ヤツが『魔力防御』で体を守っていることが分かるはずだ!」


 僕はベクターの言う通り、あわてて目を凝らした。うん? ……確かに、グローバスの体全体を、無色透明のもやが覆っているようだ……。まるで蜃気楼しんきろうのようだった。

 そうか、これが魔力防御か! そういえば、エルフ族のジェイニー・トリアも、この魔法防御が得意だったはずだ。彼女は魔力防御が使えるから、男子にも勝つことができる。


「もらったぜ、レイジ!」


 ドカッ


 グローバスはパンチを打ってきた。僕の防御の上から殴りつけて来る。僕はバランスを崩し、転んだが、すぐに立ち上がった。


(何というパワーなんだ! だが、幸いにしてダメージ無しだ。腕はしびれたけど)


「さーて、レイジよ、お前にすきが出てきたぜ」


 グローバスは好機チャンス、と見ているようだ。そうはさせるか!


 彼の魔力防御だって限界があるはずだ。


 グローバスはニヤリと笑った。


「魔力防御に気付いたからって、俺の鉄壁の防御が崩せるわけでもないぜ。何しろ、俺の魔力防御のコントロールは完璧だからな」


 グローバスは体に似合わず、エルフ族のように魔力を使って、全身を守っていたわけだ。だから、仁王立ちでも攻撃を防ぐことができるのか!

 

「レイジ、グローバスの魔力防御をよく見てみろ! どうすりゃいいか、すぐに気付くだろう」


 ベクターの声が響く。


(……すぐに気付く?)


 人間の「気」や「魔力」は、怪我している部分などからあまり放出しない……もしくは暗い光を発する、と聞いたことがあるけど……。


 さっきグローバスが、僕の関節技で右足を痛めたのを思い出した。確かにグローバスの右足だけ、魔力のもやが薄れている。


(ここか!)


 僕は下段蹴りをグローバスの右足に放った。ふくらはぎに叩き込む。


「うぐお」


 グローバスは苦痛に顔をゆがめた。彼は動きが遅くなっているので、簡単に蹴りが入る。

 すると、グローバスの魔力のもやが、全身から消え去った。そうか、集中を切らすと、魔力防御もなくなってしまうのか!


 もう一発!


 僕がもう一度、グローバスの足を攻撃しようとすると、彼は飛びかかってきた。恐らく、足を蹴られるのが嫌なのだろう。僕は両手で突き飛ばされた! 

 とんでもないパワーだ!

 僕は一メートルは吹っ飛んだが、あわててすぐに起き上がった。ダメージは無い! すぐにグローバスの魔力防御を確認する。


 ──彼の体にはもう、魔力のもやがかかっていない! 集中が途切れている!


 グローバスはすぐにまた走り込んできた。今度は走り込んでのパンチだ。これは、弟のボーラスも得意にしているパンチだ!


 バキイ


 鈍い音が響いた。


 僕は咄嗟とっさに右アッパーを繰り出していた。僕の拳は、彼のアゴに直撃している。カウンターの直撃だ……! 僕は身をかがめて、グローバスのパンチを避けることができていた。

 僕のカウンター攻撃が、完全に彼のアゴに入ったが、効果はどうだ……?


「ぐ、は」


 グローバスはそんな声を上げて、よろけた。


 しかし、彼の目は生きている。グローバスは再び、僕の方に近寄ってきて──。

 

 ブン


 拳を振り下ろした。さすがだ、グローバス! だが──、これでケリをつける。もう一撃、やるぞ!


 ベキイッ……


 僕はタイミングを計って、左フックを彼の頬に叩き込んでいた。


 決まった……。


「ウソ……だろ……俺のゆ……め……副……宮廷……護衛隊……長」


 彼はそうつぶやき、やがてガクリと膝を折って、リング上に倒れ込んだ……。つぶやいた言葉の意味は、僕にはさっぱり分からなかった。


 観客は静かになった。彼はうつ伏せになって、リング上に倒れ込んでいる。体は痙攣けいれんいるようだ。


 気付くとゴングが打ち鳴らされ、魔導拡声器まどうかくせいきの声が響いた。


『勝者! レイジ・ターゼット! 八分三十秒、KO勝ち!』


 ドオオオッ


 観客は騒然となった。

 

「うおおおっ、あのチビ、グローバスを倒しちまったぞ!」

「すげえ、あんな巨体のヤツを」


 試合は終了した。僕はすぐに、車椅子に乗っているベクターのそばに降り立った。車椅子を押して連れてきたのは、ケビンだ。


「ベクター! 病院を出てきていいのか?」


 僕は心配して、ベクターに聞いた。


「おいおい」


 ベクターは僕に向かって苦笑いした。


「まずは『アドバイスありがとう』だろうが」

「ああ、ありがとう。助かった……」


 僕は本当にベクターに感謝した。

 しかし、僕は今日、観戦しなければならない試合を思い出していた。


 Bブロックのディーボ・アルフェウスVSボーラス・ダイラント。


 どのような試合になるのか、想像もつかなかった。

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