第26話 ディーボの野望②

 ここはグラントール城。グラントール王国の中央にある、もっとも権威ある場所である。

 その王の間──。


 王座には、赤いマントを羽織り、王冠を被った老人が座っていた。彼こそ、グラントール王だ。

 グラントール王の前に、ディーボ・アルフェウスはひざまずいている。


「ディーボ、お前はとてつもない闘いの才能を持っているそうだな」


 グラントール王は静かに言った。


「はっ、ありがたいお言葉」


 ディーボは頭を下げた。


「しかしディーボ」


 王はつぶやいた。


「お前の先日の試合のことを聞くに、相手を怪我させてしまったそうだが……。名前は、確かベクター……」

「はっ、格闘にはつきものであります。私は未熟者ゆえ、試合では手加減ができません。あれは、相手の選手が気の毒でした」


 ディーボはまるでベクターが、アクシデントで足を骨折したように言った。しかし実際は、ディーボの意図的で悪質な攻撃が原因だった。

 王はアゴに手を当てた。


「ふむ……さてディーボよ。お前は闘いの才能だけではなく、闘いの指導者としての才能もあると聞くが」


 ディーボはパッと顔を上げた。ディーボは少しだけ笑ったように見えた。

 王は話を続ける。


「わしと、このグラントール王国を護衛する者たちを、『宮廷護衛隊』という。彼らは最強の魔導体術家まどうたいじゅつかでもある。しかしながら、やはり年齢とともに、力がおとろえてくるのは当然」

「はっ、それは自然の摂理せつりであります」

「ディーボよ、今は宮廷直属バルフェス学院の所属しておるようだな。卒業したら、すぐに宮廷護衛隊に入ってもらう。その後、一年ほどで、宮廷護衛隊長の座をお前に与える……という話が出ておる」

 

 ディーボは表情は変えなかったものの、心の中でニンマリ笑っていた。宮廷護衛隊長の任命。これこそが、最強の魔導体術家まどうたいじゅつかの証。これに加え、魔導体術まどうたいじゅつトーナメント一般の部で優勝すれば、ほぼ魔導体術家まどうたいじゅつかの頂点となれる。


「魔王復活の噂もあるようだ。専属の預言者たちが、うるさくてかなわわん」


 王はため息をつきながら言った。


「グラントール王国の将来のことを考え、若い魔導体術家まどうたいじゅつかを隊長に任命しろと。お前は貴族のアルフェウス家の出身だったな」

「はっ、ありがたいと思っております」

「さて、お前の『闘いの力』『指導力』を実際に試さなければならん」


 王は言った。


「今、学生個人戦トーナメントに出場しておるようだが」

「はっ、そうであります」

「まず──お前自身の優勝を実現せよ。そして──お前の指導者としての能力も試さなければならぬ」

「はい!」

「では、他のバルフェス学院の生徒も、三位以内に入賞させよ。そうすれば、お前の指導は良いものであるということが証明される。この二つを実現させれば、お前の将来の栄光の道は、確約されたも同然」

「ははっ」


 ディーボは頭を下げた。


「必ず、それが実現できるよう、努力いたします!」




 ディーボは城の外に出た。外ではグローバス・ダイラントが待っていた。


「どうやら、将来の道が確約されたみたいだな、ディーボ」

「ああ。グローバス。僕が宮廷護衛隊長になったときには、お前を副宮廷護衛隊長に任命してやる」

「お、おい。すげえな! 本当かよ」


 グローバスは飛び上がるように喜んだ。宮廷護衛隊に入隊できるだけでも、一生分の名誉は手に入ったも同然だ。それが副宮廷護衛隊長に任命されるとなると、父親のデルゲス・ダイラントでもなしえなかった名誉となる。

 グローバスが父親を乗り越えるチャンスとも言えた。


 ──グローバスはつぶやいた。


「お、俺が副宮廷護衛隊長か。信じられねえなぁ。じゃあ、今回のトーナメント、俺とお前が決勝で当たったら、勝ちはお前にやる」

「……なんだ、八百長やおちょうの持ちかけか?」

「別に構わないだろう。そうすれば、俺は準優勝で三位以内になれる。王に、『他のバルフェス学院の生徒も、三位以内に入賞させろ』と言われたんだろう? その代わり、副宮廷護衛隊長の件、約束だぞ」


 ディーボはグローバスを見てニヤリと笑った。


(このデカブツは世界大会優勝者、デルゲス・ダイラントという後ろ盾がある。色々使えるからな)


「分かった。約束だ。そういえば僕は、お前の弟──ボーラスと試合をするが、本気でやっていいのか?」

「ああ? まあ手加減してやってくれ。あいつはバカだから、体重を利用したパンチしか能がねえからな」


 グローバスは豪快に笑っている。

 しかし──、ディーボは思った。


(先程、グラントール王が言っていたが、ベクターとの試合のように、故意こいに怪我をさせるのはまずい。出世にひびく)


 やはり、正攻法せいこうほうだ。試合では、実力で相手に勝たなければならない。まあ、僕なら可能なはずだ。やはり「あの技」を使うか……。


 さて、問題はレイジ・ターゼットだ。レイジは、グローバスと対戦する。レイジの強さは本物だが、レイジがいくら強くとも、このデカブツ……。いや、このグローバスにレイジが勝つイメージがわかない。

 イメージがわかないのだが──しかし、レイジには「まさか」がある。


 ディーボは、ガハハと笑っているグローバスを注意深く見やった。

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